121話 魔人発見
空を飛んで魔族領に侵入。
銀竜モードのギンちゃんが頑張ってくれたおかげで楽出来た。森を抜ければ魔族領だけど、森も結構広いからね。走っても一日抜けるのにかかる。
流石ギンちゃん。
「今日はこのままずっと東に飛んでね」
「グルゥ」
アザートスさんの領土は魔族領の東半分だ。滅茶苦茶広いね。西半分は数多くの魔王が小さな領地を治めていたらしいけど、今は全てスライムに滅ぼされて消えている。さっき上空を通り過ぎた都市も、スライムとの戦いで廃墟と化していたみたいだった。
少し立ち寄ってみようかとも考えたけど、生命の気配が無かったから無視した。
ここまで生物がいない景色を見続けると寂しくなってくるね。人族領では、閑散とした地域でも野生の魔物や動物はいたからね。何だか、ここは死の大地みたいだ。
まるで命の気配がない。
正直、不気味だね。
遥か先の地平線まで見渡せるけど、生き物らしき存在は見当たらない。というか、既に日が西に傾き始めているから、東の方は暗くてよく見えない。高速で東に向かっている以上は、体感的な日の入りも早くなるだろうし、そろそろ野宿の準備をした方が良さそうだ。
「今日はあの辺りに降りて野営するよ」
「グルッ!」
ギンちゃんが心得たとばかりに下降する。そしてわたしに負担を掛けないよう、静かに着地して見せた。流石ウチの子は出来る奴よ。
取りあえず異空間から食べ物を取り出し、魔法で火をつけて調理する。泊まる場所は土系の魔法で作ってしまえばいいだろう。造形に拘れば、それなりの一軒家が出来上がるハズ。
サラッと流したけど、わたしは異空間を作る魔法を習得した。『加乗次元転位』の応用で、広さは無限だ。ただし、時間は経過するので注意が必要かな。
生物も入れられるから、封印にも適している。
異空間に封印とか脱出手段ほぼないよね。
ともかく、この異空間のお陰でギンちゃんの亜空間を使わなくても良くなった。ただ、亜空間を使ってあげないとギンちゃんが拗ねるから、ギルドカードとか武装とかはギンちゃんに預けている。わたしが居空間に収納しているのは布団とかロープとか、あとは研究資料とか色々だね。
大事なものはギンちゃんに預け、わりとどうでもいいものはわたしの異空間に仕舞っている。
信頼の証だよ!
「ギンちゃんもスライム形態に戻っていいよ」
わたしがそう言うと、ギンちゃんは擬態を解いてスライム状態に戻る。銀竜モードも格好良いけど、やっぱり本来の姿が可愛くていいね。プルプルしていて和む。
この殺伐とした風景の中では唯一の癒しだよ。
この日は癒しを抱きかかえつつ、魔法で作った即席ハウスの中で眠った。
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遂に生物を発見したぞ。
まぁ、発見したのはスライムに襲われている魔族だけどね。
即席魔法ハウスで一夜を明かし、今日も頑張るぞと気合を入れて東に飛び立つこと八時間。砦のような建造物に引きこもって抵抗を続ける魔族と、建造物を取り囲んでいるカラフルなスライムを発見した。
スライムの数は千を越えているだろうか。
正直、砦も陥落寸前に思える。魔族たちも必死過ぎるのか、上空にいるわたしたちに気付いていないみたいだからね。なんかもう、命を懸けて魔法を放っているよ。
わたしの狐耳が捉えた微かに聞こえる声によると、援軍を待っているらしい。
え? 影も形も見えないけど間に合うの?
というわけで助けてあげよう。
「取りあえず『人化』で尻尾と耳は隠そうかな? これなら見た目は魔人とも変わらないし」
人と魔人は見た目に差が無いからね。『人化』を使えば魔人にも擬態できるということだ。魔力も使えるから、まずバレないでしょう。そういう意味では、『人化』って凄いよね。わたしが最も重宝している魔法かもしれない。というか、事実として一番使っているもんね。
「ギンちゃん。わたしはアレを助けてくるからここで飛び降りるよ。ギンちゃんはわたしと反対側に行ってドラゴンブレスでスライムを薙ぎ払っておいて。くれぐれも砦には当てないようにね」
「グルゥ……グルル!」
「じゃ、よろしく」
わたしはギンちゃんの背中から飛び降りつつ、重力制御で減速しながら落ちていく。
目下に的は充分。
これより殲滅を開始しましょうか。
「行くよ」
ギュッと手を握り、儀式方式で魔法を発動する。特定動作で魔法イメージを固め、詠唱の代わりにする手法だ。
空気の断熱圧縮で高温プラズマが発生し、空を明るく照らす。
これには砦を守る魔族も気づいたみたいだった。
ふふん。よく見ておきなさい。
魔法とはこう使うのよ!
「『雷降星』」
同時に六つの『雷降星』を発動させ、小さな太陽となったプラズマ球をスライムに向けて落としていく。炸裂した瞬間に大爆発と熱を放射する凶悪な魔法だ。防御力が高いスライムも一撃で溶かすことが出来るだろう。
ピカッと光り、プラズマがスライムを飲み込む。
これで百体は消したね。
次だ。
「『劫火竜巻』」
風の操作で竜巻を作り、加熱して炎を発生させる。あとは竜巻が炎を強め、際限なく強力な魔法へと変わっていくだろう。いわゆる火災旋風という奴だ。先程の『雷降星』による熱も利用することで効率的に発動できる。
わたしはこの『劫火竜巻』を操作し、スライムを焼き尽くした。
そしてスライムはようやくわたしの存在に気付いたらしい。
羽のようにフワリと着地したわたしへと、大量のスライムが寄ってきた。いや、こいつらは最早スライムじゃないね。わたしの餌だ。
「一対多は得意なのよねぇ。『殺生石』」
生命エネルギーを吸い尽くす凶悪な妖術を発動させる。原種・九尾妖狐にだけ許された最凶の術だ。ただのスライムなど、この『殺生石』の前ではエサにしかならない。
『雷降星』と『劫火竜巻』で消費した分をサクッと回収して回復することが出来た。
敵が多ければ大魔法で殲滅し、霊力や魔力を消費すれば『殺生石』で奪い取り、回復する。実に凶悪な永久機関だね。スライムがゴミのようだ。
「ご馳走様。そしてお返しよ。『熱荷電粒子開放』」
空気を断熱圧縮し、指向性を持たせつつ解放して薙ぎ払う。
これで近場のスライムはほぼ全滅だ。あとは、わたしとは逆方向から回り込んでいるギンちゃんのお仕事だね。
そんなことを思っていると、強い光と共に地面が揺れた。
どうやら、ギンちゃんがドラゴンブレスを使ったらしい。断続的に閃光が走り、大地が揺れる。生命力感知をしてみると、次々と反応が消えていた。流石はギンちゃん、他のスライムとは格が違う。
そしてスライム共は八割ほどが消滅した。
戦闘時間はわずかに三分だけ。カップラーメンを作っている間に終わってしまう程度の戦いだった。まぁ、砦が無ければ『太陽光収束型戦略級魔法・神光』を使って数秒だっただろうけどねぇ。
スライムたちも負けを悟ったのか、塵尻になって逃げ始める。追いかけて潰しても良いけど、ちょっと面倒だから無視していいだろう。
取りあえず、砦の中の人とお話しタイムだね。
あー、尻尾が無いから歩きにくい……