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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
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120話 転移門


 スライムの国【ラグナハイト】。

 万単位のスライムが生息し、獣人種を奴隷のように扱っていると噂の国だ。魔境と化した【イルズの森】の中にあるのは分かっているけど、なにせ森は広い。だから探すのに苦労すると思っていた。

 いや、嘘だ。

 正攻法・・・で探せば苦労するとは思っていた。

 けど、わたしは正攻法など使うつもりはない。

 『精霊創造』で人工精霊ルクスを作り、森全域を捜索させた。ルークが精霊と契約しているから使いたくなかったけど、バレないようにコソッと使いました。

 そう言うわけで【ラグナハイト】と思わしき場所はあっという間に見つけ、さりげなくレオネスさん、ルーク、レオニー君、ベクターさんを案内し、今は例の国が見える位置まで来ていた。



「いやー。凄いもんだね」


「アレが……こんな僅かな間にだと?」


「マジかぁ」


「スライムって魔物だよな? あれがスライムに作れるのか……」


「一理ある」



 わたし、レオネスさん、ルーク、レオニー君、ベクターさんの順で感想を漏らす。

 遠くから見えるのは巨大な城だ。巨大と言っても帝城のように目立つほど大きいわけじゃない。でも、貴族の館よりも大きいから間違いなく城だ。

 そして城を中心として広がっているのは街。

 木造を中心とした自然に馴染む美しい景観を作り出している。

 ただ、街道を移動しているのがプヨプヨとしたスライムってところだけ異常だけど。

 ともかく、国を名乗るだけはある。



「ルシアの情報通りのようだな」


「あら? レオネスさんは疑っていたのかな?」


「情報源が魔王と言われてはな」


「それもそうね」



 今、わたしたちがいるのは大きな木の上だ。

 そこからわたしが光系の魔法を使用し、映像拡大で空間中に映し出している。以前にアザートスさんが見せてくれた魔法を参考にしたやつだ。

 それはともかく、アザートスさんが単騎で乗り込んだというだけあって、彼からの情報はほぼ正しかったと言える。【ラグナハイト】の一部が瓦礫となっているのは、アザートスさんが単騎侵攻したときの傷跡なのだろうね。

 ただ、堕天魔人ルシファーが暴れてあの程度なわけないから、だいぶ修復されているのだろう。彼曰く獣人には被害を出していないそうだけど、修復作業で結構な獣人が働かされたのではないだろうかと思う。魔王、許すまじ。

 まぁ、それは冗談として……



「獣人たちもいるから、魔法を撃ち込んで終わりってのは無理そうね」



 映像にはちょいちょい獣人の姿が映っている。荷運び、建築など、スライムボディでは難しい作業をメインとしてやらされているようだ。ボロ服を着せられ、体のあちこちに生傷が見える。

 うん。これは酷い。



「どうやって救出しようかな……?」


「策はあるのかルシアよ?」


「んー。転移魔法とかなら何とかなるかな?」


「…………なんだか色々おかしな言葉が聞こえた気がするぞ」



 長距離転移は既に完成させたけど、あれって結構面倒なんだよね。計算が。

 でもまぁ、獣人たちを一か所に集めてから一気に転移ならいける気がする。



「ルーク。精霊を飛ばして調査できる?」


「ああ、頼んだぞティス」



 ルークが契約している水の精霊ティスで調査している間に、わたしはもう一度だけ人工精霊ルクスを放っておく。ルクスは伝達を司る精霊だから、情報を収集してわたしに届けてくれるはずだ。今回はそれだけ調査して終わりにしよう。



「おいルシア。今、転移がどうとか言ったな? 本当か?」


「おぅ……レオニー君が食いついてくるとはね。まぁ、使えるよ」


「なん……だと」


「そんなに驚くことじゃない。【マナス神国】だって開発しているし、魔王も使える」



 まぁ、魔道具とか魔法陣で……という制限はつくけどね。

 わたしのように一人で転移魔法を発動できる人は聞いたことが無い。文献にも無かったから、歴史上では使用者がいないことになっている。歴史の裏までは知らないけどね。

 でも、アザートスさんは使えないと言っていた。

 魔法陣で目印を打たないと不可能らしい。

 空間から空間へと跳ぶというのはそれだけ難易度が高いということだね。

 まぁ、驚くレオニー君は放っておいて、調査の方を確認しよう。



「どうルーク?」


「……帰ってきた」



 わたしのルクスも帰ってきたようだ。流石、仕事が早い。



「どうやら国はまだ作りかけみたいだな。これからどんどん広げていくみたいだ。俺たちの同胞はその労働力として扱われているらしい」


「なるほど。映像の通りだね」



 ルークの放った精霊は調べられなかったみたいだけど、ルクスはさらに踏み込んだ情報を持ってきた。どうやら獣人たちを一か所で管理するために、夜は地下牢のような場所に集められているらしい。かなり広い空間を発見したとのことなので、恐らくはそういう用途なのだと考えた。

 でも、この情報をレオネスさんたちに言うつもりはない。

 どうせ言っても役には立たない。

 【ラグナハイト】のある場所まで来るにしても、わたしの協力なしでは不可能みたいだからね。言っても無駄だろうさ。

 ただ、一か所に集められる時間帯があるというのは有用な情報だ。

 転移で一気に逃がすことが出来る。

 まだしないけど。

 確実にスライムを叩き潰せる段階にならないと、被害を増やす結果になりかねないからね。例えば、急に労働力を失ったことで、今までは手を出さなかった人族領にも攻め入って来るとか。魔族領はアザートスさんのせい(おかげ?)で攻めあぐねているみたいだし、可能性としては充分にありうる。

 だから全ての元凶である厄魔原粘カラミティを倒すまでは放置だ。

 強制労働させられている皆には悪いけど、それが最善だからね。



「どうするのだルシアよ? お前なら皆を助けられるか?」


「出来なくはないけど、ちゃんと準備が整ってからじゃないとね」


「そうか……」



 そういってレオネスさんは難しい顔をしている。

 手の届く距離に同胞たちがいるのに、一歩を踏み出すことが出来ない。そんなもどかしさを感じているみたいだ。熊獣人のベクターさんも額に皺を寄せて唸っていた。

 このまま留まっていても情報は得られないし、足手纏いがいる以上は踏み込むのもやめた方がいい。さっさと帰って貰おう。



「とりあえず今日は帰るよ。いいかな?」


「……仕方あるまい」



 レオネスさんが残念そうに判断を降す。

 覇獅子レオンハルトのリーダーがそう言ったことで、他の三人も納得したようだった。

 だが、ここでルークが不意に口を開いた。


「今から帰ったとして、夜までに辿り着けるか? 下手したら街の門が閉まるぞ」



 その言葉にハッとするレオネスさん、レオニー君、ベクターさん。

 確かに、太陽の位置から時間を予測すると、今は丁度おやつの時間帯だろう。魔物が跋扈する森の中では走れないし、森を抜けるのは恐らく夜になる。当然、夜に徘徊する魔物を警戒して街の門は締まっているだろうから、朝が来るまで野宿確定だ。

 何が悲しくて街のすぐ外で野宿しなくてはならないのか……

 ルークが言いたいのはそう言うことだね。

 だが、安心したまえ。



「わたしが転移で送るよ。『加乗次元転位ディスロケーション』」



 わたしが何もない場所に手をかざすと、空間が歪んで白の黒が入り混じった境界面が出現する。転移魔法の一種で、空間を繋げるゲートを作り出すというものだ。自分以外も転移できるので、かなりの良作だと思っている。



「ここを通れば森の外だよ」


『…………』



 何という規格外。

 コイツ、いつの間に一般人を卒業した?

 もう、驚かねぇ……

 はは……笑えん。

 それぞれがそんな顔をしながら黙り込んだ。

 解せぬ……ことはないけど、わたしは魔法学者だよ。これぐらい出来なくてどうする。



「もういいや。ほら、行っちゃいなよ」



 わたしは重力を横向きに作用させて停止している四人を転移門に飛ばす。

 これでもわたしは忙しいんだ。

 慈悲はない。



「ぬおおおおっ!」


「おい、ルシア。ちょ―――」


「――――っ!?」


「む?」



 レオネスさん、ルーク、レオニー君、ベクターさんの順で転移門に放り込み、『加乗次元転位ディスロケーション』を解除する。わたしはこのまま魔族領に行くつもりだからね。ここでお別れだ。

 この『加乗次元転位ディスロケーション』は行ったことのある場所なら自由に繋げられるし、わたしにその気があればいつでも会えるよ。

 ちなみにこの魔法、今までの転移とは少しだけ違う。

 そのため、超長距離でも短距離でも消費は大して変わらない。

 『加乗次元転位ディスロケーション』は次元を増やすことで空間を繋げ、位相変換で転移を可能としている。

 分かりやすく、一次元で話をしよう。

 A点からB点が一本の線で繋がっていたとする。転移は、この線を辿ることなく、本来の経路を飛び越えてA点からB点まで移動することを指す。どうすれば経路を飛び越えられるかと言えば、この線を紐のように考えれば良いのだ。紐の端であるA点とB点を繋げると、輪っかになる。

 つまり、線という一次元は、折り曲げるで円形という二次元になるのだ。

 次に、二次元上の話をしよう。

 紙の上にA点とB点を記し、この二点を繋げるようにして紙を丸める。折り畳むのではなく丸めるのだ。すると二次元だった紙は、三次元の円筒になるだろう。

 何が言いたいかというと、次元を増やすことで空間を接触させることが出来るということだ。

 この三次元空間を折り曲げて四次元に変え、空間を接触させる。

 ただ、これだけでは四次元空間上、三次元上の異なる二つの座標が同じ位置にあるだけで、三次元の世界に住むわたしたちには空間が接触していると認識できない。

 なぜ認識できないかと言えば、それは位相が異なるからだ。

 四次元空間上では同じ位置だけど、位相が異なるから見えない。

 だから仕上げに位相を変換し、空間を繋げてしまうということである。

 そして四次元空間上で三次元空間の二座標を接触させることにおいて、たとえ三次元空間上で一メートルの距離だったとしても、一万メートルの距離だったとしても消費エネルギーに差はない。だから超長距離転移であっても、少量の消費で発動できるということだ。

 空間を折り畳んだり、圧縮したりで繋げる場合、距離に応じて消費エネルギーが上昇していく。それを改善した魔法というわけだ。

 ちなみに、四次元空間と言っても、四つ目の次元は時間じゃない。時間は空間を定義する次元じゃないからね。『加乗次元転位ディスロケーション』で使用している四次元は、わたしたちが住む三次元空間からは認識できない高位の空間だと思って欲しい。

 二次元が三次元に干渉できないのと同じだよ。



「さーてと。ルークたちも送ったし、わたしたちは魔族領に行こうか」


 ぷるん

(行こー)



 フードの中でギンちゃんが震える。

 【ラグナハイト】から離れた場所で銀竜モードになって貰うことにしよう。

 待っててね。

 きっと助けるから。








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