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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
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119話 魔境イルズ探索


 気持ち悪くなるほどの魔素が淀む魔境。

 この【魔境イルズ】も嫌な気配が充満していた。わたしも尻尾感知を切りたくなるけど、魔物を感知できなくなるのは拙いので仕方なくオンにしている。別に死にはしない。ただ、ちょっと気持ち悪いだけだ。これぐらいなら我慢できる。



「何度来ても不気味だな。故郷の森だとは信じられんほどに」



 レオネスさんが呟いた言葉に皆が同意する。

 わたしも十年ほど住んでいたわけだし、以前とは違うことぐらいわかる。ただ、わたしは【魔の鉱山】という別の魔境も経験しているから、驚きとかはなかった。

 あそこでは魔素の泉にまで近づいたからね。流石にあれ程の魔素量だと、感知を切らなきゃ吐きそうになる。その点、【魔境イルズ】は厄魔原粘カラミティが放出した魔素によって出来たと思われる魔境だからね。そこまで魔素は濃くない。



「静かだな……ティスも気味悪がってる」


「近くに魔物が数体いるよ。この距離でも音がしないってことは、隠密を得意とするアサシンスネークみたいだね。魔力に覚えがあるよ」


「アサシンスネーク……確かランクCだった。でも視界が悪い場所ではランクB扱いだっけ?」


「よく覚えているねルーク。あいつらは気配を消し、音や臭いすらも消している。わたしたちのように魔力を感知できればすぐだけど、普通じゃ背後からカブリってされるのがオチだね。毒性は低いけど、長時間にわたって苦しませてくるから注意して」



 隠密を得意とする魔物でも、わたしの感知力の前では意味をなさない。生命力感知は万能だし、魔力感知も魔物相手なら大抵通じる。

 そして、ルークに関してはわたしとは違った感知を持っている。それは契約精霊ティスによる感知だ。昨日の晩、寝る前に彼女を紹介して貰った。ほんわかして可愛らしい精霊だったと言っておこう。

 まぁ、このメンバーで不意打ちを喰らうということはまずないだろう。

 わたしも出来るだけ魔物を避けるルートを使う予定だしね。



「してルシアよ。今回の調査は何を調べるつもりなのだ? 俺たち覇獅子レオンハルトは、森の深いところを確認したいというだけで付いて来ている。ルシアの目的は何なのだ? ただの調査ではないのだろう?」



 唐突に質問してきたレオネスさん。

 あんた意外と余裕だね。

 まぁ、アサシンスネークはいるけど襲われる位置じゃないし、質問ぐらいには答えてもいいか。



「簡単に言うと、スライムに捕まっているわたしたちの同族を確認しておきたいってところかな。スライムが国を作っているってのも気になるし」


「つまり、ルシアの目的は魔境ではなくスライムの国だと?」


「うん。魔境ぐらいなら帝国でも経験しているし、今更調査しなくてもいいかな?」



 いやー。

 こう考えると、わたしって結構な経験値を稼いでいるよね。十六歳にして難攻不落の魔境に慣れているとか色々おかしい。言っているわたし自身もおかしいと思うもの。

 ただ、二か月弱の修行を終えたわたしは更に人外への道を進んでいる。

 霊術、魔術、妖術の三種を使い分け、膨大過ぎるエネルギーを保有した原種・九尾妖狐タマモノマエ。正直、一万の大軍が相手でも数秒で殲滅できるとか自分でも怖すぎるから。

 まぁ、それは良しとしよう。

 取りあえず、殲滅とかは余裕何だけど、味方が近くにいるとか、助けないといけない人がいるとか、そういう状況では取ることのできる手段が限られてくる。そして、獣人を奴隷として扱っているらしいスライムの国で、果たしてわたしが本気で暴れても良いのか? それを調べておくのはとても大事だと思う。



「それにしても魔物が出てこねぇな。本当に魔境かよ?」



 ここで話題をぶった切るレオニー君。

 少しつまらなそうにしていることから、魔物がいなくて暇をしていると見た。けど、魔物に関しては意図的にわたしが避けているんだよ。余計な戦闘はしたくないからね。わたし以外は碌に魔力を使えないし、普段の戦闘能力から下がっている状態で魔境の魔物とは戦わせたくない。

 まぁ、レオニー君はわたしの気遣いを理解していないようだけど。



「黙らんかレオニー。余計な戦いで体力を消耗するのは悪手。魔物が来ないのは良いことだぞ」


「だけどよ親父……」


「今は霊術が使えんのだ。物理がほぼ無効のスライムに会えば逃げることになる。余計な体力を使うのは良くないと分かれ」



 わたしが言う前にレオネスさんが言ってくれた。

 まぁ、言いたくないけど、ルークもレオネスさんもレオニー君もベクターさんも足手纏いなんだよ。強いて言うならレオネスさんとベクターさんはマシかな。

 レオネスさんは身体能力で全てを補える実力者だし、ベクターさんは寡黙だけど堅実さを心がけている。先程から一言も喋っていないのは、周囲を警戒してのことだ。普通、調査において余計な会話は不要だからね。音に敏感な敵に感知されるから、言葉も最低限で留めるべきだと冒険者ギルドで教えられる。

 ルークもレオニー君もそれなりの実力は持っているみたいだ。

 ただ、実戦経験は大したことが無いと見た。

 模擬戦なら多少の無茶も構わないけど、実戦で限界以上のことをするなどアホの行為だからね。都合よく覚醒するとか普通は有り得ないから。わたしの場合は魔法の実験と称して無茶苦茶したこともあるけど、逃げる分の力はしっかりと残していたし、相棒のギンちゃんもいた。

 要は命あっての物種。

 何が起こるか分からない魔境で余計なことは禁物だ。



「そろそろ黙って。ここまで来ると魔物も避けきれなくなる。戦闘は一瞬で終わらせないと追加で魔物がやってくるからね。それが出来ない人は戦闘に参加させないから」


「何だと!?」


「黙れと言ったよレオニー君。それでランクC以上を相手にして瞬殺を実行できる人は?」



 と言っても、出来るのはレオネスさんぐらいだろうね。

 予想通り、名乗り上げたのは彼だけだった。



「俺は出来る。ランクA以上は怪しいがな」


「まぁ、十分でしょう。ルーク、レオニー君は防御に努めてね。まぁ、今回は魔境の奥がどうなっているか、その雰囲気を掴むために連れて来たからね。役に立たなくても想定通りだから気にしなくていいよ」


『うっ……』



 さりげなく男のプライドを砕いておく。

 わたしも悪い女ね。

 まぁ、これをバネにして将来的に強くなってもらうことにしよう。正直、この二人は狐族、獅子族の一般種だから、上位種のわたしやレオネスさんのようには強くなれないだろう。でも、努力すれば冒険者で言うところの強さランクAぐらいになれる。強さランクSオーバーは人外の領域だから、上位種として生まれた人ぐらいしかなれないだろうけどね。

 冒険者でも強さランクがSを越えている人は少ない。

 だからランクSオーバーの依頼って結構消化しきれないんだよね。大体、ランクS超えって一か月に数十件はあるんだけど(もちろん一国あたりね。流石に一都市あたりではない)、世界的に見ればランクS冒険者って九人しかいないからね。わたしも結構忙しかったりしたものだ。

 帝国に居たときは残念勇者イザードとエレンさんが結構やってくれてたけど。

 まぁ、それはどうでもいい。



「あと、ベクターさんは未熟なルークとレオニー君を守ってあげてね」


「俺からも頼むベクター」


「……勿論だ。自分が引き受けよう」



 索敵、迎撃はわたしが担当。レオネスさんは迎撃だけ担当することになった。そして他の三人は各自で自衛してくれることだろう。熊獣人のベクターさんが守ってくれるそうだし、ルークやレオニー君の心配はいらないはずだ。

 んじゃ、わたしも頑張りますか。



(『虚空エンプティ』)



 大気圧をゼロにすることで対象を即死させる魔術。

 忍びつつ近寄ってきていたアサシンスネークを一掃しておいた。

 一応、こうやって近寄る前に敵は消す。せっかく感知できるわけだから、先制攻撃は当然のこと。魔境では魔力の回復も早くなるし、一撃必殺の魔術も使い放題だね。

 このまま、スライムの国【ラグナハイト】とやらを探すとしよう。







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