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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
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118話 森へ


「――というわけなんだよ」


『………………』



 取りあえずこれまでの経緯を軽く説明しておいた。まぁ、改めて語るもの面倒なくらいだから、見事なダイジェストでお送りしましたがね。その結果として、皆さんは完全に黙ってしまっていた。



「それで修行も終わったから、魔王アザートスさんに会いに行こうと思っているというわけなの」


「勇者と魔王が知り合いで皇帝とも親交があるとか……お前の人脈凄いな」


「ふふん!」


「ドヤ顔はやめろ」



 などとルークが申しているようだが、わたしとしても結構な自慢だよ。勇者は残念だから置いておくとして、最強の魔王さんと知り合いってのは結構大きい。

 ただ、覇獅子レオンハルトを纏めているレオネスさんとしては森を魔境化させたスライムの話の方が気になったようだった。



「おいルシアとやら。それでマキナとか名乗るスライムをブチ殺せば万事解決ということだな? それで良いのだな?」


「んー。たぶんね。少なくとも倒さなきゃ進展はないかな。今はスライムたちも魔族領を落とすためだけで精一杯見たいだから、今ならこっちに攻めてこないだろうし、やるなら早めの方がいいかもね」


「ふむ……好機と見るべきか……」



 レオネスさんは何やら考え事をしているみたいだけど、厄魔原粘カラミティはわたしにしか倒せないだろうね。耐久力の化け物だから、多少強い程度では届かない。わたしの『殺生石』のような特殊攻撃が必要になる。

 なにせ、魔王の攻撃にも耐えきったらしいからね。

 余計なことはしないように、釘だけは刺しておこう。



「普通のスライムはまだしも、あいつらのボス……マキナは諦めた方がいいかもね。生物としての格が違うよ。何万人という犠牲を覚悟し、死ぬような思いで食らいつけば、レオネスさんの牙と爪も届くかもしれないけどね」


「それほどか? にわかには信じられんが」


「さっきも説明したけど、マキナは原種だよ。十数年前に現れた黒曜妖鬼ハテンヤシャの話は聞いたことない?」


「……なるほど。理解した」



 どうやら理解はしてくれたらしい。

 納得はしていないようだけどね。

 レオネスさんだけでなく、他の皆も苦い顔をしていた。

 手掛かりは得たけど、実行する力がない歯がゆさだろうね。特に、同胞たちがスライムの国【ラグナハイト】で奴隷となっている現状も知ってしまったから、余計に悔しいのだろう。そして、それと同時に魔境の奥がどうなっているのか気になるのだと思う。

 我慢させるのは良くないかな……



「……一応、魔界に行く前に森の中を見ておくつもりだったけど、一緒に来る?」



 恐らく誰も断らない。

 まぁ、わたしが九尾だってのはバラしているから、実力自体は疑われていないでしょう。恐らくは皆して乗ってくるはずだ。

 そして、当然の如くわたしの予想は当たった。








―――――――――――――――――――







 翌日、わたしたちは魔境と化した森の中に入ることにした。メンバーはわたし、レオネスさんは勿論として、プラス三人だ。一人は精霊魔法による回復要員としてルーク、二人目はレオネスさんの息子レオニー君で、三人目は熊獣人で最強らしいベクターという人だ。ベクターさんは昨日の熊爺さんとは別だね。



「そういうわけだ。よろしくね」


「て、テメェはあの時の!」


「じゃあ行こうか」


「無視すんなコラ!」



 さっそく突っかかってきたねレオニー君。

 だが、わたしはただでさえアザートスさんとの約束から大きく遅れているんだ。今日の確認も一日で終わらせる予定だから、余計なことはしないよ。

 けど、後腐れしないように放っておくわけじゃない。

 やる時はやる。

 中途半端が一番良くない。



「ちょっと黙ろうか」


「なんだと―――ぐえ!?」



 重力系の魔術でレオニー君を押さえつける。

 わたしたち獣人は実力主義だ。こうして差を見せつけることは上下関係をハッキリさせるときに大切なことで、命の危険もある魔境探索で足を引っ張り合うことの無いようにするためにも大事なことだ。



「やりすぎじゃねぇかルシア?」


「いいのよルーク。前回も似たような扱いだったし」


「……哀れレオニー」



 この世は所詮、弱肉強食よ。

 残念ながらレオニー君は父親レオネスさんほどの才能が無いみたいだし、恐らくはこれからも大した業績を残せないだろう。生まれた種で限界値が決まっているため、レオニー君には相応の限界点があるのだ。

 逆にわたしは原種だから、種の頂点。

 ハッキリ言うと、彼とは才能が違いすぎる。

 それに、研鑽した時間と密度もわたしの方が圧倒的に上だ。

 そりゃ、勇者だなんて呼ばれている二人と旅をしていた時期があるからね。それにランクS冒険者として災害クラスの魔物を討伐する機会も少なくなかった。暗殺者と戦ったこともあるし、魔物の大軍を滅ぼしたこともある。

 力の差は当然の結果だよ。



「じゃあ、【魔境イルズ】はこの五人で探索するよ。今回は調査メインだから、戦闘行為は極力避けるようにして欲しい」


「構わん。魔境では霊力が使えず、身体能力だけが頼りだからな。覇獅子レオンハルト内でも森の深いところは調査禁止となっている。魔力も魔術を行使できるほどではないからな。ただ、ルシアは違うのだろう?」


「そうだねレオネスさん。ルークの精霊魔法は特殊だからギリギリ使えるけど、期待できるほどじゃないから慢心しないように」


「分かっているさルシア」



 ルークは眉を顰めているけど、事実だから仕方ない。

 精霊は密度の高い霊素の塊だからね。そのお陰で魔境内部でも存在を保つことが出来る。そして精霊の扱う高密度霊力を使えば、ギリギリで精霊術を発動できるという寸法だ。

 消費霊力は馬鹿にならないし、普段の威力が出ないけど、使えるだけマシだろう。

 正直、スライム相手に物理攻撃は効果薄いからね。遭遇したらわたしの魔術が頼りだ。



「そういうわけだよ。今回、実質的な戦力はわたしだけ。まぁ、魔境に生息する普通の魔物なら大丈夫だろうけど、スライムは魔法じゃないと倒せないからね。遭遇は避け、仮に遭遇してもわたしがやる。くれぐれも突出してはいけないよレオニー君」


「……ぐぅ」


「ああ、重力を掛けたままだったね」



 わたしが魔法を解くと、レオニー君は息も絶え絶えになっていた。

 全く、これから森に入るというのに情けないねぇ。←どの口が



「さてと……」



 改めて【イルズの森】を見る。

 いや、今は【魔境イルズ】だったね。尻尾で魔力を感じ取れば、酔いそうになるほどの魔素が高密度に吹き荒れているのが分かる。魔素は毒のように森を侵食し、魔物が強力になりやすい土壌を生んでいた。

 生命力感知を実行すると、範囲内に何体かの魔物もいる。

 魔境だけあって強さはC級以上だね。

 帝国にあった統計資料によると、魔物の50%はE級、そして30%はD級で、15%がC~A級、残り5%がS級以上となるらしい。魔物の絶対数が多いから、S級以上も結構いるんだけど、こうしてC級以上の魔物ばかりというのは異常な場所だと思わされる。

 スライムに関してはランクAオーバーだから、それが数万体いるとなると結構な大災害だね。

 森の中は視界も悪いし、嗅覚、聴覚、尻尾感知を起動して常時警戒していなければならないだろう。気が抜けないね。



「行こうか」


「おう」


「ああ」


「……ふん」


「……」



 わたしに続いてレオネスさん、ルーク、レオニー君、ベクターさんが順についてくる。

 基本はこの五人縦隊。

 戦闘時は即座に散開することになっている。

 さぁ、調査開始だね。







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