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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争

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116話 覇獅子のアジトへ


「うるさいわ馬鹿め!」



 取りあえず叫んでいるルークとトト君を神速腹パンしておいた。音すら置き去りにするパンチを繰り出した直後、なんだか聞こえてはいけない音がして二人がその場で崩れる。相手を吹き飛ばすパンチの方が派手で強そうだけど、実際は衝撃を後ろに流されているから、こうしてその場で崩れ去るようなパンチが最適解だ。魔力による自然強化を受けたわたしの右ストレートをほぼ百パーセントのダメージ量で喰らった二人が無事なはずない。

 こっそりと回復魔法で内臓ダメージを軽減しておきました。



「ぐ……ぐふっ」


「……効いたぜ……」


「あらー? 突然お腹が痛くなったのかな? 体調管理はしっかりしないといけないよー?」


(((((白々しいっ!?)))))



 この光景を見ていたギルド内の冒険者たちは声をそろえていた。かなり小声で話したようだけど、わたしの狐耳はしっかり捉えていたよ。

 まぁ、この超敏感な狐耳の近くで叫ばれたんだから、ルークとトト君は殴られても仕方ないのよ。つまりわたしは悪くない。証明完了QEDだ。



「この威力……確かにランクSを名乗るだけはあるな……流石ルシア」


「こ、これがランクSか~。オイラも敵わないぜ……」


「いや、言っておくけど、わたしをランクS足らしめている要因は魔法だからね? 体術とか剣術は二の次程度だから」


『嘘だろ……』



 残念。本当だよ。

 わたしの体術や剣術は相変わらずランクC~Bクラスだ。弓に関してはランクA並みに使えるし、魔法矢のことも考えればランクS相応だけどね。

 ただ、近接武器に関してはどうもシックリこないんだよ。『物質化マテリアライズ』で色んな武器が作れるから、一応は色々と試したんだよ。でも、これといった武器が無くて、相変わらず残念勇者イザード仕込みの劣化剣術しか出来ないままだ。

 武器の中でも槍とかポールアックスとかの長物は少しだけ合いそうな感じもしたんだけど、やっぱりどこか馴染まなかったんだよね。身体能力任せの重量武器で火力を叩きだすって戦法も考えたには考えたけど、それなら普通に魔法を使った方が強いから止めた。

 わたしの場合、魔法スキルに偏り過ぎているんだよね。

 まぁ、苦手なりにこれからも頑張ってみるけどさ。



「まぁいいわ。わたしもルークとロロさんには話したいことが沢山あるから、今夜にでも会いたいのだけど大丈夫かな?」


「……う……ああ、俺は大丈夫だ。父さんも今日は家にいる」


「家? ここで家買ったの?」


「いや、覇獅子レオンハルトで購入した集合住宅だ。そこがメインアジト兼メンバーの家になっているんだよ」



 なるほどね。

 確かに、覇獅子レオンハルトは長くこの地で活動しているみたいだから、宿を取るよりも家を買った方が効率的だ。それに集合住宅……前世で言うところのアパートやマンションなら、効率的にメンバーを収容できるし、使い勝手のいいアジトにもなる。

 意外と考えているみたいだ。



「トト君もそこに住んでいるのかな?」


「おう! オイラだけじゃないぜ。覇獅子レオンハルトの皆は例外なくアジトに住んでいるんだ!」



 トト君……もう元気そうだね。

 流石は獣人だけあって回復が早いみたいだ。トト君は上位種族っぽいから余計にだね。

 逆にルークは精霊の力を借りて回復しているみたい。これは水の精霊かな? 精霊は属性に例外なく主を回復させる能力を持っているらしいからね。これも帝国の文献に載っていた。

 それはともかく、覇獅子レオンハルトがここで本格的に拠点を構えているなら話は早い。以前にわたしを勧誘してきた獅子獣人族長直系を名乗るレオニー君に出くわすかもしれないけど、思ったより早くロロさんを見つけられそうだ。

 それに上手くいけば、そのアジトで一晩の宿を借りられるかもしれない。もう夕方だから、宿はどこも埋まっているだろうからね。これは幸先良さそうだ。

 いざとなればルークの部屋に泊めてもらうことにしよう。

 睡眠中に襲ってきたら容赦しないけど、幼馴染のよしみで生着替えぐらいなら見せてあげてもいい。まぁ冗談ですが。わたしのナイスバディは簡単に売らないよ!



「よし、ではルークよ。わたしを連れて行きなさい」


「なんで偉そうなんだよ……」


「実際、偉いからよ!」


「まぁいいや。どうせ父さんに合わせるために連れていく予定だったから。父さん、ルシアのことを探して心配していたみたいだぞ。まさか帝国にまで行っているとは思っていなかったみたいだけど」


「あー、そうなのね。それは悪いことをしちゃったなぁ。会ったら謝らないとね」


「そうしてくれ」



 言い訳すると、残念勇者イザードにほぼ無理やり連れていかれたわけだ。ただ、それは言っても仕方のないことだろう。わたしも割とノリノリで付いていったからね。

 それにわたしも挨拶だけしたら魔界に旅立たないといけない。

 後腐れの無いように、しっかりと憂いは断っておこう。



「じゃあ、案内してね二人とも」


「ああ」


「おうよ!」



 さっきの神速腹パン……じゃなくて冒険者二人が突然お腹を壊す(物理)怪事件もあって周囲の冒険者からも注目を集めていたみたいだけど、やっぱり覇獅子レオンハルトはこの街で浸透しているらしく、わたしが覇獅子レオンハルトのアジトに向かうと分かって渋い顔をしていた。

 これでもわたしは顔やスタイルがいいからね。

 初めていく場所では絡まれることも珍しくないのさ。

 今回に関しては覇獅子レオンハルトが傘になってくれたおかげで穏便に済みそうだ。

 わたしはルークとトト君の案内に従い、例のアジトとやらへ向かった。






――――――――――――――――――――





「へぇ? 結構大きいんだ」


「そうだな。大体だけど……百人から百五十人は住んでいる」


「大雑把だね」


「仕方ないだろ。出て行ったり新しく入ってきたりと忙しいんだから」


「ああ、そういうことね」



 覇獅子レオンハルトのアジトとやらは結構な豪邸でした。わたしが経営している孤児院よりは小さいけどね。まぁ、あれは元々公爵家の邸宅だし、比べるのがおかしいのかな。

 でも、このアジトも帝国で言えば金持ちの子爵から貧乏な侯爵あたりが住む大きさだ。貴族家の意向によっても邸宅の大きさは変わるから一概に言えないため、結構範囲は広い。でも、この大きさなら二百人は余裕で収容できるだろう。詰めて生活すれば倍の四百人はいけるはず。

 覇獅子レオンハルトは結構なお金持ちらしい。

 あ、もしかしたら獣人で商人を遣っている人たちが出資しているのかな? 故郷が魔境に変わってしまったのは心苦しいだろうからね。獣人という種は結束が固いから、ありえることだ。九百年も代々受け継いでいる土地だから、商人として活動する中で数世代ほど森を離れていたとしても、受け継がれた愛着は残っているのだと思う。



「よし、さっそくロロさんに会いに行こう」


「待てよルシア。今日は覇獅子レオンハルトとして活動したから、その報告に行かなきゃいけねぇ」


「早めに終わらせてね。一分経っても帰って来なかったら突然の腹痛に襲われるよ」


「やめろ。そんな予言はいらない」


「ふふふ。これでもわたしは神子様だからね!」



 ああ、久しぶりの神子様設定。

 すっかり忘れていたけど、わたしって狐獣人の中でも偉いんだよね。今は帝国の客分で、皇帝アルさんの盟友で、ランクS冒険者って肩書もあるけど。

 狐獣人族長直系であり、九尾の再来と呼ばれる神子なのだから明らかに偉い人だった。

 わたしは生まれすらチートだったてことですね、はいそうですね。

 まぁ、それはともかく、こんなふうにルークで遊んでいたらトト君が気をまわしてくれた。



「報告ならオイラが言っておくぜ。ルークはそいつを連れて行けよ」


「いいのかトト?」


「オイラに任せな!」



 ピンと張った兎耳が頼もしく見える。あ、でもランクB冒険者だから実際に頼もしいのか。一応、ランクBを越えたら一流と見なされるからね。ランクA以上は貴族様にも対応できるプロフェッショナルなわけだけど。



「なら頼むトト」


「おうよ」



 どうやら話は纏まったらしい。トト君は手を振りつつ背を向けてどこかへ行ってしまった。たぶん、報告に行ったんだろうね。



「トトが報告してくれるみたいだから、俺たちは父さんの所に行くよ。たぶん、今日は団長の所にいると思うから」


「団長?」


「ああ、この覇獅子レオンハルトを結成した獅子獣人族長のレオネス・ハウトさんだ」


「そうなんだ。ってことはレオニー君のお父さんだね」


「レオニーを知っているのか?」


「帝国までわたしを勧誘に来たことがあるから」


「あの野郎……そんなこと聞いていないぞ……」



 まぁ、恥を掻かせて帰らせたからね。報告なんかできないよ。お付きの獅子獣人アシュレイ君もいたけど、誇りある獅子獣人族長直系のレオニー君を辱める報告はしないはずだ。まぁ、族長のレオネスさんには言ったと思うけど、他の種族にまで言いふらす事じゃない。



「そういえば、団長と一緒にいるロロさんは結構偉かったりする?」


「ん? ああ、一応は狐族の代表だ。先に言っておくが、族長やお前の父さん、母さんは見つかっていないんだよ」


「そう……」



 予想はしていたけど、父さまも母さまもいないのか。字とかを教えてくれたおじーちゃんがいないのも寂しいね。アザートスさんの話ではスライム共に捕まった獣人は奴隷になっているって話だから、生きているとは思いたい。



「気を落とすな。すぐに俺が見つけてやるさ。俺だって昔とは違う」


「うん、ありがと。でもね、今もわたしの方が強いのよ?」


「うぐ……それはそれだ。精霊が付いている俺なら探索能力は……」


「わたしって本気を出せば五キロ先まで感知できるよ?」


「ぐぬぬ……」



 探知魔法を使えばそれぐらいはチョロイ。

 何故なら今のわたしには妖術というものがあるからね。それを利用した広範囲生命エネルギー感知はとても便利だと思うよ。



「ま、わたしはロロさんに挨拶した後、すぐにここを出ていくよ。ちょっとある人に呼ばれていてね」


「……また行くのか? お前の両親はどうする?」


「そんな怖い顔しないでよ。別に見捨てる訳じゃない。ただ、わたしは別の人と協力して森を取り戻すつもりだからね。その協力者に会いに行くのよ」


「そんな奴がいるのか?」


「んー。話してもいいけど、混乱すると思うからロロさんと一緒に話すね」


「……わかった」



 魔王アザートスさんのことは秘密にしなくてもいいことだ。帝国と魔王の繋がりは一応秘密だけど、わたし個人としてのコネクションは問題ないからね。

 それに、魔王との繋がりは、これからも役に立つ。

 わたしは森を取り戻すつもりだけど、その後は魔王アザートスさんとも貿易などをしていきたいと思っている所存だ。そしてそれを足掛かりに人族領でも魔族は危険じゃないと浸透させたい。

 もちろん、過激派の魔族もいたのだけど、それはスライムの国【ラグナハイト】に全て滅ぼされてしまったのだ。今残っているのは穏健派のアザートスさん率いる国だけなので、国交を結ぶには絶好の機会というわけである。

 それで、森はわたしとアザートスさんが協力することで取り戻したという体裁があるだけで、国交は結びやすくなる。

 実は【イルズの森】全体を獣人の国として興すつもりなのだ。

 わたしはアドバイスを送ったり、各国とのパイプ――帝国と魔国だけだよ――役となり、わたし自身に後ろ盾を得つつ、安寧の地も得るという計画なのだ。

 つまり、アザートスさんと協力関係であることを宣言することにはデメリット以上のメリットがあるということになる。

 まぁ、結構賭けの部分も大きいけどね。



「着いたぜルシア。この奥が団長たちがいる部屋だ」



 考え事をしている間に案内されて、ルークは一つの扉の前で止まる。

 他の部屋よりも豪華な扉……そして扉横の壁には『会議室』の文字が並んでいる。

 さてと、ようやく対面だよっ!








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