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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
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114話 久しぶりの帰還


 魔王アザートス・ルナティクス・シファー・ドラゴンロードさんと出会ってから二か月経った。わたしはようやく準備を整え、魔界方面へと出発する。

 いや、初めは一か月の予定だったんだよ?

 わたしも、一か月あれば余裕で準備が終わると思っていた。学院や孤児院への手回しはすぐに終わったし、妖術の習得も三日で出来た。ただ、理論段階だった術式を完成させるのに異様なほど時間がかかってしまったんだよね。

 それに山を吹き飛ばし、大地を抉りと荒地を大量生産してしまった。この荒地を魔法で修復するために二週間ぐらいかかったこともあり、最終的には二か月も経過してしまったというわけだ。

 いや、マジでアルさんにも怒られたからね。

 今度から実験する場所も考えないといけないかもしれない。



「とにかく、出発だね。ギンちゃんよろしく」


「グルゥ……」



 銀竜モードになったギンちゃんの背中に乗り、わたしたちは出発する。まぁ、出発と言っても、ここは既に【帝都】から遠く離れた森の中だ。流石に人が多い場所で銀竜モードは見せられないからね。

 確実に騒ぎになるから。



「アザートスさんに約束した時間を大幅に過ぎているし、急がないとね」


「グル!」



 わたしの掛け声に応えて、ギンちゃんは一気に飛び上がる。この空中移動も慣れたもので、空気抵抗を打ち消す風魔法も得意になった。今では無意識での発動も可能なくらいになっている。

 なんせ、ギンちゃんは時速百キロで何日も飛行し続けることが出来るからね。本気を出せば、その五倍は出せるけど、その場合は数時間しか持たない。

 今回は時速二百キロで一日十時間ほど飛行する予定だ。これで【魔境イルズ】まで二日ほどの計算になるかな? 目的地の手前にある【第四都市ハリス】には夜にならないと到着しないかもしれない。



「ギンちゃんの高速い飛行は目立つから……隠蔽結界を張って……っと」



 流石にドラゴンが空を飛んでいるのを見られるのは良くない。下手しなくても大騒ぎになるし、最悪は討伐依頼が冒険者ギルドに寄せられることになる。まぁ、わたしの従魔スライムがドラゴンだなんて想像もできないだろうから、結局は混乱するだけになるだろう。

 要は、世間様を引っ掻き回す大迷惑になるということだ。

 とりあえずはギンちゃんを中心とした相対座標で常時結界を張る。この結界は障壁タイプではなく、領域型の結界で、波動を完全に透過させることができる。つまり、光波は素通りしてしまうのだ。

 モノが見えるという現象は、光がモノに反射してわたしたちの眼に入ることで成り立っている。光を透過させれば、捉えられることはない。

 ちなみに、この結界はかなり消費が激しいため、わたしでも一日中使い続ければ疲れ果ててしまう。一日十時間しか移動しないのは、そういう理由だね。ちなみに、魔力や霊力を使いすぎなければ、二日ほど徹夜で動き続けるくらい訳ない。獣人の体力は恐ろしいね。

 まぁ、今回わたしはギンちゃんの上に乗っているだけだし、読書でもしながら過ごすとしよう。






―――――――――――――――――――――――





 旅は順調に終わった。

 いや、ホントに何のトラブルもなかった。今までアレだったから逆に不気味だと思ったほどだよ。まぁ最近は【マナス神国】の奴らからの介入が多かったから余計に……なんだろうね。

 帝国を出て二日目の夕方には【第四都市ハリス】が見えていた。

 この都市は【イルズの森】に隣接していることから獣人とのかかわりが多く、長閑で過ごしやすい場所だった。でも、魔王ギラからの侵略を受けたり、魔境化によって強力な魔物が近辺に出現するようになり、立派な城塞都市として風貌を変えていた。

 わたしが五、六年前にみた【ハリス】はもっと小さな街のようなものだったが、今では十メートル越えの城壁を持つ大都市に生まれ変わっている。

 正直、場所を間違えたかと思ったほどだった。



「でも近辺の地形に見覚えがあるからねぇ。間違いなくここが【ハリス】だね。ギンちゃん、適当な場所に降りてくれるかな?」


「グルル!」



 ギンちゃんは人気のない場所へと降りていき、最低限の音で着地する。着地の際に足の部分をスライム化させて衝撃を吸収したみたいだ。なかなかに賢い。

 わたしは銀竜モードのギンちゃんから降りて、ギンちゃんは擬態を解除。そこでわたしは隠蔽結界を解除した。ギンちゃんはわたしが冒険者として仕事するときに纏っているローブのフードに入り込み、プルプルと震えて休んでいる。

 マジでお疲れ様だよ。

 距離にして四千キロぐらいか……疲れを知らないスライムじゃなかったら二日で移動とか無理だよね。流石、わたしの相棒は頼りになる。



「さてと……急がなくちゃいけないね。日が沈んだら【ハリス】に入れなくなるかもしれないし」



 わたしは冒険者だから、ギルドカードを見せれば面倒臭い検査もなく入れるだろう。今から急げば余裕で間に合うはずだ。

 有り余る身体能力を使って巨大な城壁を誇る【ハリス】へと近づき、まだ並んでいる人が見える城門へと目指していく。魔境が近くに出来たことで危険度は増したけど、その分だけ強力な魔物から取れる希少な素材も手に入るようになる。商魂たくましい人たちは危険を冒してまで【ハリス】へとやってくるみたいだ。商人と思わしき一行がかなり並んでいるからね。

 一方で冒険者もかなり多い。

 魔境の近くに大都市があるなんて珍しいからね。自らを鍛え、一発大金を狙うために来ている冒険者も多いのだと思う。その証拠に、わたしが感じた限りでも実力者が多い。霊力をかなり保有している人もかなりいるみたいだ。

 まぁ、一番多いのはやっぱり獣人だね。

 故郷である【イルズの森】を取り返すため、日々戦っているのだろう。まぁ、魔境に挑むとか普通に考えれば無理だけどね。

 でも【魔境イルズ】は地面を流れる魔脈から吹き出る魔素によって出来た自然発生型ではなく、スライム原種の厄魔原粘カラミティマキナが発した莫大な魔素によるものだと分かっている。マキナを倒せば魔境化は解除されることだろう。

 そんなことを考えながら列の一番後ろに並ぶと、一つ前に並んでいた兎獣人の少年が声をかけて来た。



「ん? あんた狐族か? 見たことねぇけど、最近やってきたのか?」


「そうだけど……というか今来たばかりかな? ところであなたは? 腰に差しているナイフと身に着けている防具から見て冒険者ってところかな?」


「おうよ。オイラは十五歳だけど、これでもランクBなんだぜ。強さランクもBなんだ! ギルドじゃ『蹴り兎』のトトって呼ばれてんだ。そういうあんたも冒険者だろ? 背中に弓をかけてるみたいだし……矢筒はねぇみたいだけどよ」


「まぁね。わたしはルシア、十六歳だよ。矢は特殊な方法で作成できるから持ち歩かないの。まぁ、言っちゃえば霊術で矢を作れるんだよね」


「へぇ? オイラは霊術には詳しくないから分からねぇけど、凄いんだな!」


「ん。そこそこだと思っているよ」



 なんてね。

 実は世界に九人しかいないランクS冒険者で、さらに強さンクもSSSだなんて思わないだろうなぁ。まぁ、ギルドに行けば自然とバレるだろうし、聞かれない限りは言わなくていいか。



「トト君はここでずっと活動しているのかな?」


「おうよ。と言っても、冒険者をやり始めたのは三年前ぐらいからだけどな! 森で暮らしていたけど、魔境になっちまったからよ……」


「ああ、君もか」


「ってことはルシアもか?」


「まぁね。わたしは五年前くらいに冒険者登録して、今までは【ナルス帝国】に居たんだよ。故郷のことが気になって、ちょっと戻ってきたの。父さまや母さまのことも気になるし、知り合いもいるはずだからね」


「【ナルス帝国】かぁ……オイラも行ってみてぇなぁ」



 トト君は少し羨ましそうにわたしを見ている。まぁ、帝国は色んな種族に対して寛容で、最先端が揃っている大国だからね。強大な軍事力のお陰で基本的に平和だし、ごはんも美味しい。

 憧れる気持ちは分かるよ。実際、楽しい生活だったからね。

 というか、何気にスルーしていたけどトト君凄いな。三年でランクBまで昇格したんだから、かなりの才能があったんだろうね。わたしが言えた義理じゃないけど……

 でも、『蹴り兎』って呼ばれているらしいから、蹴り技が冴えていると思って正解だろう。兎獣人は基本的に弱い部類だけど、それは平均的な話だからね。強い人は普通に強い。今回の場合、トト君は兎獣人にしては珍しい才能を持った子だったんだろう。

 もしくは兎獣人のなかでも上位種として生まれているのかもしれない。

 人、獣人、エルフなどにも魔物と同じく上位種は存在している。この上位種は大抵の場合、天才と呼ばれる人たちだ。圧倒的な頭脳、もしくは凄まじい身体能力を持っている。

 まぁ、見た目では区別できないけどね。

 多分、残念勇者イザードは身体特化系の上位種で、エレンさんも演算特化系の上位種なんだと思っている。本人にも自覚はないだろうけどね。

 だから、トト君も兎獣人上位種である可能性は高い。



「そういえば、トト君は何かの依頼で街の外に出ていたのかな?」


「そうだぜ。森で魔物を倒してきたんだ!」


「ふぅん。その割には荷物が少ないけど……」


「今日はギルドの依頼じゃないからな。『覇獅子レオンハルト』って知っているか?」


「…………ああ、そういえばあったね」


「オイラは『覇獅子レオンハルト』に入っているからな。今日は定期的な魔物排除のために出ていたんだ。ギルドの依頼は週に三回ぐらいで、あとは『覇獅子レオンハルト』が出している魔物掃除をやっているんだ!」



 なるほど。

 魔物掃除だから剥ぎ取りはしないと……ようはボランティアみたいなものか。

 トト君はランクB冒険者だっていうし、週三回でも十分に稼げるんだろう。

 しかし『覇獅子レオンハルト』か。確か【イルズの森】を取り戻すために活動している獣人たちの雄姿団体だっけ? 噂では獅子獣人の長がリーダーをやっているとか。それで以前にわたしのところにも獅子獣人の長の息子を名乗るレオニー・ハウト君だったかがやってきたことがある。

 あのときは断ったけど、今回は彼らの活動目的とも合致するところがあるし、挨拶ぐらいはしておいた方が良いかもしれないね。

 それにもしかしたら、知り合いが所属しているかもしれない。元冒険者だって言ってたロロさんも所属している可能性は大いにある。



「次の方ー」


「ギルドカードだぜ!」


「はい、確認しました」



 おっと。

 トト君と話し合っている内にわたしの番が来たようだ。わたしも冒険者ギルドカードを門番に見せて確認してもらう。その時にランクSと強さランクSSSの文字を見て固まっていたけど、流石にプロだった。すぐに正気を取り戻し、わたしは中へと入れて貰える。



「……嘘だろ。あんな美少女がランクSだなんて……」



 背後からそんな呟きが聞こえたけど、無視だ無視。

 さてと、久しぶりに来たから宿も分からないし、取りあえずはギルドに行ってみようかな!





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