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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
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112話 妖術とは?


 魔術、霊術を合わせて魔法と呼ぶが、妖術というのは初めて聞いた。アザートスさんの言い方から考えれば前者二つとは別の要素だということになると思う。しかも獣人種だけの固有技だって聞いたから、ちょっとだけ興奮している。

 なんかいいよね。

 特別感があって!



「落ち着くのだルシアよ。ちゃんと説明する」


「早く早く!」


「分かったから落ち着けと……まぁいい。ともかく妖術というのは魔術や霊術とは別の力だ。妖力を使って発動する能力で、魔素や霊素と同様に妖素というものが存在する」



 なるほど。

 つまり、獣人には霊力と魔力に加えて、妖力というものがあるということかな?

 そう思って聞いてみたら、アザートスさんは首を横に振って返答した。



「いや、勘違いしているようだから説明しておくが、そもそも魔素と霊素に違いなどない。いや、確かに違いは存在するのだが、根本的には同じものだ」


「どういうこと?」


「それは僕も気になりますねアザートスさん」



 わたしも霊素や魔素については調べて来たけど、共通性なんかほとんどなかった。扱いやすく『静』の性質が強い霊素に対して、魔素は扱いにくく『動』の性質が強い。まるで逆だ。

 いや、そういうことじゃないな。

 アザートスさんは根本的な部分が同じだと言ったんだ。つまり、霊素や魔素の元になっているモノが同じであり、何かの過程で二つに分離するってことか。いや、妖素を含めれば三つだな。



「これは私が過去にネテルから聞いた受け売りも含まれているのだが……まず、魔素や霊素はどのようにして作られているか分かるか?」


「諸説あるよね。魂、霊核や魔核、生命力って言っている人もいる。あともう一つ、有力な仮説があるけどアレックス君は覚えているかな?」


「それぐらい覚えているっての。地脈から自然に吸い取っている説だろ?」


「おお。よく覚えていたね」


「馬鹿にし過ぎだルシア」


「ごめんごめん」



 一応、帝国学院では魂、核、生命力、地脈という四つの説が有力視されている。わたしは生命力が有力だと思っているけどね。

 何せ、魔力とか霊力は消費しすぎると気絶する。これは、生命エネルギーを使い果たして体が休息を求めているってことだと思ったからだ。そして生命力を使いすぎると死に至るから、霊核や魔核はそのストッパーみたいなものじゃないかな? 使いきれば気絶する量を霊核や魔核に溜めておき、霊力や魔力を使い切った時点で強制休息に入るって寸法だ。

 ちなみに生命力ってのは、要するに体力のことね。



「それで答えだが、ネテルは魔素や霊素、妖素の元を生命力だと考えていたらしい。そしてこれが非常にエネルギーの高い状態に励起されると魔素、エネルギーが下がって安定化すると霊素になるといった変化を見せるのだ。魔力による自然身体強化は、生命力が活性化するからという理由になる。だから我々魔族は人族よりも身体能力が高く、寿命も長い」



 ふーん。なるほどね。

 確かにエネルギーの差で性質が変化するものというのはある。

 例えば光だけど、エネルギーの違いで色が変わっている。まぁ、少し違うかもしれないが、要するにこういうことだろうね。



「我々魔族や魔獣には心臓付近に魔核が存在し、人族や霊獣には霊核が備わっているのは知っていると思う。この魔核や霊核は魔力や霊力を溜めておくだけでなく、生命力を魔素や霊素に変換する効果も含んでいるようだ。魔族が魔力を使うのは魔核を持っているからという理由になる。我々ではどう足掻いても霊力は扱えんからな。

 それでだ。何故、獣人は霊力と魔力の両方を有しているのだと思う?」



 簡単だ。

 これまでのアザートスさんの説明を聞けば、言いたいことは分かってくる。



「つまり、わたしたち獣人は妖力を作る核……妖核を持っているってことですかね? で、妖素というのはエネルギー的に言えば霊素や魔素の中間で、普段は存在しにくい状態……ということかな。だから通常は極大にエネルギーが高い魔素と、極小にエネルギーが低い霊素の二つに分けている。何かのきっかけ、もしくは手順を踏めば妖力を精製できると」


「素晴らしい。流石は学者と名乗るだけはある。その通りだよ」



 やっぱりか。

 魔術と霊術で威力に大きな差があるのは、魔素と霊素に大きなエネルギー差があったからなんだね。となると、霊術ってのは少し損した気分だ。まぁ霊素のエネルギーは低めだけど、その分だけ扱いやすさがあるから相殺ってところかな?



「より詳しく説明を捕捉させてもらうぞ。生命力が魔素、霊素、妖素……便宜上これらを総称して感応粒子と呼ぶが、この感応粒子に変化する際、それぞれが持つ核によって性質が変化する。我々が持つ魔核はエネルギーを励起させて魔素に変化させる。人族はエネルギーを安定化させて霊素にするのだ。

 この魔素や霊素に変化するにあたってだが、別に極大や極小にエネルギーを変化させる必要はない。ある程度エネルギーが高い状態になれば魔素だし、ある程度エネルギーが低い状態になれば霊素だ。要は、エネルギーの幅に結構な余裕があるというわけだな。

 だが、その中間点である妖素というのはエネルギー幅が非常に小さい。意図的に緻密な操作を行わなければ妖力は生成できないのだ。具体的には、妖力のエネルギー幅は魔力や霊力の数万分の一以下だと言われている。まぁ、これはネテルが言っていたイメージだから、実際はどうか知らん」



 ああそうか。

 感応粒子は非常に小さいから量子力学的な解釈が必要になる訳ね。

 量子というのはエネルギーの最小単位で、量子力学の世界ではエネルギーが連続して変動しない。つまりエネルギーを小さくしていくと、必ずゼロ以上の限界点が存在するということだ。要するに、量子世界でエネルギーを変化させていくと、数値が飛び飛びに変化するというわけである。

 通常、数字の変化はかなり細かく考えることが出来る。

 0、0.001、0.002、0.003……という風にだ。細かくしていけば、小数点以下無限桁というものを考える必要があるため、人間に扱える数ではない。

 ただ、量子の世界ではエネルギーがそこまで細かく変化しないのだ。0、1、2、3……のように一定の大きさで状態が変化しているのである。詳しく言えば量子数と呼ばれる整数変数によって特定空間に存在する全ての粒子を記述できるのだが、わたしも概要しか理解していないので割愛だ。

 流石に元高校生だから趣味の範囲でしか理解していないよ。

 大学ではもっと詳しく勉強したいと思っていたんだけどねぇ……少し残念だ。

 話しは逸れたが、要するに微粒子というのは絶対に存在できないエネルギー状態というのがあると言いたかったのだ。エネルギー状態1の次はエネルギー状態2であり、小数の1.1とかは存在できないのである。

 この存在できるエネルギー領域において、高い部分を魔素の領域。

 エネルギー領域の低い部分を霊素の領域。

 中間ほどにある極めて小さなエネルギー領域を妖素の領域と思えば良い。

 で、霊核は生命力をエネルギーの低い方へと誘導し、魔核は生命力をエネルギーの高い方へと誘導する作用がある。そしてわたしたち獣人が持つ妖核は霊力と魔力のどちらにでも誘導するのだ。おそらく妖素のエネルギー領域が小さすぎるから、エネルギー領域の大きい霊素や魔素の方へと誘導したがるのだろう。

 これで理解できた。



「うん。大丈夫。理解できましたよ」


「はは。僕にはサッパリわからなかったよ。辛うじて妖力というものがあるってことは理解できたけどね」


「親父もかよ……まぁ俺も分からなかったけど」


「やはりルシアは専門ですから。陛下とアレックス様は簡単に知っておくだけで十分かと」



 反応はそれぞれ。

 まぁ、アルさん、アレックス君、ゾアンは特に知る必要もないでしょ。どうせ妖力を扱えるのは獣人だけなんだからね。

 アザートスさんとしてもわたしさえ理解できれば良かったのか、追加で説明しようとはしなかった。



「これで説明は終わりだ。質問はあるかねルシアよ」


「あ、一つだけ。獣人って殆ど霊力で、魔力は霊力に比べると一パーセント以下しか持っていないんですよね。これって何か理由があるんですか?」


「ああ、それか」



 わたしは霊力も魔力も同じくらい沢山持っているから忘れがちだが、獣人は魔力をあんまり持っていないのだ。まぁ、霊域に住んでいたから魔力が少なくても問題なかったんだけどね。

 ただ、わたしだけ何故特別なのかは気になる。

 すると、アザートスさんは期待した通り、答えを言ってくれた。



「恐らく霊域のせいだな。かつてネテルが作り上げた対魔物用の霊域。そして魔族が無駄に人族領へと侵入しないための壁として作り上げた【霊域イルズ】が全ての原因だ。霊域では魔力が不活性になるから、獣人の妖核は霊力の方へと傾いたのだろう。使えない魔力よりは霊力へと生命力を注いだほうが無駄が無くて良いからな。結果として、不自然なほどの偏りが出来てしまったのだ。まぁ、霊域が消えた以上、数十年もすれば戻るのではないか? もしくは妖術の修行をすればすぐに戻るだろう」


「そういうことね」



 とすれば、わたしが霊力と魔力を同量持っているのは転生特典だと考えた方が良さそうだ。あの管理者もわたしが地球で消費するハズだった寿命を使って有利な条件を付けてくれると言っていたし、これも特典の一つなのだろうと思う。

 これで疑問は解決だ。

 わたしが納得した顔で頷くと、アザートスさんは次の説明を始めた。



「それで例の『殺生石』だが、これは狐獣人の妖術の特性だ。妖術は魔術や霊術のように普通の魔法も行使できるが、獣人種族の違いによって特色ある特異魔法が使える。狐獣人の場合、生命力を奪い取るという効果だ。つまり、『殺生石』はその強化版にあたり、使用すれば対象の命を直接奪い取る。そして、奪い取った力を自分のものとして流用できるのだ。まぁ、普通の狐獣人の妖術では、多少相手を疲れさせる程度しか出来ぬだろうがな。狐獣人の妖術の本領は尻尾による生命力感知だ。お前たちの持つ魔力霊力感知はその名残でしかない」


「尻尾感知にそんなルーツがあったんですか……」


「ちなみに猫獣人は存在感を消す効果、兎獣人は幻惑効果、熊獣人は全てを跳ね返す強靭な肉体、獅子獣人は爪と牙だな」


「え? 獅子獣人の爪と牙って何よ!?」


「腕を振ったら空間が爪で切り裂かれ、牙を閉じれば空間ごと砕かれる。まぁ、遠距離にも対応できるようになるってことだよ」


「何それ恐い」


「言っておくが、お前の能力が一番怖いぞ」



 まぁ、そうだよね。

 生命力を奪い取るってチートかよ。そりゃ『必ず殺す技』なんて言われるわけだ。

 ほら見てよ、アルさんは苦笑しているし、アレックス君は口を開けてマヌケな表情をしている。ゾアンは相変わらず無表情だけど、いつもより少しだけ引き攣っているような気がした。

 いや、君たちね。

 そんな顔しているけど、わたしが一番困惑しているんだよ?

 わたしたちが四人そろって微妙な顔をしていると、アザートスさんはサクッと纏めてしまった。



「私が言いたかったのは、ルシアの『殺生石』で厄魔原粘カラミティの生命力を奪えば、正面から戦わずとも勝てるということだ。そういうわけだ。当然、協力してくれるなルシア?」



 ああ……

 魔王の魔術を数千発喰らって生きているような奴でも、直接生命力を奪われたら倒せるってことね。わたしの故郷も関わっているみたいだし、スライム共は【ラグナハイト】なんて大層な国を名乗って獣人たちを奴隷のように扱っているということだ。

 わたしの答えは既に決まっている。



「ええ、やりますよ」


「そうか。では、妖術の練習からだな」



 しばらくは教師の仕事も休ませて貰わないといけないね。





いままで出てきた、狐、スライム、エルフ、豚、妖鬼、人、地獣、魔人、の原種を最上位、上位、中位、下位、に分けるとどうなりますか?

というかもしかして今代の原種人、原種スライムも転生者ですか?


という質問を頂いたので、後書きの場を借りてお答えします。


最上位:神地王獣ベヒモス

上位:九尾妖狐タマモノマエ神聖霊人ネフィリム堕天魔人ルシファー妖精森王ハイエルフ

中位:厄魔原粘カラミティ

下位:黒曜妖鬼ハテンヤシャ暴喰災豚カタストロフ


そしてスライムの厄魔原粘カラミティは成長度によって中位から最上位まで変動します。

また、格としてはルシア達は上位ですが、技量を上げれば最上位にも勝てます。最上位は神獣クラスの奴らですね。ベヒモスの他にもジズ、リヴァイアサン、フェンリル、フェニックスなどを考えています。物語で出すかは不明ですけどね。



あと、厄魔原粘カラミティ神聖霊人ネフィリムは転生者にしないつもりです。一応、神聖霊人ネフィリムは咬ませ転生者にしようか悩んでいる最中なのですが、少なくとも厄魔原粘カラミティは転生者ではありません。

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