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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
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111話 ここには残念な奴しかいないのか!?


「わたしですか……」


「そう、君だよ」



 いや、いきなり厄魔原粘カラミティを倒す鍵だと言われてもねぇ。どういうことかと言いたい。わたしの霊術や魔術は強力だけど、そういう点ではアザートスさんの方が強い。千年以上も生きている人に魔法勝負で勝てる訳ないでしょ。

 さっき見せてくれたディスプレイ魔術がアザートスさんの魔術技量を物語っている。

 魔力量でも勝てないんだから、厄魔原粘カラミティを倒す鍵だと言われて信じられるはずがない。

 長生きしすぎでボケたんだろうか?



「いや、そんなことないよ」



 ナチュラルに心を読むんじゃない。



「それは悪かった」



 え? マジで心が読めるのこの人!?



「それくらいできるに決まっているだろう。王には必須の魔術だ」



 プライバシーの侵害だぞこの野郎……

 イケメンだから許されると思ったら大間違いだ。



「ははは。イケメンか。そんなことを言われたのは久しぶりだよ」



 黙ってろ魔王。

 はぁ……アザートスさんの魔力が怖いから感知を切っていて気付かなかったけど、確かに魔術が発動している気配がある。魔素の波動性を利用して思念を音波に見立てる魔術かな? 仕組みが分かれば対抗術式も簡単に構築できる。



「はい、これでもう読めないでしょう?」


「ふむ。やるではないか」


「これでも学者なので」


「そう言えば監視からの報告にもあったな……」


「……監視? 報告?」


「あ……やべ」



 おいこら。

 監視ってどういうことだ。

 しかも『あ……やべ』って何よ。今までの尊大な喋り方から一変して急に庶民っぽくなったぞ。しかも分かりやすくらい視線を泳がせているな。魔王の威厳が台無しだ。

 あ、ウインクして誤魔化そうとした。

 顔が良いから見てられるけど、年齢不詳で最低千歳以上のジジイにされてもときめくはずがない。この残念さに何だか既視感が……

 ああ、そうか。

 こいつは残念勇者イザードと同類だったのか。



「いや、何だねその果てしない憐れみを含んだ目は……」


「いや、現実は残酷だったんだと実感していただけです」


「果てなく失礼なことを言われた気分だよ。まぁ、構わんが」



 いや、だってね?

 あの【マナス神国】が警戒して恐れている最強最古の魔王アザートス・ルナティクス・シファー・ドラゴンロードさんがこんな人だったなんてさ……

 やっぱり優秀な人というのはどこか頭がおかしいのだろうか?

 イザードはアホでわたしとエレンさん限定のドMだし、オリアナ学院長は極度の面倒臭がりな癖にあらゆる分野で優秀なエリートエルフだ。ギルドマスターのマリナさんは一見すると完璧美女だけど、酒が絡むと非常に面倒な性格になる。主に性的な方向で。わたしも何度か貞操の危機を感じたよ……

 アルさんも皇帝としては非常に優秀だけど、実は滅茶苦茶腹黒い。以前のイェーダ教団事件の作戦を考案したのはこの人だし、わたしが把握していないところで【マナス神国】にちょっかいをかけていたりする。まぁ息子のアレックス君に手を出されているから当然だけどね。

 共同研究しているサマル教授は誰もが知っている変人だ。

 ああ、思い返せば優秀な人の中にまともな奴がいない。

 え? わたし?

 たまに山を消し飛ばすくらいしかしていないよ!



「ゴホンッ! まぁ、監視していたことは謝ろう。言っておくが、私が君に注目したのは五年ほど前に暴喰災豚カタストロフを討伐したときだ。【イルズ騎士王国】に派遣していた部下から詳細を聞いた時は驚いた。まさか九尾が復活していたとは知らなかったからな」


「そう言えばそんなことやりましたねぇ。てか、派遣なんかしていたんですか?」


「あの時は魔王ギラが人族領を侵略しようとしたリ、【イルズの森】が魔境になったりと事件が続いていたからな。情報収集のために部下を送っていた」


「まぁ、わたしも普段は九尾のことを隠していますけど、あの時は本気で戦うために制限解除してたのでバレたんですね」


「うむ。ネテル以来の九尾だからな。注目するのは当然だ」



 思えば暴喰災豚カタストロフが初めての原種との戦いだった。まぁ、今までに戦ったのはアイツだけだったけどね。一方的にやられた神地王獣ベヒモスはノーカンだ。

 するとここで黙っていたアレックス君が口を挟んできた。



「ルシアお前……強いとは思っていたけど、原種を倒せるレベルだったんだな……」


「いや、わたしも原種だから当然でしょ」


「そうなのか!?」


「あんた今までの会話で気付かなかったの!?」



 会話の中でもわたしが原種であることは話していたはずだ。コイツは話を聞いていなかったのか? もしかして魔王を相手に緊張しすぎて会話が頭に入ってないとか?

 まぁいい。アレックス君が残念なのも既知の事実だ。

 今更気にしたりはしない。



「確かに原種は原種でしか対抗できないが、原種の中にもランクはある。例えば先程話に出た暴喰災豚カタストロフは最下級クラスの原種だ。私なら数秒で片付けられる。それはルシアもだろう?」


「んー。まぁ今のわたしなら」


「そういうことだ。原種にはそれぞれ法則を打ち破るほどの特殊能力・・・・が備わっているのだが……暴喰災豚カタストロフはかなり弱い能力だな。喰らって配下を増やす程度の能力など雑魚同然だ。命の創造と言えば凄まじい効果だが、雑魚を集めたところで意味などない。それに奴自身も魔法への耐性は低めだから私の敵ではないのだよ」



 酷い言いざまである。

 確かにわたしの魔術『雷降星プラズマスター』で瞬殺だったからね。魔法に対する耐性は低めなんだと思う。

 ただ、低いというのは魔王やわたし基準だ。

 一般的にはかなり高めの耐性を持っているから勘違いしていると普通に死ねる。弱いと言っても原種だからね。一般人からすれば絶望レベルの魔物だ。冒険者ギルドではランクSSSオーバーって区分けなんだから当たり前だけど。



暴喰災豚カタストロフを雑魚呼ばわりですか……」


「会話についていけねぇ」


「諦めてください陛下にアレックス様。魔王と魔女の会話です」



 ああ。

 アルさんとアレックス君が遠い目をしているよ。そしてゾアンが何気に酷い。わたしを規格外魔王と同列に扱うとか失礼過ぎるよ。流石の魔女さんも魔王ほどじゃない。

 というか、ゾアンってわたしの二つ名知ってたんだ。

 『魔女』ルシアも有名になったもんだねぇ。

 ところで……



「『法則を打ち破るほどの特殊能力・・・・』って何のことです? 流石のわたしも法則を打ち破るとか無理ですけど? わたしの魔法はあくまでも法則の範囲内です」


「なんだと!? お前はまだ『殺生石』を習得していないのか!?」


「いや、『殺生石』ってなんですか」



 確か九尾の妖狐の慣れの果てが殺生石だったか? 近付く者の命を吸い取ると言われる石だけど、実際は硫黄系の毒物が噴き出ているってのが真実だったっけ。そんな物騒な能力は知らん。



「その顔……やはり知らんのか。困ったな……」



 そんなこと言われても知らんがな。

 あと勝手に納得しないでくれ。説明プリーズ、っというわけでもう一回聞いてみる。



「『殺生石』ってなんですか?」


「先代の九尾ネテルの切り札だった能力だ。九尾妖狐タマモノマエの特殊能力でな。ちなみに技名を付けたのは私だ。九百年前はネテルとも親交があったのでな」



 わお。

 ネテルさんって最高最古の魔王とも知り合いだったんだ。

 …………ちょっと待て。

 『殺生石』と『九尾』の関係って明らかにこの世界の話じゃない。アザートスさんがわざわざ『殺生石』と名付けた理由は……

 わたしはそこまで考えて一つの結論に達した。

 そこで、試しに日本語・・・で話しかけてみる。



『あなたまさか元日本人?』



 十六年前から全然使っていない言語だけど、優秀なわたしは問題なく覚えている。元から全国模試で一桁順位になるほど賢かったし、今でも記憶力や計算能力は桁外れに優秀だ。漢字だってしっかり覚えているからね。

 で、アザートスさんだけど、わたしの日本語を聞いて驚いた顔をしていた。

 ああ、これは当たりだわ。



『まさかお前もかルシア?』


『はー。なるほどね。そりゃ勇者と魔王が友達になれる訳だ。どちらも転生者だったんだね』


『コウタ以外にも転生者がいたとは……しかし、お前の魔法が規格外な理由も分かる。科学的手法を魔法に取り入れたのだな?』


『まぁね。独自に魔法法則を解析して、自分なりに理論を作った。今はもう魔素や霊素についても解析済みだからね。言ったでしょう? わたしは学者だって』


『前世も学者だったのか?』


『いや、普通の高校生』


「なんだと!?」


「驚き過ぎて言語が混ざってるアザートスさん」


『あ、すまん』



 理解した。

 アザートスさんが残念なのは転生者だからか。

 まぁ、この件はあとでゆっくりと話し合うことにしよう。ここにはアルさんとアレックス君とゾアンがいるからね。転生の件は話したくない。アザートスさんも転生時に会った世界の管理者と会話した可能性が高いし、そちらも聞いておこう。

 今はわたしの特殊能力の話だ。

 突然、謎の言語で会話し始めたわたしとアザートスさんに驚いている人たちが三名ほど居ることだし、本題に戻すとしよう。



「あとでキッチリ話し合おうねアザートスさん。それで『殺生石』って何?」


「話を逸らしたのはお前……いや、何でもない。それで『殺生石』だったな。まぁ、言ってしまえば必殺技だな。本当の意味で『必ず殺す技』だ」


「何それ恐い」


「何を他人事のように言っているのだ。お前の能力なのだぞ」



 アザートスさんよ。

 同じ転生者だと分かって遠慮が無くなってきやがったな。

 まぁ、いいや。

 ともかく、そんな物騒な能力なんて知らない。ただでさえ山を吹き飛ばす狂気の『魔女』、なんてギルマスのマリナさんに言われているのに、そんな能力を身に着けたらマジで人外になってしまう。



「まぁ、今のままでは絶対に使えないだろうが……な。妖術・・も知らぬのだろう?」


「妖術?」


「そうだ。獣人族だけが扱える特異魔法が妖術。現代では完全に忘れ去られた力だが、この妖術こそが魔力と霊力の両方を有する獣人の特異体質の証明なのだ」



 ほう……

 『殺生石』はどうでもいいけど、妖術は気になる。

 学者の血が騒いできた。






45話の最後に少しだけ出て来た白いローブの人物。この人がアザートスさんが派遣していた部下です。せっかく伏線張っておいたのに、回収するころには誰も覚えていないとかありそう。

ちなみにスライム原種マキナも結構前に出て来たことあります。20話なんですけど、絶対皆さん覚えてないですよね。


あと『殺生石』

次回に妖術と共に説明します。

112話は出来るだけ早く更新するつもりです。

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