106話 神の光
さーてと……
愚かにもノコノコわたしの前にやってきたギルゲルさんとやらをどうしますかね? 取りあえず殺しておくのは確定として、情報は抜いておきたい。まぁ、わたしの雑な拷問術で情報が抜けるとは思えないけど、可能ならば情報は欲しいところだね。
「まずは逃げられないように足から潰そうかな?」
魔力を使って九つの火球を発生させ、ギルゲルへと飛ばす。火球は青白くなるほど高温だから、触れたら一発で炭化するだろう。
「ちっ! 馬鹿みたいな霊術を使いやがって!」
ギルゲルはそう言いながら回避する。
まぁ、残念ながら霊術じゃなくて魔術なんだけどね。それにわたしも本気で当てるつもりは無かったから、ギルゲルは意外にも回避に成功していた。
ふむふむ。運動神経もそれなりにあるようだね。
「じゃあ、次はこれだね」
今度は土属性の攻撃だ。地面から鋭い槍を発生させる不意打ち技。これがあればゴブリン程度の魔物は瞬殺できる。硬度は鉄以上なので、鎧を着ていても貫けるレベルだ。
だけど、ギルゲルは回避してしまった。
突き出す土槍と同じタイミングで大きく跳び、見事なまでに避けたのだ。何かわたしの殺気でも感じ取ったのかもしれないね。わたしも獣人だから、その手の気配には敏感なつもりだ。だけど、自分が発する殺気とかはコントロールできないんだよね。
でも、これくらいで慌てる必要はない。
氷針の雨。
土弾の雨。
炎槍の雨。
融雷の雨。
こんな感じの魔法を連射して面制圧で攻撃してみた。ギルゲルが若干涙目になっている気がしたけど、今のわたしに慈悲は無い。サリナちゃんを誘拐した罪は重いぞ。死を以て償うがよい。
「畜生! ふざけやがって」
「はいはい。『荷電粒子解放』」
「拙っ!?」
空気をギュッと圧縮して高温プラズマを発生させ、それに指向性を持たせてエネルギー解放する。プラズマ球体の持つ圧力で強制電離した電子の嵐が吹き荒れ、地面が吹き飛んだ。
ギルゲルは服を焦がしながらもギリギリで回避する。
……てか、さっきからしぶといね。
魔道具みたいなので魔法を相殺させたり、類稀なる反射神経で回避を続けている。簡単に殺せると思ったから適当に魔法を使っていたけど、どうやらコイツはわたしが適当にやった程度では死なない実力を持っているらしい。
ちょっと舐めてたよ。
まぁ、情報を抜き取りたいから、すぐに殺す予定はないんだけどね。
念のため、今のうちに一回だけ聞いてみよう。
一旦、魔法の雨を中止して問いかける。
「それでギルゲル。大人しく情報でも吐いてみない? 今なら対価次第で安らかに眠らせてあげるよ」
「はん! 我らが神に誓ってそんなことはするかよ! 死にな!」
残念ながらわたしの通告は聞き届けられなかったらしい。
ギルゲルは魔法が止んだのをいいことに、懐から何か水晶のような物を取り出して地面に叩き付けた。パキリと音がして水晶が破損し、中から膨大な霊力が噴き出る。
なんかデジャヴだね。
四年前に地下水道で出会ったときは、あんな感じの水晶を割られて転移魔法を使われた。
けどギルゲルが逃亡するってことはないでしょ。
なんか『死にな!』とか言いながら水晶を壊しているしね。可能性としては自爆覚悟の強力な魔法が封じ込められているという線だ。流石に魔法が直撃して生きているほど化け物じゃないからね。しっかり防御結界でガードしておこう。
…………
……
…
「あー。そういう魔法だったんだね……」
水晶が割れ、周囲が光りに包まれたから結界でガードしておいた。でもギルゲルが割った水晶に封じられていたのは攻撃魔法ではなく転移魔法。しかも、逃げるための転移ではなく、どこからともなく魔物を大量召喚するための魔法だった。
何が起こったかというと、要するに……
「パッと感知した感触だと千体ぐらい? 良く集めたね……」
「冒険者ギルドがランクS以上に定めた魔物だぜぇ? 流石のテメェもこれで終わりだ」
ヤバめの魔物に囲まれたね。
全部がランクSオーバーなのか。確かに資料で見たことある奴ばかりだね。下手すれば一国が滅びるレベルの物量だ。これなら冒険者ギルド本部がある【ナルス帝国】も落とせるような気がするね。
「こんなのわたしにぶつけるより、【帝都】で直接使った方が早いんじゃないの?」
「残念ながら転移距離が足りなくてなァ。だが国境近くまで来れば不可能じゃねぇんだよ!」
ああ、確かに。
これだけの量を長距離転移させるなんてエネルギー的に不可能だ。いや、エネルギー自体はどうにでもなると思っているけど、そのエネルギーを受け止めるだけの魔道具を作るのが無理だ。むしろ、これを召喚する魔道具を水晶玉サイズにできたこと自体が驚きだね。
【マナス神国】は魔道具が思った以上に進んでいるのかもしれない。
でも、今の問題はそこじゃないね。
まずはランクSオーバーの魔物たちをどうするかだ。
「キシャ――ギッ!?」
「グルアアァ――ギャウ!?」
「――ゴブッ……」
「ギギギ……ゲガッ!?」
取りあえず不用意に近づいてきたトカゲ型のランクS魔物バジリスク・カオス、二頭犬型のランクS魔物ヘルハウンド、ゴブリン(オーガ)上位種のランクSS魔物アシュラ、カマキリ型のランクSS魔物ディザスター・リーパーを即死魔法『虚空』で殺した。
大気圧をゼロにすることで内部から爆散させる便利魔法だ。欠点は範囲が狭いこと。
ランクSオーバーでも『虚空』なら簡単に殺せるけど、この数だったらちょっとだけ面倒な気がするね。
とか考えている内に、ギルゲルがお札みたいなのを地面に張り付け始めた。自分を中心として八方向に一枚ずつ。結界みたいなものかな?
「何しているの?」
「言うかよボケが」
ですよね。
まぁ、あれでしょ。魔物を近づけなくする結界みたいなのでしょ。多分、ランクSオーバーを千体とかテイム不可能だし、自分に被害が及ばないための対策をするのは当たり前だ。恐らくわたしの音魔法『狂乱鎮魂歌』のように、魔物へ影響を与える周波数の音波を利用した陣かな?
まぁ、『狂乱鎮魂歌』は不快感を与えて互いに殺し合わせる魔法だから、少し違うかもしれないけど。
でも、結局ギルゲルの奴が襲われようとも襲われなくとも、わたしには関係ない。どちらにせよ魔物たちは殲滅しなくちゃいけないからね。
まったく……こんなに一杯どこから集めて来たんだか……
「仕方ないね。本気出すよ」
重力制御して空中に飛び上がり、残っている霊力をかき集める。ここに来るまでに結構消費したから、残量は少ないけど、この霊術を発動させるだけなら大丈夫でしょ。
取りあえず空を飛んでる魔物は魔術『虚空』で潰して……
「霊素式投影・光学誘導型収束魔法陣・五重展開」
わたしが右手を空に突きあげると、空中には巨大な魔法陣が展開される。これは霊素を使った魔法陣の空中投影で、『物質化』の応用だ。言ってしまえば、わたしにしか出来ない裏技のようなものだね。
そして展開したのは光を収束する魔法陣。
要するに虫眼鏡魔法だ。
小学校の理科の実験でやる、虫眼鏡使って太陽光を収束し、紙を燃やすアレ。
それを五重に展開した。
一つの光学誘導型収束魔法陣につき、半分の面積まで収束可能だ。そしてそれを五重に展開しているので三十二分の一にまで収束できる。最初の一枚は半径一キロで展開しているから、計算すると、五重収束後は半径177メートルほどにまでなる。これぐらいにしておけば、残りの魔物を全て対象にする範囲になるでしょ。
そして太陽光は一秒につき、一平方メートルあたりで一キロワットほどのエネルギーを地上に降らせてくれている。半径一キロ範囲で計算すれば、一秒で三十億ジュールのエネルギーが降り注ぐことになり、TNT換算すれば750キログラム分の威力だ。
そしてこの魔法。
わたしが望む限り、もしくは霊力が切れるまでは魔法陣が消えないので、一秒ごとにTNT750キログラム分のエネルギーが降り注ぐことになる。
ちなみに霊力が万全なら光を集める範囲を十キロまで増やすことが出来るので、これを使えば一発で都市も蒸発だ。壊滅ではなく蒸発だね。
「『太陽光収束型戦略級魔法・神光』、発動」
その瞬間、天と地を結ぶ光の柱が出現した。
白い輝きを放つ光の柱の周囲は漆黒に包まれ、遥か上空には巨大な魔法陣が輝く。まさに神話とも思える凄まじい光景だ。まさかこれを一人の狐少女が引き起こしているなんて誰が予想できるだろうね。
以前に実験で使用したときは、討伐対象の魔物を山ごと消し飛ばしたからね。あの時は全力の威力を測るために半径十キロ範囲で収束魔法陣を十枚展開させていた。まさか小さめとはいえ山を蒸発させることになるとは思わなかったよ。ギルドに帰ったらギルドマスターのマリナさんに怒られたのはいい思い出。
まぁ、それはともかくとして……
この魔法は地形すらも変えることの出来る危険なものだ。
それに攻撃用のエネルギーは太陽光を流用しているため、コストも低い。全力である半径十キロ範囲、魔法陣十枚展開を実行しても一分ぐらいは発動させ続けることが出来る。ここまでくれば、単純なエネルギーは原子爆弾の三割程度まで到達するだろう。言っておくが、広島を壊滅させた、あの原子爆弾のエネルギーを三割程度までを再現できる威力だ。それが収束によって一か所に集まるのだから、三割と言っても、威力は桁外れと理解して欲しい。
だから魔法銘は『神光』。
ランクSオーバーだろうと、神の光の前には等しく塵に同じ。
「ギルゲルからは情報を抜き取りたかったけど……仕方ないよね」
光が止んだ後に残ったのは、綺麗な円形の更地。
凄まじい熱量で周囲の木々も火災を起こしているようだから、魔術で雨を降らせよう。こんな感じで後始末が大変だから、この『神光』は使いたくないんだよね。まぁ、ストレス発散にもなったから良しとしようか。
千体近くいたランクSオーバーたちも綺麗に消え去った。
わたしも【帝都】に戻るとしようかな。
ギンちゃんもいないから、魔術で空を飛んで帰ろうっと。
ちょっとだけスッキリした顔をしつつ、わたしは【帝都】へと飛んでいった。
多分、計算はあっているはず……