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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
6章 ナルス帝国学院
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104話 魔女 後編

 

 転移魔法。

 時空間系の魔法でも転移先の座標指定が難しく、魔道具でも発動がギリギリだと言われてきた。だけど、わたしは条件さえ整えば転移も使える。例えば、今回のように転移直後で霊素に情報体が残っている場合ならば、トレースする形で『転移テレポート』を発動できるってこと。

 アレックス君も驚いていたみたいだけど、多分そんな暇はない。

 なぜなら転移先は敵の本陣だからね。



「突然現れただと!? 何者だ!」



 おっと、早速エンカウント。

 どうやらどこかの建物内へと転移したらしい。薄暗い部屋の中に確認できるのは、わたしとアレックス君を除いて八人。この中にサリナちゃんは居ない。

 つまり別の部屋か、別の建物へと移動させられたようだ。

 面倒ね。

 まぁ、取りあえずは先に八人を無力化だ。

 情報を引き出すためにも殺すわけにはいかないからね。注意が必要だ。



「『物質化マテリアライズ白鎖縛バインド』」



 八本の鎖を霊素で構成し、一瞬で敵を縛り上げる。暗殺系の技も使われないように、手足は完全に拘束させて貰った。魔法の力で縛っているから、わたしが解除しない限りは抜け出せないハズ。



「バカな! 何だこれは……」



 必死で抜け出そうとしているけど無駄だよ。ワイバーンも動けない特別な鎖だからね。これで鎖を破壊出来たら化け物だ。

 さてと、まずはボサッとしているアレックス君に注意かな。



「ほらアレックス君。ここは敵陣なんだから油断しちゃダメだよ」


「いや、その前に『転移テレポート』って……」


「そんなものはどうでもいいよ。敵だって使ってるじゃない」


「それにルシアの尻尾は一体……」


「見たまま九尾ですが何か?」



 ダメだコイツ。

 状況についていけてないな。

 ここはわたしの尻尾よりもサリナちゃんを早期に救出することが最優先だ。

 ……と、ここでアレックス君よりも先に敵さんが正気に戻った。



「っ! 貴様は『魔女』! なぜここにいる!」


「ほー、その呼び名を知っているんだ」


「ランクS冒険者の『魔女』を知らぬはずが無かろう。くっ! 離せっ!」


「離すわけないでしょ。それよりもサリナちゃんはどこにいるのかな? 吐いて貰うよ」


「誰が! お前たちも絶対に口を開くな!」



 はぁ……面倒だ。

 わたしたちの目の前に転がっている男たち。恰好としては無地の戦闘服で、サリナちゃんを誘拐した実行犯っぽい。見た目からして戦闘員だからね。

 たぶん、実行犯の彼らはサリナちゃんを転移魔道具でここまで連れてくるのが目的だった。そして後は別働班が連れて行ったんだろうね。暗殺特化ではなく、正面戦闘が得意な奴らに引き渡したんだろう。

 取引するときは正面戦闘が得意な奴らを前面に立てた方がいいからね。

 こいつらからは血の匂いもするし、間違いないと思う。



「話したくなったら言ってね」


「誰が……ぎゃああああああああっ!?」



 取りあえずは『白鎖縛バインド』でキリキリ縛り上げて、拷問だ。

 念のため、部屋全体に無音結界を張っておいたから、外には声が聞こえないハズ。まぁ、実は尻尾感知で上の階に数人の霊力を感知しているからね。増援を寄越されたら面倒だし、逆に異変を感じて逃げられると厄介だ。

 取りあえずは情報を先に得たい。



「ぐぎゃあああああああああああああ!」



 リーダーさんっぽい人を締め上げつつ、チラリと他の七人に目を向ける。

 ダメか。こいつらリーダーを見捨てるつもりだな。

 時間があれば情報を抜き取れるかもしれないけど、今は時間が無いし、これ以上は止めておこう。わたしだって拷問は専門じゃないからね。それに好きでもないし。



「仕方ないか。死ね」



 リーダーさんは『白鎖縛バインド』で首の骨を折って殺害する。ついでに他の七人も殺しておいた。こいつらは元から暗殺系だし、裏の仕事もしているのだろう。多分、皇帝直属諜報工作部隊の人たちが拷問しても情報が抜き取れるかは怪しいもんだ。

 ここで殺しておくのが楽だろうね。

 首を折られた八人は数分ほどで息絶える。

 情報は得られなかったけど、感知で上の階に誰かがいることは分かっている。隠密行動で行こう。



「行くよ。アレックス君」


「あ、ああ……」


「ほら。サリナちゃんを早く助けないといけないんだから……しっかりしなよ」



 アレックス君はわたしが簡単に人を殺したことで驚いているようだ。

 まぁ、彼も一応は皇子様だからねぇ。こういったことは慣れてなくても仕方ないか。わたしの場合は冒険者としての活動中に盗賊退治もやったからね。好きにはなれないけど、殺しにも慣れてきた。

 ああ、でも以前にアレックス君が盗賊に捕まったときも、わたしが皆殺しにしたっけ。あの時もアレックス君の目の前で殺したけど……覚えているかな?

 でもまずは……



「いい加減にしろ腑抜け!」


「ごふっ……」



 アレックス君の腹を軽ーく殴っておいた。魔力量の増えたわたしが本気で殴ったら即死だからね。手加減はしてあるよ。



「あんたさっきまでの威勢はどうしたの? サリナちゃんを助けるんでしょ? 敵が死んだからって足を止めているようじゃ……足手纏いだね」


「ぐ……」


「選びなさい。今なら『転移テレポート』で城まで送り返してあげるよ。それとも気合を入れてわたしに付いてくる? 十秒で選ばないと強制的に送り返す。十、九……」



 さてと……アレックス君はどうするかな?

 時間が無いのは本当だから、十秒経っても答えが出せないようなら送り返す。さっき転移魔法を発動したところだし、周囲の霊素に残っている情報体を使えば送り返すことは難しくない。

 まぁ、もとから邪魔だったし、帰ってくれれば楽なんだけどねぇ。



「五、四、三……」


「行く。俺も連れて行ってくれ」



 なんだ残念。

 でも少しは覚悟を決めた顔になったみたいだ。さっきのような足手まといにはならないだろう。あの八人は不意打ちで捕らえたからどうにかなったけど、正面戦闘となれば、弱いアレックス君が先に狙われるに違いない。そうなるとわたしは彼を守りながら戦わないといけないから、大幅な戦力ダウンだ。それで時間をかけてしまい、サリナちゃんを見失う、もしくは人質として利用されては厄介。

 やるからにはアレックス君にもしっかり働いて貰おう。



「じゃあ行くよ。上階に数人いるから、次はそこを確認するね。隠密行動を中心とし、派手な霊術は絶対に避けること。もしかしたら上にいるのがサリナちゃんかもしれないし、人質にされたら何もできなくなるから。ともかく、彼女を取り戻すまでは隠密行動は絶対。わかった?」


「ああ、得意じゃないが努力する」


「足音なんかはわたしが霊術で消してあげるよ。君は出来るだけ気配を殺すようにして」


「わかった。努力しよう」



 何となく不安だけど、彼も努力すると言っているしね。信じよう。

 さて、まずは上の階に上がらないと。部屋に窓が無いこと、そして音の反響具合とかを考えると、今いる部屋は地下っぽいし、外に出るにしても上階には行かないといけない。慎重に行動開始だ。

 まずは風系の術で音を消しつつ部屋の扉を爆散する。

 ドガアアアアアンッ!



「おい! 隠密行動って今お前が言ったばかりだろ!?」


「大丈夫。音は消したから上までは響いていないよ」



 正確には波動魔法ウェイブファンクションによる振動除去の魔法だ。

 音は空気の振動だし、爆発の振動もついでに消せるからね。おそらく上の階では音も爆発の振動も感じ取れていない。

 ちなみに何で扉を爆発させたかというと、扉にトラップが仕掛けてある可能性を考慮してだ。

 かなり低い可能性だけど、除去できる可能性は小さなものでも排除したい。

 だから扉を爆散させた。



「わたしに続いて」


「お、おう……」



 なんかアレックス君が引いてるけど、今は先を急ごう。

 扉を開けた先の階段を駆け上がり、尻尾感知で対象の位置を確認しつつ、移動していく。かなりシンプルな構造の建物らしく、ところどころに魔法的な工事の跡が見えた。たぶん、今回のためだけに建てた拠点何だろう。

 さらに地下から建物の一回に上ると、わたしの狐耳が会話をキャッチした。



『ターゲットは目標地点3まで輸送完了したそうよ。今連絡が入ったわ』


『そろそろ撤収だ。建物ごと爆破して証拠を消すぞ』


『しかしいいのか? 地下には奴らが残っているだろう?』


『所詮は雇いの奴らだ。言っただろう。証拠隠滅だと』


『奴らも可哀想だねぇ』


『ああ、死しても神の元には召されぬ悪行の者だ。こういったときに利用し、始末する。地下の扉にも警告音を発する仕掛けを付けているからな。気づいて逃げ出そうとしても無駄だ』



 数人ほどが会話しているらしいね。

 だけどその内容は物騒極まりない。どうやらさっき殺した奴らは雇われの一味だったようだ。確かに拷問されそうになっても『神の名において――』とか『死しても神の身元に行くのだから恐怖など――』みたいなことは言ってなかった。

 それに今の会話を聞いても、彼らの結末は可哀想なものだと見える。やっぱり扉にはトラップが仕掛けてあったしね。思っていた用途とは違ったけど。

 でも少し残念だ。

 どうやらここにはサリナちゃんがいないらしい。

 ここからどこかへと輸送されたみたいだ。それほど時間が経っていないハズなんだけどね。



「アレックス君。どうやらここにサリナちゃんは居ないみたい」


「何? どういうことだ?」


「移動させられたっぽいね。ただ、話しぶりからすると転移じゃなく、普通の移動手段みたい」


「追えるか?」


「もちろん。だからここは無視して建物を出るよ」


「分かった」



 幸いにも地下への階段と建物の出入り口は近い。

 彼らがいる部屋と関わらなくても脱出可能だ。わたしはアレックス君の足音を消しながら出口へと先導し、外に出た。

 するとそこにあった光景にアレックス君が声を漏らす。



「ここは……」


「どうやら【帝都】近くの森みたいだね。見覚えがあるよ。たしか【マナス神国】側の森だったはずだから、サリナちゃんはそっちに連れていかれたのかもしれないね」


「っ! 早く追いかけるぞ」


「まぁ、ちょっと待ちなって。ギンちゃん出て来て」



 わたしはフードに入れていたギンちゃんを呼び、私の腕の中に納まってもらう。サリナちゃんを輸送している奴らは結構な速さみたいだし、わたしたちも移動手段を講じなくてはならないだろう。まぁ、わたしだけなら走っても良かったんだけどねぇ。



「ギンちゃん。銀竜モード」


 ぷるん!

(任せて!)



 スライムのギンちゃんは私の腕を飛び出し、プルプルと震えながら形を変えていく。内包する魔素を使って肉体を増大させ、さらに変化能力で硬質な竜鱗を纏う。この世界でも最高峰と呼ばれる真竜の姿へと変貌した。

 以前は十メートルほどだったけど、今では三倍の三十メートルはある。

 わたしとアレックス君の二人で乗っても余裕だ。

 唖然として固まっているアレックス君の襟首をつかみ、ギンちゃんへと飛び乗る。



「テイクオフ!」


「グルゥ!」



 竜の姿となったギンちゃんは小さく鳴いて飛びあがる。凄まじい風圧と共に巨体が上昇し、一瞬で上空まで舞い上がった。わたしたちが出来て来た建物も豆みたいに小さい。

 そして流石に竜が舞い上がった音には気づいたらしく、建物から数人ほど白いローブ姿の人が出来てた。そして空を見上げ、指を指しながら何かを叫んでいる。



「あらら、見つかっちゃったね。証拠隠滅しないと♪」



 わたしは右手を天に突きあげ、魔力を使って大気を超圧縮する。断熱圧縮でプラズマ流体を生成し、腕の振り下ろしと同時にそれを放った。まるで太陽みたいに光を放つ高温プラズマ球体が小屋へと着弾し、凄まじい爆発を引き起こす。

 ズウゥゥゥウン……

 跡には赤熱した巨大クレーターだけが残っていた。

 周囲の木々に燃え移っているみたいなので、魔術で温度を下げておく。

 これで問題ないだろう。



「……」



 さっきからアレックス君が黙っていると思えば、どうやら唖然としていたらしい。

 まぁ、驚きすぎたら声も出なくなるからね。

 ちょっと刺激が強すぎたかもしれないけど、まぁいい。

 わたしは『魔女』。

 魔法を極めた女だからね。







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