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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
6章 ナルス帝国学院
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102話 誘拐事件発生

話が一気に進みます!

 

 アルさんが挨拶を終えると、次はオリアナ学院長、学院幹部と順に挨拶をして歓談の時間に移った。この時間になると、誰とでも好きに話していいということになっている。まぁ、貴族の子供たちは互いに牽制しつつアレックス君と話す機会を待っているみたいだね。



「――是非とも我が息子を――」



 皇帝が役に立つと判断すれば、独断で取り立ててもいいことになっている。つまり、将来は皇帝になるアレックス君の印象を良くしておくことが彼らの仕事だ。また、アレックス君も誰が役に立ちそうか、将来性を持っているかを判断しなくてはならない。

 とても忙しそうだったよ。

 その点、平民たちは楽だね。

 やることも無いから好きに料理を食べ、話したい人と話せばいい。卒業後の就職先が決まっている子も多いからね。話題は尽きないだろうさ。



「―――我が家は子爵家で――」



 それにしても暇だなぁ。

 いや、会場外では結界を維持しているし、警戒も怠っていないんだけどね。こういうパーティに参加するのは初めてなんだけど、護衛任務って色の方が強いから、敵が来ないと暇なんだよね。会場内を適当にウロウロしながら歩くしかない。



「待たれよ。そこの美しき方―――」



 …………

 さっきから鬱陶しい。

 貴族たちに声を掛けられるのは何度目だろうね。一応、聞こえないふりをして華麗にスルーしているんだけど、次から次へと声を掛けてくる。何だよこいつら。イオンなのか!?

 わたしは恋愛結婚する気しかないぞ。

 どうせお前たちの狙いはわたしの胸元だろう。わかってんだぞ。

 さっきから視線を感じるからね。レディの胸をガン見するなんて失礼にも程がある。ここがパーティ会場じゃなかったら密かに魔法で転ばしていた。



「おやお嬢さん。とても素敵なペンダントで――」



 はいスルー。

 まったく……どうにも盟友のペンダント狙いな人が多いね。一応は公式の場だから付けて来たんだけど、面倒が起こるなら失敗だったかもしれない。でもアルさんも出てくるパーティだから付けないわけにもいかないんだよねぇ。

 あーメンド。

 わたしはただの学者で教師でランクS冒険者でしかないってのに……貴族なら貴族らしく優雅な相手を見つければいい。冒険者歴が長いわたしは結構ガサツだからね。取り繕うことは出来るけど、気を抜いたらボロがでる。

 だから基本的には壁の花になっていたい。

 まぁ、壁に近づいた瞬間に囲まれるんだけどね。

 こっちは護衛で来ているから、すぐに動けない状況は避けたいし、余計なことに集中しないといけないから勘弁してほしいよ。




 ……とここで会場に変化が起きた。

 変化って言っても会場の裏口から皇帝直属諜報工作部隊の人が入ってきただけだ。音もなくアルさんに近づいているけど、姿は侍従に似せているから誰も止めない。まぁ、わたしも止めるつもりはない。多分何かの報告でしょ。

 一応霊術で内容を聞かせて貰いますか。

 ああ、ちなみに盗み聞きの許可は得ているよ。時間短縮のために、アルさんへの報告=わたしへの報告ってことにしてあるから、勝手に聞いても問題ない。

 えっと……



(陛下、大変なことが)


(どうしたメイル?)


(サリナ様が部屋から消えました。いえ、連れ去られました)



 はぁっ!?

 サリナちゃんが誘拐されたの!?

 ちょっと待てや!



(どうなっている!? 警備は万全だろう! それに彼女の部屋は学院の六階にある控室だったはずだ)


(どうやら飛行型魔物をテイムし、窓から襲撃したようです。そして転移と思われる魔道具で連れ去られてしまい……この失態は私の責任です)



 おいおい。

 まさかそっちを狙ってくるとは思わなかった。



「少しよろしいですかお嬢さん」



 って、あっ!

 思わず足を止めちゃったから面倒臭い貴族に捕まった。



(ルシア、聞いているね?)



 今度はアルさんかーっ!

 あの皇帝ってば、わたしが盗み聞きしていること前提だな。聞いているんだけど、目の前の貴族が逃がしてくれなさそうだ。どうしてくれる馬鹿貴族!

 いや、冷静になるのよわたし。

 ここはわたしだけが使えるジョーカーを切るべきシーンだ。

 えっと……確かにレイク伯爵だっけ?



「ごめんあそばせ? どうやら陛下がお呼びになっているようです。お話ししたいところですが、またの御機会にしていただけますかレイク伯爵?」


「あ、ああ。済まない。それでは仕方ないですな」



 ったく! お前なんかの相手をしている暇はないんだよ!

 取りあえず、焦らず速やかにアルさんの近くまで移動だ。アルさんもわたしが近寄ってきたのを見つけたのか、鋭い視線を向けてくる。



「状況は聞いた通りだ」


「分かってますよアルさん。わたしがやるんですよね? ちなみに相手の要求は?」


「どうやら私の退位と帝国の軍事情報の提供らしい」


「思いっきり戦争仕掛ける気ですね」


「まったくだ。流石に要求は飲めない。ルシアがサリナを見つけられなければ……見捨てるしかない」



 責任重大ですね分かります。

 アルさんは言わなかったけど、やっぱり相手は【マナス神国】みたい。わたしもまさかサリナちゃんを狙ってくるとは予想してなかったからね。彼女の部屋には結界を張ってなかったんだよ。

 これはわたしも悪い。



「アルさんとアレックス君の護衛はどうします?」


「諜報工作部隊を厳重配置して私の護衛にしよう。普段から私の護衛は彼らなのだからな。そしてアレックスは君が連れて行ってくれ。アレックスにも知らせないわけにはいかないし、知れば行くと言い出す。ならばルシアが護衛してくれ」



 それでいいのか皇帝。

 つまりアレックス君を危険な場所に連れて行くということだ。わたしとしても相手の戦力が未知数だし、人質を助け出すという繊細な任務に足手纏いを連れて行きたくはない。でも、アレックス君が勝手に動いて面倒になるのもダメだ。

 パーティの終わりには立太子の儀と婚約式があるし、それまでにサリナちゃんを連れて傷一つなく帰らないといけない。タイムリミットは三時間……を切っている。

 条件が厳しすぎる。

 泣いていいかな?



「頼むルシア」


「が、頑張るけど……時間が厳しいから、間に合いそうになかったら引き延ばせます?」


「わかった。飛び入りの余興で皇室の楽団を呼ぼう。三十分は稼げる」


「そ、それだけですか……」



 仕方ない。

 アルさんに期待されているということにしておこう。

 するとここに、別の諜報工作部隊の人から話を聞いたアレックス君も近寄ってきた。乱暴に貴族令嬢たちを押し退けているのは頂けないが、状況が状況だから仕方ないかもしれない。

 アレックス君は開口一番にわたしを罵った。



「おいルシア! どうなっている。警護は完璧じゃないのか! お前の警護が雑なせいでサリナが攫われただろう!」



 小さな声で叫ぶという器用なことをやってのけるアレックス君。どうやらご立腹のようだ。

 でもごめんよアレックス君。

 サリナちゃんの待機部屋の警備担当はわたしじゃないんだ。隣にいる諜報工作部隊の人なんだよ。確かにサリナちゃんが狙われる可能性に捨てていたわたしも悪いけど、そんな悲しいことは言わないで欲しいなぁ。



「待てアレックス。サリナの警備担当はルシアではない。彼女に当たるな」


「だが……」


「今はそんなことを言っている場合ではない。アレックス、お前はルシアと共にサリナの救出に向かえ。パーティの終わりまでに帰って来るんだ」


「……わかった。早く行くぞルシア」



 まったく。

 アレックス君も一途だね。

 男としては格好いいよ。

 でもね……

 わき目も降らずに一人の女性を思う気持ちは素晴らしいけど、君は皇帝の息子だ。焦燥した表情で慌てて会場を飛び出したら、どんな噂が立つか分からない。取りあえずシャキッとしろ。



「……って言っても遅いかな?」



 アレックス君は会場を飛び出していってしまった。

 仕方なくわたしは追いかけることにする。ヒールが鬱陶しいけど、一旦は我慢してサリナちゃんが攫われた部屋まで向かうことにしよう。

 後ろをチラリと向くと、アルさんが強い眼差しでわたしを送り出していた。


 まぁ、安心してよ。

 久しぶりに本気を出すから。






―――――――――――――――――――――







「ここか!」



 アレックス君は勢いのまま扉を開き、例の部屋に走りこむ。数歩遅れてわたしも部屋に入り、その惨状を確認した。



「く……」


「これは酷いね」



 机はひっくり返され、カップは床に落ちて割れている。さらにソファは切り裂かれ、側には護衛で張り付いていた諜報工作部隊の人が事切れていた。首の動脈を綺麗に裂かれて失血死したらしい。部屋には血の匂いが充満している。さらにもう一人の護衛も背中から心臓を一突きされて死んでいた。

 おそらく扉の外で守っていた人が中の騒ぎに気付き、わたしたちに知らせてくれたんだろう。

 わたし達より先に部屋を調査していたゾアンが近づいてくる。



「アレックス様、ルシア……この通りだ」



 ゾアンは残念そうに首を振りつつ口を開く。

 まぁ、見れば分かるよ。たぶん、不意を突かれて瞬殺だったんだろうね。まさか六階の窓から侵入してくるなんて予想できるはずもないし、窓を破られて驚いている内に殺されたんだ。それでも皇帝直属諜報工作部隊のメンバーをあっさり殺したことから、かなりの手練れだったと理解できる。

 つまり【マナス神国】も本気で犯行に及んだということだ。



「サリナ……」



 アレックス君は両手を握りしめて悔しそうにしている。

 そうだろうね。

 こんな惨状で、さらにサリナちゃんはどこにいるのかもわからない状況だ。不安に思い、怒りに震えても仕方ない。相手が転移魔法で逃げたんだから、ゾアンでも痕跡を追えないし。




 だけど奴らはわたしのことを軽く見ている。

 そういうわけだ。

 少しだけ教えてあげよう。

 ランクS冒険者、『魔女』ルシアの本気をね。







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