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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
1章 特別な存在
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9話 非常事態

や、やってしまった。


事故とはいえルシアちゃんとキ、キ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


火球ファイヤーボール』をくらって気絶してるうちに彼女は消えていた。

そりゃそうだ。むしろ直撃させずに足元を狙ってくれただけでも感謝しよう。

怒らせると怖いことは身に染みている。


昔いじめられていたところを助けてもらって、そのあと仲良くなって、水遊びして、ルシアちゃんに全くかなわなくて、魔法を教えてもらって、水魔法を少し使えるようになって、水遊びがいつの間にか組手になってた。

毎日が楽しかったのは彼女のおかげ。

自由で強くてなにより優しい彼女に憧れた。


「明日からもう会ってくれないかもしれない」


はぁ


大きなため息をついて村に帰ろうとしたら、向こうから誰か来るのを感じた。

5人いる。霊力はかなり小さい。村の大人たちだろう。

彼らはボクを見つけるとこっちに向かってきた。よく見ると父さんもいる。


「おい、おめぇはロロのとこのルークだったか?何が起きた?」

「村から巨大な火柱が見えた。ケガはないか?」

この人たちは村の警備係のアゼさんとフェイさん・・・だったっけ?

「はい、大丈夫です」


そうか、さっきの『火球ファイヤーボール』はさすがに目立ってしまったのか。ルシアちゃんのこともあるし、どう言い訳しようか。


「さっきのは魔法だろう?お前が使ったのか?」

「いや、この子にそんなことはできない」

「父さん・・・」

「何があったか説明できるな?」


ど、どうしよう・・・

都合のいい言い訳なんて思いつかない。

素直に話した方がいいのかな。でもルシアちゃんを裏切りたくないし。

あああああああ どうしようどうしよう


いや、落ち着こう。ルシアちゃんはいつも言ってるじゃないか。こういう時は素数を数えるんだと。

えーと、えーと・・・・

素数ってなんだチクショウ!


「・・・・・・」

「どうした?説明できないのか?」

「・・・はい」

「どうしてだ?」

「それは―――――」


最後まで言うことはできなかった。

それは明らかな異変だった。


「―――――!」

「バカな!周囲の霊素が消失していく!」

「違う。どこかに流れて行ってる。誰かが霊素を集めてるんだ」

「ここは『霊域』だぞ?魔力を不活性にするほどの濃度の霊素を集めるなんて何者だ?」

「わからん。だが、霊素の流れは森の中央に向かっている。あそこには【霊域】の要がある。不吉な予感がする」

「アゼ、フェイ。すぐに森の中央に向かえっ!私と残りは村に行き、神子様をお守りするんだ。ルークもすぐに村にもどれ」

ロロの指示にうなずく5人。彼らの行動は早かった。






アゼとフェイは疾走する。温厚で気が弱い種族傾向の狐族だが、決して身体能力は低くない。

むしろ、身のこなしに関していえばかなりのものだ。

まして狐族の警備部隊である彼らが全力疾走すれば時速50kmはでている。

(森の中央まであと20分と言ったところか)

アゼは苦い顔をする。

命ある者は霊力か魔力をもっている。そして霊力や魔力が体から出てきたとき、エネルギーが質量になり固有の粒子――――霊素と魔素―――――になる。

霊域イルズではかつての九尾の神子の加護によって、異常な霊素濃度になっている。この領域においては魔力は完全不活性状態になり、魔力を使った魔法―――魔術―――は発動しなくなる。

だが今はその莫大な霊素が一点に集められている。そのため、周辺の霊素濃度が下がっている状態なのだ。当然、魔術は発動してしまう。

(こんなときに魔術をつかうやつら・・・魔族が襲撃してきたら最悪だ)


ちらりとフェイを見ると、目が合った。どうやら同じことを考えたようだ。

互いにうなずき合い、さらに速度を上げた。







村に戻ったロロは急いで祠に向かう。

祠の扉を乱暴に開け放ち、奥にむかう。いつもの冷静沈着なロロらしからぬ行動に、祠の門番たちは目をまるくしている。彼らもこの異常事態に気づいているが、神子を外に出すべきか迷っていた。


「神子様今すぐここから―――――――っ!!」


だがルシアはいなかった。さらなる非常事態に気持ちが焦っていくロロ。


「おい門番。神子様がおられない。どういうことだ?」

「わかりません。神子様は入ったきり、ここから出ておられません。自分の尻尾に誓います」


尻尾に誓う。それは狐族最上の誓いである。


「なら何故神子様の御姿が・・・・」


ひとつ思い当たる節がある。息子のルークだ。先ほど問い詰めたとき、どうも歯切れの悪い回答しか返ってこなかった。もしやルークが手引きを・・・?そんな思考がよぎる。


(だが、つじつまは・・・合う)


村人たちは今広場に集められているはずだ。もしもの時はそうするように取り決めてある。

ロロが急いで村の広場に行くと、すでに多くの村人が荷物をかかえて集まっていた。


(この中からルークを・・・・仕方ない)


大きく息を吸い込む


「ルウゥゥゥゥクウゥゥゥゥゥ」

尻尾感知で個人特定はできない。霊力の大きさを測るのが精いっぱいだ。今は1分1秒が惜しいのでルークの名前を叫ぶ。そこにいた村人全員が驚き、振り返る。


少ししてルークが大人たちの隙間から出てきた。


「父さん。いきなり叫ぶことないじゃないですか。ちょっと恥ずかし―――――」

「いいからちょっとこっちに来い」

「えっ?うわっ」


ロロはルークを引いて広場から少し離れる。

まわりを見まわして誰もいないことを確認して静かに問いただす。


「ルーク、今は非常事態だ。とにかく正直に答えろ」

「・・・はい」


いつになくシリアスな父親に思わず身を堅くするルーク。


「お前は神子様を祠から連れ出す手引きをしていたか?」

「―――!違いますっ」

「正直に答えるんだ!」

「本当です。ルシアちゃんは抜け道で脱出したと言ってました」

「抜け道だと・・・?」


ルークはどうせばれたのだからと、抜け道のこと、毎日ルシアとあっていたこと、さっきの火柱がルシアの魔法であることを吐いた。・・・さすがにあの「事故キス」のことは話さなかったが。


「――――というわけです」

「くそっ、非常にまずい」


状況がまるで分らないときに神子ルシアの居場所が把握できていない。これは非常にまずいことだ。

神子を危険にさらしている可能性が高い。神子とはいえまだ10歳の少女だ。最悪の状況もありうる。


(考えろ、神子様が行きそうな場所を・・・・)


一度にいろんなことが起きすぎて、情報の整理がつかない。思考がまとまらない。

「神子様が行きそうな場所・・・・・」


「もしかして森の中央に向かってしまったんじゃ・・・?」


ルークがボソッとつぶやく。

(それだ!)

ルシアは好奇心旺盛なところがある。異常な事態は彼女も感じ取っているはずだ。とすれば、ルシアの行きそうな場所はそこしかない。


(アゼとフェイが向かっているが心配だ)


「ルーク、お前はほかの人たちと一緒にいろ」

「父さんは?」

「私は神子様を探しに行く。お前から族長に話しておいてくれ」


(間に合ってくれよ・・・)



ロロは全力で森の中央に向かった。




ここから展開が変わります

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