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ヤクザが贈る正しき学園生活  作者: 池田あきふみ
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16.怪物

「嘘だろ……鉄の扉だぞ!?」

「なんだ……何が起こったんだ……」


 俺は体育倉庫の扉を蹴り壊した。

 中にいた男は3人。


 見覚えがあるのはオレンジの髪の男だけだ。

 俺の姿と、ひしゃげた扉を見て、かなり動揺しているように見える。


「お、大滝、お前何でこの場所が分かった!?つーかどうやって扉を壊したんだ!」


 俺は男の言葉を無視して、そのままゆっくりと体育倉庫の中に足を踏み入れた。

 中に入るとメロンのような甘い匂いが鼻腔を擽る。


「……」


 ――やはり中にエリはいた。

 しかし、気を失っている。

 柱に縛り付けられ、衣服は乱れている。

 その傍らには、アルミホイルとターボライター、そしてビニールパックに入れられた白い粉。

 薬を炙った時特有の甘い香りと、エリのその姿を見て、全て合点がいった。


「――ハッ、そういうことか……中々素養あるじゃねえかお前ら」


 あの薬は大滝組(うち)が捌いている物じゃない。

 となると、入手ルートは限られるな。


「お、おい大滝、先公や、サツにチクりやがったらタダじゃすまさねえぞ……」

「そ、そうだ、沢村の言う通りだ!見られたからには痛い目見てもらうぞ大滝ぃ!」


 中に入った俺を見て、3人の男達は俺を取り囲むように広がっていった。

 正面の沢村という男は、ふところに手を入れ、何かを取ろうとしている。

 右側の男は、体育倉庫に置いてあった金属バットを手に取った。

 そして左側の男は、エリに近づいていく。


「状況は分かってるよなァ大滝ぃ!」


 沢村は懐に忍ばせていた、短い棒を取り出しながら、叫んだ。

 そして黒く、いかにも硬そうな、その棒を一振りした。

 すると先端が、10cmほど伸び、ブンッと鈍い風切り音が聞こえてくる。


 特殊警棒か。

 この手の有害玩具は、今時ネットで簡単に手に入る。

 しかし、その警棒に刻まれた紋章は見覚えがあった。

 ――波模様のシンボル。


「……」

「ハハッ!どうした、びびって声も出なくなっちまったのかぁ?」


 沢村は、俺に警棒の先端を向け、それをゆらゆら揺らし威嚇している。


「大滝さんよぉ、南条を助けに来たんじゃないのかァ!?3人相手に何ができるって言うんだ?ええ?」


 さっきまで、俺が来たことにビビっていたくせに急に饒舌になったな。

 3人で取り囲み、武器を手にした途端、自分の優位を確信したんだろう。


「……これをやったのはお前らか?」


 俺はエリの方を見ながら尋ねた。


「おいおい、今はお前の質問の時間じゃねえぞ。自分の置かれてる状況分かってマスかァ!?俺ら今から お前のことリンチしようとしてるワケ。分かる?」


 沢村はそう言って、俺に警棒を向けながら一歩詰め寄ってきた。


「まあ聞くまでもねえか……」


 衣服が乱れ、中の下着まで見えているエリを見て、静かな怒りがひたひたと心を満たしていく。

 ……久々の感覚だ。

 何故だか気分は悪くない。

 むしろ――


「おい、聞いてんのか大滝ぃ!」

「……ククッ、いいぜ。最近体が鈍ってきたとこだ。遊んでやるよ」


 体育倉庫の中に充満している甘い匂いを嗅いで、俺の中の悪の本質、薬の入り混じった闇の血が疼き始めていた。

 片手の拳を握ると、ゴキと音が鳴る。


「あァ!?遊んでやるだと?テメーの実力はもう分かってんだよ!!」


 沢村が警棒を振りかぶり、俺に向かって飛び掛かってきた。

 遅い。

 この速さなら受けに回る必要もない。

 となると、まずは左からだ。


「えっ……?」


 俺は、エリに近づいていた左の男の正面に移動した。

 目ですら追い切れていない。

 いきなり現れた俺に、男は身体を硬直させる。

 そのがら空きの腹部に拳を叩きこむ。


「あぐ!」


 そして前かがみに崩れたところで、首筋を狙い撃つ。


「かはっ!……んのやろぉっ!」


 苦し紛れに放たれた、腰の入っていない単純な攻撃を受け流す。


「くそっ!」

「オイオイ、ケンカの拳にもなってねえじゃねえか」


 素養があるってのは見込み違いのようだ。

 この程度の拳では、あの世界では通用しない。


「なんだよ、この程度か?」

「くそが!ぅらあっ!!」


 棒立ちで構える俺に、再び拳が振りかかってきた。

 軌道は単純。本能に毛が生えた程度の雑な動きは容易に付け込むスキが見えた。

 ――ここだ。

 男が大きく踏み出してきた瞬間、小さくかわしてアゴに軽く一発入れた。


「――!?」


 面白いぐらい綺麗に入った。

 脳をゆさぶられたやつの目から、一瞬光が消える。


「シッ」


 フェイントを挟む必要もない。牽制のつもりで打ったワンツーからスリーフォーの繋ぎ経てファイブ(本命)のフィニッシュブロウまで全段叩き込んだ。

 最後の一発だけ、少し力んでしまった。

 そのせいで、男の体は面白いように浮き上がり、数メートル後方に吹っ飛んだ。


「かはっ……!」


 男はそのまま仰向けに倒れ意識を失った。

 他の二人は、呆けたような表情でこちらを見ていた。


「な、なんだ今の動き……!?」

「お、おい聞いてねえぞ沢村!!なんだコイツは!人間の動きじゃねえよ!」


 ハッ、人間じゃねえか……。

 そりゃいいや。


「お前ら、犯罪者には向いてねえな」


 俺が高圧な態度で睨むと男達は、ピクリと動きを制止した。

 衝動的に体が硬直する相手を見て、思わず笑みがこぼれる。


「これじゃどっちが悪党かわかんねえな」


 熱くなった拳に、息を吹きかけて冷やす。

 どうやら俺の体は久々に興奮しているらしい。


「な、なんなんだお前は!?」

「や、やっぱり『大滝』ってあの……」

「なんだ、俺の事知ってるのか?」


 俺が一歩前に出ると、近くにいた沢村は一歩後退した。


「オイ、警棒を持つ手が震えてるぜ?お前、それで人を殴ったことがあるのか?」

「く、来るな!殺すぞ!!」


 沢村は警棒を俺に向けブンブン振り回している。


「世の中には、そんなもんじゃビビってもくれない人間だっていることを、覚えておいた方がいいな」


 俺は再び沢村に一歩近づく。


「そ、それ以上近づくとマジで殺すぞ!!こいつは鋼鉄製だ。頭に当たったら死ぬぞ!」

「やってみろよ。外すなよ?」


 怪物の血が相手のちっぽけな悪を飲み込みたがっている。

 口の端が、親父(アイツ)のように獰猛に引き吊るのが抑えられなかった。


「どうしたよ。なあ?」

「く、来るなっつってんだろうがぁ!!」


 乱暴な言葉とは裏腹に、沢村の手は震え、額には汗が滲んでいる。

 俺はゆったりとした動作で、やつが持っている特殊警棒に手を近づけていく。


「捕まえた」

「ひ、ひぃっ!離せ!!」


 掴んだ警棒は離さない。

 俺は、その警棒ごと、沢村の体を引き寄せた。


「ぅおっ!」


 その勢いのまま奴の体を壁際に叩きつける。


「ぐっ!」


 壁に追いやったそいつの顔を見下ろすと怯えたようにこちらを見ている。

 俺は逃げようとするそいつの体を、壁に手をつき塞いだ。

 まず逃げ場を塞ぐのは、脅しの常套手段だ。


「どうした?震えてるぞ、怖いのか?」

「て、てめー大滝、こんなことしてただで済むと思うなよ……!」


 もはや力強いのは言葉遣いだけだ。

 明らかに俺の事を恐れている。


「へぇ……、タダで済まさないって、俺に何をしようとしてるんだ?なあ、今教えてくれよ」


 俺は綾子という女にしたのと同じように、相手と目を合わせながら話す。


「お、俺の兄貴のバックにはヤクザがついてる!このままじゃ半殺しじゃ済まさねえぞ!」

「はぁん……ヤクザね、そりゃ怖い」


 やはりか。

 こいつらが持っていた薬は、そこらの売人じゃ捌けないような危険な代物(ブツ)だ。

 ヤクザの知り合いがいなければ入手できるはずもない。

 うちの組のもんじゃないとなると……。


「どこのヤクザがバックに付いてる?」

「知らねえよ。知っててもてめえに教えるわけねえだろうが!」

「そうか……」


 予想通りの反応だ。

 こうも分かりやすいと笑えてくる。


「ところでお前、良いピアスしてんな」

「あ?急に何言ってんだ……?」


 俺は沢村が耳につけていたピアスを指でつまんだ。

 その指に少しだけ力を入れる。


「なあ、人の耳ってどれくらいの力でちぎれると思う?」

「な、なにを……!」

「おい、動くなよ、危ないだろう?」


 俺は男がつけているピアスをコロコロと転がしながら続ける。


「良いピアスだな。どこで買ったんだ?」

「ひっ、や、やめてくれ!!」

「やめる?何をだ?なあさっきからはぐらかしてないで、俺の質問に答えろよ」


 俺は指にグッと力をこめた。


「わ、分かった。答える!だからそれだけはやめてくれ!」

「そうか。なら、お前ら人を殺したことがあるか?」


 俺の質問に、男は明らかに動揺した。

 右瞼がピクピクと痙攣し、額には脂汗が流れている。

 こいつは間違いなくカタギだな。

 少なくとも俺のような境遇で生きてはいない。

 ま、当然か。


「な、無いに決まってるだろ!」

「へぇ……ならリンチぐらいしたことあるよな?」

「……っ!」


 再び質問をしていると、俺の背後にもう一人の男が近づいてくるのが分かった。

 殺気と沢村の目の動きでバレバレだ。

 沢村の目に反射する男の動きを見ると、俺の背後で金属バットを振りかぶっていた。


「おいてめえ!沢村を離せ!でないとお前の背骨を叩き折るぞ!!」


 俺の背後でバットを構えた男が言った。

 わざわざ忠告するとは親切な奴だ。

 しかし、俺はその忠告も無視して続ける。


「なあ、質問に答えろよ。リンチはしたことあるのかって聞いてんだよ」

「てめえ、聞いてんのか!!バットで背骨粉々にするぞコラ!!」


 背後の男は金属バットを振りかぶって、フルスイングの予備動作をしている。

 

「おい、聞いてんのか沢村?質問に答えろよ」

「それはこっちの台詞だ!てめえ、しかとしてんじゃねえよ!!」

「……やっちまえ!」


 沢村のその一言で、男は俺の背中に向かって金属バットを振りぬいた。


「知らねえからな!ぅらああっ!!」


 俺の背中に鈍い衝撃と痛みが走る。


「えっ……?」


 しかし、俺はそれでも一歩たりとも動かなかった。

 沢村のピアスを握る指も離さない。


「ってえな……。つか馬鹿かお前、やるなら頭だろ」


 俺は自分のこめかみを指さしながら言った。


「な、なんなんだこいつは……!金属バットだぞ!?」

「ば、化け物かよ……!」


 バットを持っていた男は、俺が一度振り返って睨むと腰を抜かしたようにへたりこんだ。


「ひぃっ……!」


「質問の続きだ。さっき俺のことをタダじゃ済まさねえとか言ってたな」

「も、もう許してくれ!今後二度とお前と南条には手を出さないと誓う!」


 俺は男の言葉を無視して続ける。


「なあ、お前らがやれるのはどこまでだ?」

「え……?」


 言いながらも男の耳のピアスを転がし続ける


「顔を殴り、腹を蹴り、さらに這いつくばった背中を踏み潰すか?

 相手が動かなくなったらそれで終わりか?

 それとも刃物で相手を切り付け傷だらけにするまでか?」


「お、お願いだ。許してくれ……!質問の意味が分からない……」


「俺はそんなぬるくないぜ?俺ならもっと徹底的にやる。

 肛門に鉄の棒を突き刺し金玉は潰す。

 目玉はナイフでくり抜き、手足の骨は粉々になるまで砕く。」


 男は理解不能といった顔でこちらを見ている。

 だがそれでも気にせず続ける。


「その時相手が生きてるか死んでるかなんて関係ないんだよ。分かるか?」


 俺はピアスを握る指に力を強くこめた。


「何でそんなこと言うのかって顔してるな」


 そして俺は、口の端を大きく歪めながら言った。


「これからお前達にやるからだよ」


 ――俺は握っていたピアスを、奴の耳たぶごと引きちぎった。


「ぎゃああああ!!耳が!!耳があ!!!!」

「ひぃいっ……!!」

「うるせえなあ、耳ぐらいで叫ぶなよ。もう一個あんだろ」


 男の耳たぶは引き裂かれ、残った肉がぶらんと垂れ下がっている。


「こいつやべえよ、人間じゃねえ!!だ、誰か、助けてくれーっ!」

「ハッ、助けてくれだと?今日は教師の見回りもこねえからお前らもここを選んだんだろ?」


 俺がそう言うと、男はハッとした顔をして次に絶望したような表情を見せた。


「――ゆっくり楽しもうぜ。時間はたっぷりある」


 俺は再び怪物のような獰猛な笑みを浮かべた。



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