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颯爽桜はマジやばい。 2

【祝】颯爽桜は止まらない。【2000PV達成!!】


20150321深夜に達成致しました。

前後してジャンル(コメディ)の日計・週間ランキングそれぞれで50位に入ることができました。

ひとえにお読みいただいた皆様方のお陰です。

ありがとうございます。

拙い作品ではございますが、今後ともお読みいただき、かつ笑っていただけましたら幸いでございます。


  †


「よし、被せてやってくれ」

 桜の合図で、俺と杉山の二人で抱えたヘルメットを膝を突いた姿勢のダビーの頭に被せる。やっぱり機械を取り付けてあるだけあって重かった。ダビーがメットを抑えつつ立ち上がると、桜が顎下に厳重にベルトを巻いて固定してやる。

 本物のダビデ像は確かもっと大きいはずだが、ダビーの身長はちょうど俺と同じくらいだ。つまり、普通の成人男性並。中身に機械類が詰まっている分、体重はもっとあるらしいが。

「……これはアウトやわ、颯爽さん……」

 ユリが呟いた。俺も杉山も同感である。

 校庭にダビデ像。まぁ、一種の芸術作品にも見えなくない光景だった。

 だが今ではフルフェイスのヘルメットを装着して、見事全裸の露出狂に変身だ。芸術性の欠片もない。つーか犯罪臭しかしない。変質者じゃねぇか。

「よぉし、これで完成だ!!」

「なぁ桜」

 唖然と変質者……もといダビデ像を見ている杉山に代わって、俺は聞いてみた。

「まだ聞いていなかった思うんだが、このマシンは一体なんなんだ?」

ヘルメットに、四方に突き出した細い板状の『翼』を取り付けた機械。これはなんというか、まるでヘリコプターのような形状だが……。

 いや、だから腰をグラインドさせんなダビー! ユリが怯えてるじゃねーか!!

「見てわからないか?」

 わかんねーよ。

 ふふん、と得意げに胸を反らし、自信満々に桜は言い放つ。

「これはな、達樹。タイムマシンに続く、夢の発明品――タケコプターだ!!」

「わかってたまるかぁ!!」

 俺は絶叫した。

 日本中のお子様の夢を露出狂で破壊するんじゃねぇよ!

 悪夢じゃねえか!!

「いや、タケコプターの完成と言ったところで、これはまだ試作一号機なのだがな」

 桜が俺の顔を見た。真面目くさった顔をして問いかけてくる。

「暫定的に『ゼフィランサス』と呼称しようと思うのだが、達樹はどう思うかね?」

「どう思うもクソもねーよ。そういうギリギリなラインを攻めようとするのはやめなさい」

 相変わらずのネーミングセンスだな。全方位喧嘩外交かよ。

 そのコネクターに繋がるケーブルを抱えながら俺は溜息をついた。タイムマシンのときにもあった、ぶっといあのケーブルだ。ずっと向こうまで続いていて、校舎のどこか教室のコンセントに繋がっているらしい。

 しかし、なんだこのケーブル。なんか感触がグニグニしている。まるで中に液体が詰まっているかのようだ。なんかやだなぁ、これ。

 そのケーブルをヘルメットのマシン部分に接続しながら桜が眉根を寄せた。

「ふむ、やっぱりアウトか」

 やっぱりって、自覚があるんじゃねぇか。タチ悪いなこいつ。

「別に呼称なんてどうでもいいんだ。これは本当に試作機だし、徹底的に実験して数字を計測するためのものだしな」

 コツコツとヘルメットを叩きながら桜は言った。

「しかし、これがタケコプターかい……」

 タケコプターといえば、説明不要の児童向けロボットアニメに登場するアイテムだ。殆ど竹とんぼのような形状で、下部にある吸盤みたいなパーツで人間の頭部に吸着し、羽根の回転で人間が自由自在に空を飛べるようになるという道具だ。

 確かにそれが現実に開発されたとなれば、正に夢みたいな話だろうけど。

「しかし、見た目では全くタケコプターには見えないね」

 杉山が言った。全く同感だ。

「精々ヘリコプターの模型を被った全裸男だよな、これ」

 全裸男は関係ない部分だけどな。俺の言葉に、杉山の後ろに隠れたユリが激しく頷いた。

 基本的な部分をつっこめばこちらは羽根が四枚。本家タケコプターは二枚だ。

「仕方ないだろう」と、桜が反論する。

「あちらは空想の産物で、こちらは現実なんだからな。あんな小さなプロペラ回転させて人間一人分飛ばすほどの揚力を発生させるなんて非現実的にも程がある」

「そりゃ曲がりなりにもタイムマシンを作り上げたヤツの台詞じゃねぇよな」

 片道切符だとしても、タイムマシンだって夢のようなマシンには違いなかろう。

 俺がそう言うと、桜は少しむっとしたように反論した。

「達樹、もしかして君は、タイムマシンよりもタケコプターの方が開発するのは簡単だとでも思っているんじゃないか? だとしたら、大きな間違いだよ」

「違うのか?」

 タケコプターって、えらいお手軽に空を飛べるアイテムだし小さいし、どう考えてもタイムマシンより作るの簡単そうだがな。

「た、たしか」と、ユリが蚊の鳴いているようなか細い声をだした。

「本物……本物? とにかく、あっちのタケコプターって、重力制御装置が組み込まれてはるとか聞いたことがあります、うち」

 ユリの言葉に桜を見ると、満足するような桜が頷く。

「その通りだ。原作のタケコプターは、プロペラではなく重力制御で飛ぶんだ」

 そうなのか。

「幾ら颯爽さんでも、それは実現できないのかな」

 いらなくなった工具類を片付けながら、杉山が尋ねた。

「いや、さすがにまだ無理だな。もうちょっとで重力制御の基礎理論が出来そうな気もするのだが」

「もうちょっとって……それはそれですごいな」

 俺の言葉に、苦笑しながら桜が肩を竦める。

「理論だけじゃまだ足りないからな。それを実現するために幾つも実験しなきゃならん」

 けれど、と杉山が疑問の言葉を口にした。

「重力制御というSFチックな話はさて置いても、タケコプターのような飛行機械が今まで開発されていないのはどうしてなのかな?」

「せやなぁ」と、ユリが相槌を打つ。

「ヘリコプターや、そもそもタケトンボのような玩具は翼の回転から得る揚力しか飛行原理があらへんわけですよね。だったらそ、そのダビーさんが被ってはるようなアイテムが開発されていてもおかしくあらへんとちゃうんでしょうか」

 顔をそらしつつ、ユリがダビーを指差した。

「……言われてみれば、確かにその通りだな」

 ライト兄弟の引き合いを出すまでもなく、空を自由に飛ぶのは人類昔から抱いていた夢の一つだろう。好きなほうをやるからどちらか選べ、と言われればタイムマシンではなくタケコプターを選ぶ人も少なくないのではないだろうか。

「その通りだ。確かに十分な出力を用意しさえすれば、このヘルメットに付けた翼から得る揚力で人間を宙に浮かすことはできる――力技だがな」

 ふふん、とどこか得意げに桜が腕を組んだ。自己主張の激しい胸部を抱えるようにして。おや、ユリがなんだか羨ましそうにしているが気のせいか。

 ところでダビー。暇だからっておもむろに人差し指で天を差し、体を傾けフィーバーのポーズしてても突っ込んじゃやらんからな。いや、だから腰は動かすな!! プラプラさせんじゃねぇ、トラボルタファンにぶっ殺されるぞ!?

「だが、それなのに。アレだけ有名で長年愛されているドラえ……青い狸猫・未来系の秘密道具――それもタケコプターなんていうメジャーなアイテムが、未だに開発されていないというこの現実。その理由を、今から明らかにして差し上げよう」

 そして桜は天を指差しダビーのポーズを真似て、叫んだ。

「飛ぶぞ、天高く(ダビーが)!!」

 ……うわぁ、バカっぽい。

 

  †


『それでは実験開始だ』

 ヘッドセットの向こうで桜が言う。視線を向ければ手元の――おそらくパソコンを操作しているのであろう桜の姿が見えた。次いで、三脚に乗っけたビデオカメラを確認すれば、液晶画面にダビーの姿が見えた。ヘルメットに取り付けられた翼がゆっくりと回転を始めたところだ。

『どうだ、みんな。ちゃんと撮れてるか?』

「オッケーだ」

『僕のほうも大丈夫だよ』

『うちもです、颯爽さん』

 イヤホンから入ってくる、杉山とユリの声。俺と同様、ダビーの挙動をビデオに収めるために離れた場所にいるのだ。桜の隣に杉山。屋上にユリ。そして俺はグラウンドの端っこという配置である。

『おいらも心の準備はできてますですよー』

 うわ、ダビーの声まで拾えるようになっているのか、このヘッドセット。

 そのダビーはというと、現在さすがにふざける事もできずにじっと直立している。両腕は胸の前で交差させて。下手に動き回ると回転翼でぶった切れてしまうからな。

 しかしなんというか、こう。本当に変な絵面だなぁ。神妙な佇まいのヘルメット筋骨隆々純白全裸。都市伝説か何かになってしまいそうだ。

『さて、これから次第に回転翼の速度を上げていくわけだが』

 桜がどことなく楽しそうに言った。

『君たちに初歩的な物理学の講義をしてあげよう。……達樹、ちょっと横に歩いてみてくれるかい』

 ふむ? 

 なんかよく知らないが、言われた通りにしてみようか。わざと、大仰に足を大きく上げて五歩。ターンして元の位置に戻る。

「こんな感じでいいのか?」

『十分だ』

 桜がこちらに向かって親指を突き出していた。

『わかるだろうか。タケコプターが現実には開発されていない理由は、要するにこういうことなのだ』

「いや、わかんねーし」

『うぷぷ、そんなこともわかんないんですか。人間にも頭が残念な人がいるんですね』

 畜生、人形にバカにされたぞ。

「だったら解説してみろやクソ全裸。ちょっとでも間違っていたらお前の頭を残念な事にしてやる」

『生意気な事を言ってまことに申し訳ございませんでした達樹様』

 ソッコーで謝りやがった。こいつには尊厳というものはないのか。いや、無いのか。人形だし全裸だし。

『落ち着きたまえ、達樹。私が解説してやるから』

 笑いを含んだ声で桜が言う。

『まず、達樹。君は歩いたな。どうやってだい?』

「どうやって、って……こう、フツーに、地面を蹴ってだよ」

『つまり、地面を蹴った威力の反動で、きみは歩いた――体を動かしたんだよ。どうしてそうなるのか原田さんはわかるか?』

『え、ウチですか!? えーっと、えと……そや。きっと地面が動かへんからと違いますか?』

 焦り気味のユリの言葉。向こうで桜が頷くのが見えた。

『正解だ。この大地は余りにも巨大で重たい。達樹の蹴り程度ではビクともせず、よって蹴りの反動で達樹だけが動いた、という事だな』

 説明されれば当たり前すぎる結論だが、それが一体どうしたのか。

 ダビーの頭上で回転するプロペラの速度は、そろそろ目に止まらない程になりつつある。コントロールは桜が行っているのだが、データを取ると言っていたからな。じわじわと速度を上げているらしい。

『では更に質問だ。達樹が蹴ったのが地面ではなく、ルームランナーだったとしたらどうだろう』

 ルームランナーって、あれか。足元がベルトになっているヤツ。

「そりゃ勿論、足元だけベルトがグルグル回って前には進めないんじゃないのか?」

『……ああ、そういうことですか。それが、タケコプターが開発されない理由だと』

 杉山がぽつりと言った。

『ほう、杉山くんは理解が早いな』

『え、あの……ウチもわからへんのですけど』

 ユリ、安心しろ。俺もわからん。

『つまり、作用反作用の問題なんだ。地面を蹴って達樹が前に進む。これは単に地面が巨大すぎてビクともしないからだ。逆にルームランナーのようなものだと蹴った威力をベルトが吸ってしまって前に進まない。それを、回転翼と回転軸の関係に当て嵌めればこうなるんだ』

 その言葉に俺はダビーを見た。空を切り裂く回転翼の音が段々甲高いものになる。

 そして、俺は目を疑う。

『今……ダビーさんが動かれはった……ような』

 ズ、ズズ、という重たい様子ではあるが、確かにダビーが動いている。いや、向きを変えている。時計回りに回転する回転翼とは逆周りに、だ。

『クビッ……首が、ああああ』

 ヘッドセットからダビーの声が漏れでてきた。

「なるほど……」

 ようやく俺にも理解が追い付いてきた。これが、タケコプターが開発されない理由か。

『達樹が蹴るのを回転翼の動きとする。ならば、ルームランナーのベルトとなるのは回転軸、回転軸とくっつくヘルメット、そしてダビー本体。地面のようにビクともしないわけじゃないから、反動で回転翼とは逆の回転を始めるわけだ』

 回転翼の速度が上がってきた。もう見間違いじゃない。反時計回りで全裸がその場でグルグルと回転する。

『首に力を入れていろ、ダビー。でないと捻じ切れるぞ』

『そう言われても、ワタクシ人間じゃないんで部品の強度以上の耐久力は持ち合わせておりませんてばぁぁぁぁぁ』

 さらっと怖い事を言うなよ桜! 

 ダビーの周囲にうっすらと土煙が舞い、俺に向かって風が吹いてくる。回転翼が生じさせた、ダウンウォッシュというヤツだろう。

 ごくり、と唾を飲み込んで、杉山が新たな問いを発した。

『けど、だよ颯爽さん。世の中のヘリコプターがダビーみたいに回転していないのはどうしてだい? あんな動きするはずが無いよね』

『杉山くん、いい質問だ。だが、考えても見たまえ。あのヘルメット、ヘリコプターとは形状が違うだろう?』

 形状? 

 俺は呟いた。

「もしかして、尻尾……?」

『その通りだよ、達樹。一般に回転尾翼(テイルローター)というものがヘリコプターには付いているな』

 桜は言葉を続けた。

 竹トンボが空を飛ぶのは、角度のついた羽が回転することにより揚力を発生させるからだ。そして回転の向きを逆にするか、同じ回転方向で翼の角度を変えれば翼は押さえ込みの力を発生させる。揚力が上向きの力と表現するなら、つまり逆向きの揚力ってことだ。

 んでもってテコの原理で作用が大きくなるよう外側に伸ばした尻尾の側面部分に、小さな回転翼を取り付ければヘリコプター本体の回転を押さえ込むという寸法だ。その出力を変える事でヘリコプターは方向転換することができる。押さえ込みを強くすれば右に、弱くすれば自然と左に、というわけだ。実際に操縦するならそんな単純ではないのだろうけどな。

 とにかく、回転尾翼の存在しないタケコプターではあの回転を抑えることはできない。桜がわざわざダビーをアメリカから取り寄せたのは、センサー云々だけじゃなかったんだと俺は悟った。

 あれは死ぬ。人間がやったらマジで死ぬ。

 だって今ダビーの首、瓶の蓋を捻って開けようとされているのと一緒だからな。人間だったらコキャッて感じで逝くぞアレ。

『だ、だったらどないして颯爽さんは、回転尾翼……ですか? それを取り付けはらなかったんでしょう?』

 ユリの疑問は尤もだ。桜は落ち着き払った声で答えた。

『ソコまでやってしまっては形状的にもうタケコプターと言えないだろう』

「見た目の問題かよ」

 思わず突っ込んでしまった。っていうか、既に手遅れ感がマッハだと思うのは俺だけだろうか。いや、見た目の手遅れ感は装着しているあの白全裸がダメなのか?

『それに、回転尾翼を取り付けたところでもう一つの問題が解決するわけでもないしな』

「なに? もう一つって……」

 聞き返そうとした時、ダビーの体に異変が起こった。

 捻じ切れたのではない。

 次第に回転翼の速度が上がり、発生する揚力がついにダビーの重量を上回ったのだ。激しく土埃を巻き上げる風の中心で、ダビーの足が地面を離れた。

 少しずつ宙に昇るダビー。同時にその身体の回転も今までの比ではない速度となっていく。

『め、目が……目が回るるるるるぅぅぅ』

『ぜ、全裸が高速回転してはる……』

 ヘッドセットの向こうで呆然と呟くユリ。

 秒間数回転の速度でダビーが回る。最早ダビデ像というよりも、全方位全裸といった方が正しいほどに。

 全裸が回転する。ゆっくりと上昇しつつ。爽やかな青い空に向かって、全方位に全裸で回転しながら。

 これは一体何の悪夢だ。俺は頭を抱えたくなった。とっくに桜以外の全員、これが本来なんの実験だったのかなんて忘却の彼方である。

 呆然と宙を見上げる俺たちに、桜が落ち着き払って告げた。

『ダビーのバックボーン・シャフトに異常荷重を確認。まぁ当然の結果だな』

「どういうことだよ、桜」

 俺が聞き返すと、ずっと向こうにいる桜は一つ頷いて答えた。

『これがタケコプターが実現しないもう一つの理由だ。よく見てみろ、達樹。仮に回転を抑えることが出来たとしても――アレはほら。首吊っているのと変わらないだろう』

『『ブッ』』

 ヘッドセットの向こうで杉山とユリが噴出した。そして俺は叫ばずにはいられない。

「だからてめぇ、お子様の夢をぶっ壊すような発言は慎めってんだ!!」

『しかし事実だからなぁ。物理法則ばかりは私にもどうしようも出来ないよ』

 いや、そうだとしてもだよ。もうちょっと、こう……オブラートに包めよな。

「まったく」

 大きく呟きながらも思い出した。ダビーが宙に舞い上がったことでカメラの撮影範囲から外れているはずだ。液晶を覗くと案の定である。俺は慌ててカメラを上空へと向けた。

 これでよし、と。

 ハンディビデオカメラの液晶画面の中で、宙に舞う全裸が回転しながらゆっくりと上昇したり下降したり、右へ左へと移動する。十分ほどもそんな光景をカメラの画面でじーっと見ていると、なんというか慣れてくるもんだな。牧歌的なファンタジーの様な気がしてきた。

 うむ。末期なのは自覚してる。

 あるいはそろそろ自分の正気を疑うべきか。

「どうだ桜、必要なデータは取れているのか?」

『ああ、バッチリだ』

 ヘッドセットの向こう側からは満足げな桜の声。

『いくら探した所で人間を回転させながら吊り下げた際に掛かる負荷や荷重のデータなんて見つからないからな』

 まぁそりゃそうだろーな。

『結構高く飛ぶモノですねぇ』

 暢気そうに杉山が言い、俺も気が付いた。なるほど、今やダビーの姿は、校舎よりもはるか高くを舞っている。ざっと三十メートル位か。

『気分はどうだ、ダビー』

『目、目が回ってますぅぅーーーうるりゅりゅりゅりゅ』

 おいおい。ロボットでも目を回すのかよ。

『ううむ、いかんな。高速で回転する視界の処理がメモリの負担になっているみたいだ。長時間回転させすぎたか』

『そ、そろそろ降ろしてあげた方が良いんとちゃいますか』

 ユリの言葉に、桜が『そうだな』と答えた時だ。

 突風が吹いた。

 液晶画面の中で、ダビーの体が大きく揺らいだ。

『……マズイッ』

 桜が叫ぶ。

 ――墜落する!?

 俺が振り仰いだ視線の先、ダビーが急角度で校舎の方へと落ちていく。視線を転じれば、必死の形相でパソコンのキーを叩く桜がいた。

『ッ……これでどうだッ』

 ダビーの落下軌道が、少し上向いたように見えた。

 だが、待て。たしかあの辺りには。

『キャアアアアアッ!?』

『原田さん!?』

 ヘッドセットからユリと、杉山の悲鳴。

 そして次の瞬間――。

『こ、根性ぅぉぉぉぉぉぉッ!!』

 校舎の上空に急上昇する影があった。あれは、間違いない。ダビーだ。

 ユリとの衝突を回避できたのか。良かった……と思ったのも束の間のことだった。

「おい、桜」

『なんだい、達樹』

「なんだか、ダビーがユリのことを抱きかかえている様に見える気がするんだが、俺の気のせいか?」

『奇遇だな。実は私にもそう見える』

 …………えーっと。

『た、たぁぁぁすぅぅぅけぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ』

 ヘッドセットから響くユリの悲鳴で、俺たちはようやく我に返った。

 大事じゃねぇか!!




この作品は数年前に書いたものに加筆修正しているわけですが、

今回部分を書いていた時の自分は正直、

さすがにどうかしてたんじゃないかって今でも思う。


ねくすと → ♪ドカンと一発! やってみよーおよー!

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