颯爽桜はマジ天才。 4
†
すこし蛍光っぽい緑色の、液体。
桜が少し容器を揺すった。若干粘度が高いらしい。トロリとした感じで容器の中を揺れている。
俺は勿論、杉山も、ユリも言葉を失っていた。というか、雰囲気に飲まれているという方が正しいか。外から聞こえる自動車のクラクションの音が、どこか遠い世界の物のように聞こえる。
「……驚いてくれたのは嬉しいが、なんか反応をしてもらえないと寂しいんだが」
どこかおどけたように桜が言うと、杉山が応じた。
「いや、なんというか。ほら、タケコプターの時とかと違って、物凄いマジな感じがしているから、どう反応していいかわからなくって」
頬を掻きながら杉山が笑った。ねぇ、とユリの方を向くと、真剣な顔をしてエーテルを見詰めていたユリがハッとして、慌てて答えた。
「う、うん。なんや凄いもったいぶっとったから、もっとこう、ゴワーッて感じで出てくるんかと思うたから……ちょい拍子抜けとゆうか」
「きみたちは、私のことを何か誤解してないか?」
ジト目の桜。いや、誤解されて仕方ないと思うぞ。
「エーテルって、アレか。飲むとマジックポイントを回復できるアイテムだよな。……つまり滋養強壮剤か?」
と、俺は頬杖をつきながら尋ねると、桜は笑った。
「メロンソーダといい、お腹が空いているのか、達樹。飲みたければ止めはしないが、腹痛と下痢も止まらなくなるぞきっと。お勧めはできないな」
「腹は減っているけどな」
んで、と俺は続ける。
「それが、昨晩の泥棒が狙っているってやつか。杉山じゃねぇけど、正直そんな大層なモノにも見えないんだが。一体、どんな効果があるんだそれ」
俺の言葉に、桜が頷く。
「実は既に、私は達樹の前でこの『エーテル』を使用していたりするんだぞ。杉山くんとユリもその場に居合わせている。もっとも、こんな剥き出しな形ではなかったけどな」
まじで?
俺が眼を丸くすると、桜がニヤリと笑った。仕掛けていた悪戯に上手い事誰かハマった時の、ワルガキのような笑みだ。
「タイムマシンの、あの電源ケーブル。達樹は、妙に太いと思わなかったか?」
「…………!」
「タケコプターの時は達樹がケーブルを繋げてくれただろう。触ってみて変にブヨブヨしていると思わなかったか? あのケーブルの中は、銅線と、この『エーテル』で満たされていたんだ」
あれか……!
「確かに、触ったときびっくりしたよ。そうか、その液体が入っていたからか」
杉山が納得した声を上げた。『どこでもドア』起動のときに、コイツもあのケーブルに触っていたんだっけか。
桜は背後の黒板に向き直るとチョークを手に取った。カツカツと白線が踊って、一つの英文が記される。
『the Electrical effecter of Amplify-and-diresist, Transmit, Liquid material』
「略して『EATL』……エーテル、だ。直訳すれば『電気的な増幅と抵抗減少・伝達効果のある液体物質』と言ったところか」
電気的な、ねぇ。
桜は続ける。
「本来であれば、『エーテル』というのは存在予言物質というやつでな。古典物理学で『光を伝達する物質があるんじゃないか』と言われていたんだが、近代になって光というものの性質が解明されるにつけどうにも存在が疑われているんだ。そこで名前を拝借させて頂いたんだ」
なるほど、と杉山。
「ゲームなんかに登場するエーテルっていうのも、元ネタが被っていたってことなのかな」
「そういうことだな。だから、これを飲んでも魔法力は回復したりはしないと思うぞ」
そりゃそうだ。
「で、桜。電気がどうのこうのって言っていたけど、よくわからんのだが」
電気が増幅で減少だっけか?
そうだな、と桜が少し思案し、例えば……と口を開く。
「達樹。君は、『発電ロス』という言葉を聞いたことはないかい?」
問われて俺は少し考えてみたが、首を傾げるしかない。
「いや。初めて聞く言葉だな」
「聞き馴染みの無い言葉だろうからな。まぁ無理も無い」
頷きながら、桜は続ける。
「例えば火力発電所では燃料となる石油やガスを燃やして電力を生産するわけだが、燃料の持つエネルギーの全てが電力へと変わるわけではない。その損失部分のことを『発電ロス』というんだ」
桜の説明によると、火力発電の方式にも色々あって、その一つに燃料を燃やしてお湯を沸かし、その水蒸気の力でタービンを回す汽力発電というものがあるそうだ。原子力発電でも用いられる、一番メジャーな発電方式だそうな。
でもって、お湯を沸かすまでに逃げてしまう熱もある。燃料から発生するエネルギー全てを完全に無駄なく電力としてご家庭や工場で使用しているわけじゃない、と。
「実はこの『発電ロス』、結構馬鹿にならない数字だったりするんだ。どれくらいだと思う?」
桜が杉山のほうを見た。
勢い良く立ち上がった杉山が元気良く答えた。
「ハイ、先生。三十パーセントくらいだと思います」
あ、またそのネタ引っ張るんだ。別にいいけど。
「ユリはどれくらいだと思う?」
「え、えーと。……二十パーセントくらいとちゃいますやろか」
二人の答えを聞いて、桜がにやりと笑った。
「六十だ」
「えっ」
「燃料の持つエネルギーを百としたとき、生産する電力四十に対し、ロスは六十だ」
実際には送電のロスも発生するから、私たちの手元に届く電力というのは三十八くらいになる、というデータが存在すると桜は説明を続けた。
「……マジかよ」
俺も杉山も言葉を失っていた。百パーの発電は有り得ないにしても、まさかそんなに失われているということは本気で驚きだぜ。
「そこで登場しはるのがその液体や、ということでしょうか?」
「その通りだ」
ユリの言葉に、不遜な笑みで桜が頷く。
「この液体――『エーテル』で満たしたケーブルを使用した場合、二パーセントの送電ロスがコンマ三パーセントまで落ち込む。電気抵抗減少の効果だ」
たった二パーセントと侮る無かれ。百万キロワットという莫大な電力を生産する発電所単位で考えれば、燃料比二パーセントとは、即ち五万キロワット。日本の一般的なご家庭一世帯の消費電力十年分を賄って余りある数字だ。
「それは凄いですね」
杉山が感嘆した声を上げた。
しかし、俺はそんな杉山を尻目に小首を傾げる。
「いや、スゲーはスゲーんだろうけどさ。なんかいまいちピンと来ないな」
「そうは言うがな、達樹。仮に、発電所から達樹のうちまで、この『エーテル』を充填したケーブルを敷設したとしたら、月々の電気使用量が若干だが安くなるぞ。五百円くらい」
「そりゃ母さんが泣いて喜ぶわ」
と、桜の冗談に手をヒラヒラとさせて答える。
「二パーセントの電力も侮れないってのは解ったけどよ。俺が言いたいのは、それだけじゃあ昨晩の様な奴らが狙うには物足りないよーな気がするって事だよ」
脳裏に焼きついている、あの男たちの動き。俺に見られたと気が付いた瞬間からバンに乗って逃走するまでの一連の流れの滑らかさ。一切の無駄が無く、躊躇いも動揺もない。
あれはもう、ああいう行為を専門とし、そのための訓練を積んでいる集団――つまりはプロだとしか思えない。それも窃盗の、ではなく、時にはもっと荒っぽい手段に訴える事も辞さない連中だとしか。
そんな奴らが狙うのが、ご家庭の消費電力十年分、ねぇ。
もちろんそれは例え話の数字であって、日本中の発電所で考えればもっと途轍もない数字になるのだろう。だが、なんというか、腑に落ちない。
口をへの字にした俺がそう告げると、桜はフム、と顎に手をやった。
「勘がいいな、達樹。実は、このエーテルの本領は電気抵抗の減少ではない」
言いながら、桜は改造された黒板に向き直る。再び開いた隠し棚に手を突っ込み、取り出した新たな容器に入っているのは、『エーテル』とよく似た色の……粒か、あれは。桜が容器を揺すると、トロリとした感じだった液体と違ってこちらはサラサラと容器の内部で跳ね回る。粒の一つ一つもとても小さい、まるで緑色の砂粒だ。
「この砂は、『エーテル』を特殊な工程で結晶化させたものだ。この『エーテル結晶体』を『エーテル』に一定の割合で混ぜたものに通電すると、増幅するんだよ」
「増幅って、何をですか?」
杉山の問い。桜はさらりと答える。
「決まっているだろう。電気だよ」
「…………」
じわり、と桜の手にある緑色の物体の価値が、俺の様な凡愚にも理解でき始めてくる。
「増幅って、どれくらいだ?」
背中に冷たい汗を憶えつつ、平静を装って俺は尋ねた。
「家庭用コンセント一本から、二日でタイムマシンを充電できるくらい」
「…………それは」
俺は言葉に詰まった。
「もっとも、タイムマシンやタケコプターの場合はレアケースだ。ケーブルや内臓の電池にもこの結晶体をふんだんに使用しているし、電力の使用効率も従来の機械類とは比べようも無いほどアップしているからな」
そう前置きして、桜が説明を始めた。
「仮に、あらゆる送電線や電源ケーブルにこの『エーテル結晶体』を充填したとする。その場合、計算上では四十の電力が、最大で九十五まで増幅されることになるな。これが何を意味しているか、わかるかい?」
得意げに桜は、言葉を失っている俺たちを見回した。
「つまり理想的な条件下では、先ほど話した『発電ロス』が、六十パーセントから五パーセントまで抑えられるっていうことだよ」
「ご、五十パーアップとは、また凄いな」
かろうじて俺は言葉を搾り出した。
それは、見方を変えれば発電効率が格段にアップ――いや、格段という単語では生温い。
既存の電気関連産業のあり方を、根底からひっくり返しかねない、ということではなかろうか。
そう思っていたら、杉山が首を振った。
「違うよ、梶原くん。今まで四十が一杯一杯だったものが、九十を超えた。それって五十パーセント増じゃないよ。二.五倍。結果で言えば、発電量が百五十パーセントの増加するのと同じ」
息を飲む。
「な、なんやねんそれ……」
ユリがかすれた声を上げた。
「あくまで試算だがな」と桜は涼しげに言う。
「しかし、これで様々な問題に解決の糸口が見えてくる。例えば、消費する一方の化石燃料や天然ガスの残量だ。世界中で発電のために使用される化石燃料は莫大だ。何もしなくても流通電力が倍以上になるのだから、発電量そのものを減らすことで化石燃料の節約になる」
二十年で枯渇すると言われる化石燃料の寿命が変わってくるかもしれない。また、発電所が排出する温暖化ガスも抑える事ができるはずだ。
「また、少ない発電量をカバーするという視点から見れば、天候や立地に左右される太陽光や風力による発電量の割合が増えるかもしれない。自然力由来の発電所が増えれば、原子力反対の気風も強くなるかもしれないな」
あるいは、と桜。
「もっとミクロな視点を見てみれば、単純に考えて毎月の電気代が半分になる、と解釈も出来る。それに最近では一般家庭でも太陽光発電を行っていたりするからな。エーテル式太陽光発電パネルというものを開発すれば、電気代が浮くどころか、余剰電力を電力会社に売って食費光熱費を賄ってまだ余るよ」
更に、と続けて桜は『エーテル』の持つ、様々な可能性について説明を重ねていく。
例えば、タケコプターにも装備されていた『エーテル結晶体』を使用した特殊電池の開発。あるいは水素電池と併用した、電動自動車の実用化について。または、新機軸の電化製品が生まれるかもしれない。
また、現在研究されている、化石燃料や原子力に代わる新しいエネルギー開発の一助となるかも知れない。電力を増幅ってことは、僅かな発電量しかない新エネルギーであっても実用レベルに引き上げることができるってことだからだ。
そんな様々な未来予想図を、俺たちはあんぐりと口を開けた間抜け面を晒して聞いていた。余りのぶっ飛んだ内容についていけなかった――というか、あまりのその現実感に、生々しさに、ついていけなかった。
今までのタケコプターやらタイムマシンやら、それこそ漫画の中のお話だった。凄いは凄い、に違いないが、単品で完結している発明だったんだ。
不完全ながらも『漫画の様な』を実現した桜の天才ぶりは疑うべくも無いが、それらとこの『エーテル』は、そもそもの前提が全く違う。
現在の。
いや、現代の文明は、電気に依存していると言っていい。
校内をざっと見渡しただけでも、時計やスピーカー、プロジェクター、パソコン、プリンタ、ファックス、コピー機、エアコン、冷蔵庫といった電化製品に溢れている。携帯電話や腕時計だってそうだし、もっと大きなもので、自動ドアやらシャッターやら、電車。自動車は電気駆動のものが普及しつつあり、船や飛行機だって、どこかで電気を使用してる。
全て電気、電気、電気だ。
「勿論、机上の空論の域を出ないがな。だが、仮に日本中の電気ケーブルを『エーテル結晶体』式に交換するとなれば、億単位どころじゃない金が動く。数百兆、あるいは京に届いたっておかしくないな。公共工事で経済が潤うぞ」
経済どころの騒ぎじゃない。
この電化文明の根底を、一から入れ替えていくようなモンだ。世界で同じ事をやれば、京どころかそのさらに上の単位――亥に届くのではないだろうか。
いや、それだけじゃない。
桜はさっき、原子力がどうのこうの、化石燃料がどうのこうのと言っていた。
ほんのちょっとでも頭の回るヤツだったら、すぐに予想できる。この『エーテル』の存在が、そのまま国際的な政治の駆け引きに影響するだろう、と。
産油国、と呼ばれる中東各国は、この『エーテル』の存在を危険視するかもしれない。自分たちの商売の妨げになるのだったら当然だ。
逆に電力業界の人間は須らく『エーテル』を欲しがる。喉から手が出るどころの騒ぎじゃない。
俺はかすれそうな声を絞り出した。
「なぁ、桜。もしも、だぞ。お前が言っていることが全部実現するとして、だ。『エーテル』の特許を握っているとしたら――幾らぐらいの額になる?」
俺の問いかけに桜は腕を組み視線を巡らせて、数秒黙って考えこんだ。
「そうだな。仮定に仮定を重ねた上での概算だが……どんなに軽く見積もっても、時給で数千万ってところじゃないか。まぁ条件次第では億に届くかもな」
時給で億かよ。
「もっとも、特許というのは各国で一々申請しなきゃならないし、世界規模で『エーテル』を広めていくのだったらもう個人では無理だ。会社を設立する事になる。いずれにしても莫大な金になることには間違いないな。左団扇で右団扇だ。最早大富豪ってレベルじゃないぞ。日本の年間国家予算を上回る冨を築くことも不可能ではないな」
「は、ハハッ」
開いた口が塞がらないってなこのことだな。思わず笑いが漏れて出てしまった。
「なるほど。昨晩の奴らが狙うってのがようやく納得できたぜ」
恐ろしい額の金が手に入る。いや、それ以上に政治的経済的にも価値があるものだというのであれば、プロ集団が動いたとしても不思議な話じゃないってワケだ。
となれば、桜が昨晩、あんなに落ち着いていたのにも説明がつく。
俺だってうっすらと推察できたんだ。だったら、この桜が、『エーテル』の持つ価値、ましてやそれを狙う敵がいることに気付いていないわけが無いのだ。
「達樹」
と、桜が『エーテル結晶体』の入った容器を放り投げてきた。胸元で受け止める。
間近で見てみると、精々緑色した塩か何かにしか見えないんだが、なぁ。
「要るかい? 欲しいのだったらやるぞ、それ」
「それって、コレか?」
手にした容器を見せると、桜は首を振って否定した。
「いや、『エーテル』関係の権利全てだ。左からも右からも美女が団扇で扇いでくれる富豪生活。毎秒十万円使っても使い切れない勢いで通帳の残高が増えていくぞ?」
「ふーん」
と、俺は考えてみたが、駄目だ。なんつーかもう、俺の想像力じゃいまいちピンとこない。
つまりそれって、今の俺の手には余るって事だろうな。それに、そういうので金や地位を手に入れたところで、それは何か違う気もするし。
もっと言えば、ンな権利なんか手にしたらきっと俺は、桜のことを殴ったりしちゃ駄目になるんじゃないかな、と思う。
桜に容器を投げ返した。
「いらねーよンなもん。メイド・バイ・桜の扇風機で充分だ」
チンケなプライドかも知んないけどな。
視界の端で、ユリと杉山が絶句するのが見えた。大富豪になれる権利をやる、と言う方も馬鹿だが、拒否するのもそれに輪をかけて馬鹿だからな。しかも俺、桜を殴ってもいい権利と大富豪になれる可能性を天秤にかけて、桜殴る方選んじゃったよ。
笑えることに、殆ど即答で。
けど、な。
「……達樹だったら、きっとそう言うと思っていたよ」
そう言って桜は、どこか嬉しそうに柔らかな笑みを見せてくれた。
ほらね。
†
二日後。
翌朝から再開される新聞配達のバイトに備えて早くに就寝していた俺は、深夜に揺すり起された。
「……くん。起きてくれへんかな、梶原くん」
「……んぁ?」
豆電球に照らされて、橙色に染まる室内。そこに、誰かが――いる。
家族じゃない。桜でもない。そう思った瞬間、俺は身体を起そうとして、失敗した。
「んな……!?」
いつの間にか、両腕が拘束されている。両足も同様だ。
無様に身を捩る俺を見て、侵入してきた誰かが笑う。そいつは立ちあがると電気を点けた。眩しさに目を細める俺に、そいつは何か棒状のモノを突きつける。
「お願いやから、静かにしとってね。騒がれたら厄介やから」
灯りに照らされる、金色の髪。
微笑む原田ユリが、そこに立っていた。
なんでこんなところに。そう思うと同時に、屈強な体格の男どもが二人部屋に入ってくる。どちらも揃って黒装束に目出しのマスクを被っていやがった。
「てめぇ、ユリ……!?」
確認するまでも無い。 ユリは、『エーテル』を狙う集団の一味だったってことか。
睨み付ける俺の眉間に、棒状のモノが更に押し付けられて俺は息を飲む。ずしりと重厚な存在感のある、オートマチックの拳銃だ。消音装置というヤツだろう。銃口に筒状のものをつけている。
「こないなところで撃ったりしたら、明日大騒ぎになるやん。ウチかて友達撃ちたないし、梶原くんには利用価値あるし。できる限り殺さへんようにしときたいねん」
くそ。
怒りを込めて睨みつけたところで、この状況をひっくり返す事なんて出来ない。
「いい貌や、梶原くん。アンタこの件が終わったらウチらのチームに来ぃへん? 前から思っとったんよ。アンタやったら腕利きになりそうやわ」
「はッ。一昨日来やがれってんだ。どうしてもって言うんだったら、桜と『エーテル』に手を出さないって条件で飲んでやるよ、無い乳女」
「頭も回るし、度胸も据わっとる。余計アンタのこと欲しゅうなったわ」
ニヤリ、と今まで見せた事の無い歪んだ笑みを見せるユリ。
「でも、却下や」
ユリの腕が振りかぶられ、振り下ろされた。銃床で殴りつけられて、目の前に火花が飛んだ。
「今のは断崖絶壁洗濯板って言ってくれたお礼や。結構気にしとるんやで? ……連れて行き」
その言葉で、男たちが寄ってくる。
「くそったれ……!!」
歯噛みしたところで、両手足を拘束された俺は碌に抵抗することも出来ず、猿轡を噛まされ男たちに担ぎ上げられ。
そしてなすすべも無く、俺は誘拐された。
つーか、断崖絶壁洗濯板とか言ってねぇよ!!
実は色々伏線を仕込んでおいたのさ。
英訳は適当。気にしたら負けって思ってる。
ねくすと → 囚われの王子様を助けに、お姫様が改造チャリで爆走するとかしないとか。




