蛾
タカシは翌日の仕事がなかなか手につかなかった。どんな場面にもロサの顔が浮かんでくる。こんなときは恋なんて、少し厄介な代物だ!?
そういえば彼女の家はどこなんだろうか?コンビニからは反対方向に歩いて行ったけど・・。もしかしてコンビニてま待ち伏せすれば、また会えるかもしれない?!
私とタカシは、別に恋人同士ではない。ただの幼なじみ・・。だから、タカシの恋は応援してあげないといけないのかな?!
『頑張ってアタックしてきな!』って背中を押して、その後一晩だけ泣けばそれで・・。
「あれ、ロサは?」とラネ。
「コンビニ行くって」とクレ。
「ねー、ロサ、まだ元気ないよね」とユカ。
「そうね、続いてるのかな恋患いは!?」
「みたいだね・・」
「ミユキって娘には悪いけど、応援してあげようよ、やっぱりロサを!」
「応援って、どうするの?」
「とりあえず二人きりで話をするチャンスをつくってあげなくちゃ」
「なるほど」
「でも、連絡先わからないでしょう」
「そっか」
ロサのことを真剣に心配する3人のキノコ娘たちでした。
ロサはコンビニで特に買いたいものがあった訳ではなかった。ただ何となく、足がコンビニに向いていたという方が正しい。店のなかに入るわけでもなく、前を行ったり来たり!確率の低い偶然に、どこか期待している。
そしてタカシもコンビニに向かっていた。これは単なる偶然ではない。似た者同士の宿命みたいなものなのだ。
「あっ!」
ロサは自分の方に歩いてくるタカシの姿を見つけた。どうしよう?ロサは咄嗟に物陰に身を隠した。
そこからしばらくタカシの行動を見ていたが、ロサと同じく、店に入るわけでもなく、前を行ったり来たり。
そんな光景が、ロサはなぜかおかしくてたまらない!
「そこまで同じことしなくてもいいでしょ!」そう言ってタカシの前に姿を見せた。
「ロサさん!」
「タカシ、いやタカシ君、私と同じことしてるね!」
ロサはやさしく微笑んでみせた。
「えっ?」
「私も今までそこで、あなたと同じことしてたの。用もないのに、あっちに行ったりこっちに行ったり・・」
「・・おかしいですね!」
「ほんと笑っちゃうよ」
「よくこのコンビニは利用するんですか?」
「家がここから5分位だから、たまにね」
「僕もこっちに5分位!」
「反対だね私と」・・。
不意にロサの顔が、タカシの顔に近づいてきた!
タカシの心臓はバクバク音をたてた。
「動かないで!」
「うっ!」
そう言うと、ロサはタカシの左肩に『ふぅ』と息をかけた。
タカシは、ロサのこの行動をどう受け取っていいのか・・。
「はい、もういいよ」
「ん?」
「あれ」ロサは地面を指差した。
「あっ」その時、一匹の蛾が動きを止めた。
「ロサ、コンビニで何買ってきたの?」とラネ。
「うん、ちょっと。それよりこれから出掛けない!?美味しいものを食べにさ」
「それはいいけど・・」
「なんかロサ、ハイテンションだね!」とクレ。
「いいことあった!?」ユカは聞いた。
「色々とねー・・」
4人は、おしゃれな洋風酒屋に場所を移していた。
「あのさロサ、私たちあなたを応援することにしたから!」とユカは切り出した。
「何よそれ?」戸惑い気味のロサ。
「タカシとのことよ!私達は所詮毒キノコだし、どんなに人間を好きになっても、結ばれることはないのかもしれない。でも、それじゃあ寂しすぎるよ!未来なんて関係ない、現在進行形のロサの気持ちを応援しようって」ラネはそう言い終わると、グラスのビールを一気に飲み干した。
「なんとかロサとタカシが話をする場面をつくってあげるからね!」とクレ。
「皆ありがとう。でも、今話してきたとこよ!」
「誰と!?」
「タカシ」
「えー!いつの間に・・」3人の驚嘆な声。
「偶然コンビニで会って、それで・・」
「もしかしてロサ、告白したの?」
「してないよ。ただ肩の蛾をとってあげただけ!」
「蛾を・・?」
そんな話ばかりしているとまた現れるよタカシたちが・・。約束なんかしなくても、なぜか引寄せ合っちゃうんだよね特別な人同士って!不思議・・。