適材適所
「ロサ、今日は足立区の○○神社の境内まで行ってくれ」
「えー、足立区ですか~!遠いな~」
「でかいのがあるらしいからな!」
でかいのとは当然スズメバチの巣のことだ。
「防護服をしっかり着込んで行けよ。刺されたらひとたまりもないからな・・」
「はーい」
まあ、私には防護服なんて必要ないけどね。私の体を刺したとたん、スズメバチの方が瀕死の状態になっちゃうんだからさ。
「こんにちはー! セキュリティーカンパニーのロサでーす」
「ああ、よろしくお願いします・・て言うかお嬢さんが巣の駆除をしてくれるのかい?」
「はーい!お任せください」
「はあ?!」
「あそこです」男が指差す先には、直径1メートルはあろうかという巨大なスズメバチの巣が!
巣の周りには何びきかのスズメバチが飛び交っている。
「はい、了解しました!」
「気を付けてくださいね」
そう言って男は去っていった。
そしてロサは、スズメバチの巣に向かって息をフーっと吹き掛けた 、ドクツルタケ の毒素入だ。作業はこれで終わりである。
「終わりましたよー!」
「何が?」
「何がって、駆除ですけど」
「何の?」
「蜂の巣の・・」
「それはどうも・・」
男があっけにとられるのも無理はない。所要時間はたったの1分なのだから!
ユカの今日の仕事は、ウサギやハムスターのノミとダニの駆除。ユカの場合も仕事は簡単!ただ動物を撫でたりだっこしたりするだけでいいのだから。あとは、体から出るヤマドリダケの毒素が、ノミやダニをやっつけてくれる。
それにしてもウサギってかわいいよね!特に目なんて私にそっくりだわ!赤紫で・・。
クレの今日の担当は、バラの花の害虫駆除。こんなとき彼女は、いつも悲しいことを想像する。その時こぼれる1滴の涙を大量の水に混ぜ、それを植物に散布するのだ。この際、間違っても2滴以上の涙をこぼしてはいけない。そんなことをしたら、花ごと枯れてしまうから!それに、バラ大好きのラネに、あとで何を言われるかわからないしね。
ラネの仕事は除草係。広い敷地に、庭石が置かれ、池には沢山のコイが泳ぎ、滝が落ちる日本の伝統的庭園も、草ぼーぼーでは話にならない。ラネはペロッと指先を舐め、貯水槽にその指を浸す。あとはスプリンクラーのスイッチを入れるだけ。こうすれば綺麗に雑草だけが枯れていく!
こうして4人の一日は過ぎていく。適材適所とは、彼女達のためにある言葉なのだ!
今夜のディナーはインド料理!4人ともスパイシーな味が大好きだ。するとそこにまたしても・・。
「ふうー、この匂いたまらないよなあー。まるでインドに来たみたいだぜ」とタカシ。
「ロサ、またあいつらよ」とラネ。
「本当だ。あんなこと言っちゃってさ、インドなんて行ったことないくせに!」
「オサム、あの娘達・・」
「あっ!いつかの・・」
「うわ!また今日もあの過激なファッション」ドン引きのミユキ。
「どこにいても目立つよね!」とヒロコ。
その時だった。タカシとロサの目が合ったのは!!
なんだこの感じは!?視線が外せない。体がいうことをきかない。鼓動がバクバク、どんどんスピードを速めている。
「タカシ、どうしたの?」そうミユキに言われるまで、僕の体はガチガチに固まっていた。
「いや、何でもないよ」
うっ、視線が外せない。何なのこの感覚は!?どうしちゃったの私、体が動かない。あの男の瞳に吸い込まれて行きそう・・。
「ロサ、ロサ、どうしたの?」そんなクレの言葉さえ耳に届かないほど!
「えっ?・・うんん・・」
「変なロサ」
「ここのカレーは超人気なんだよな!このサラサラのルーが絶品でさ、スパイスの加減もちょうどいいし・・」そんなオサムのうんちくなど、ひとつも聞こえていないタカシ。
「オサム、本当にわかって言ってるの?」とヒロコ。
「当たり前さ!この前雑誌で読んだんだから」
「やっぱりね・・」
「タカシ、タカシ・・」
「えっ?」
「なに、さっきからボーっとしちゃって」
それがタカシにもはっきり理解出来ていないのだ。
「あれ?ロサ、赤くなってるよ」ロサの顔を覗き混むユカ。
「何が、最初から赤いわよ私の目は」
「目じゃなくて頬っぺだよ!」
「えっ!」思わず手を頬にあてるロサ。
「熱でもあるんじゃない?」とラネ。
「大丈夫よ」
「そう、ならいいけど」
タカシとロサ、この二人、不意に目が合ってから、妙な感じになっちゃって。これってもしかして恋のシンパシーってやつ・・!?
「おいタカシ、今日のお前なんだかおかしいぞ」店を出るなりオサムが言った。
「そうよ、ずっとぼんやりしちゃってさ!」とヒロコ。
「タカシ・・まさかあなた・・」
ミユキの直感は、嫌な方に嫌な方に進んでいた。
「何でもないって」
こんな時の女の勘は鋭いのだ!
「あー美味しかったね!」満足顔のクレ。
「ロサ、あまり食が進まなかったみたいだけど」とラネ。
「そんなことないよ。美味しかったし・・」
「なーあんか変ね?!ロサ・・白状しなさい」
怖い3人の勢いに、ロサは負けていた。
「何よそれ!」叫ぶユカ。
「この辺がドキドキしてるの?」ロサの胸に手をあてるラネ。
「それは恋患いだね」ズバリ言うクレ。
「そうなのかしら・・」
ロサは自分の鼓動の大きさに、少し戸惑っていた。
「タカシ、あの中の誰かを好きになっちゃったのかも」
ヒロコの耳元でミユキは言った。
「えっ!あの中って?」
「例の4人組よ。派手な衣装の」
「まさかあー・・、だってタカシにはミユキがいるじゃない」
「私達はただの友達よ」
「うそ!好きなんでしょ、タカシのこと」
「そりゃあ、いいなとは思うけど・・」
「考えすぎよ」
「そうかなあ?」
「ヒロコ、ミユキ、二次会はカラオケでいい!?」
前の方からオサムが叫んでいる。
「うん」
「じゃあ二次会はカラオケにしようか!」とラネ。
「そうだね!久しぶりだよねカラオケ」ノリノリのクレ。
「ロサも行くでしょう?」
「うん」
「大声を出してモヤモヤをぶっ飛ばそう!」
「そうだね」なんとか笑顔が戻ったロサ。
「今日は金曜か、混んでなきゃいいけどな」
「そうね、急ぎましょ!」
「タカシ、行くよ」とミユキ。
「そうだな、パーっと歌うか!」
「4人ですけど空いてますか?」と店員に聞くオサム。
「ああ、今は8人からの広い部屋しかないな」
「えー、そこをなんとか4人で・・」
「すみませーん、4人なんですけど・・」
「ありゃあ、こちらも4人か・・そうだ、あっちのグループと合流しちゃったら!」
「あっちの・・ああー!」叫ぶクレ。
「ああー!」叫ぶヒロコ。
どこに行っても一緒になっちゃうね!