悪趣味な部屋と仮面
「気付いた時には知らない場所に立っていた事って、ありますか?」
こんな質問を誰かからされた際、大多数の人間は「そんな不可解な経験はない」と答えるだろう。中には「飲みすぎちゃって気付いたら家にいた」や「振られたショックで、どうやって帰って来たのか覚えていない事があった」という答えも帰ってくるかもしれない。
俺こと黒谷渚も最近まではその大多数に含まれる一人だった。
『だった』だ。そう、過去形。現在進行形でその不可解な経験をしている。
一連の流れは実に簡単だ。喉が渇き、近所の自販機まで飲み物を買いに外に出た。道を歩いていて、ふとした瞬間目の前が真っ暗になった。うわっと思った時には目の前には珍妙な格好をした人が立っており、悪趣味な仮面を被っているから素顔は見れない。
周りを見渡しても何処かの部屋である事はわかるが、当然知らない場所だし、髑髏の装飾品や血を思わせるような赤褐色のテーブルなど、趣味の悪い装飾が目立つ。
部屋の主だと思われる仮面人間はというと……。
「……」
めっちゃ見てるし……。仮面で視線の先はわからないけど激しく視線を感じる。
何というか、中世とかでよくあるローブっぽいのを着てる。コスプレ?
だとしたら随分と悪趣味な衣装だな。特にあの仮面とか装飾過多だし重くないのかな。
とはいえ今の状況じゃ話しかけるしかないか?
ここが何処かとか、色々聞きたいことが多い。
「あ、あの。いきなりこんなこと聞いてすみません。ここどこかわかりますか?」
とりあえずコミュニケーションを取れるか確認。見た目で判断しちゃいかんよね。うん。
「っ!!……」
あれ? 言葉が通じないのかな……。て事は外人さんか?
いや、まだ言葉が通じないって決まったわけじゃないな。ちょっと人と話すのが苦手なシャイガイって事も考えられる。あの仮面だってきっと人前じゃ恥ずかしいから着けてるに違いない。趣味悪いけど。
「俺気付いたらここにいて、無断でここに来たことは謝ります。だから「黙れ!!」!?」
「もう貴様は喋るな。貴様の声は…いや、存在そのものが不快だ! 今、ここで殺して……消滅させてやる!!」
えっ!? 殺される!? ってかなにその理不尽な理由! ふざけん……な……?
なにあれ、右手に……炎? 手品?
「貴様の存在が許せん! 塵一つ残さず消え去るがいい!!」
なに!? 俺この人に何かした!? ってかやばいって。基本争い事とかしないのが俺だよ? あんな物騒な人に勝てないって!
『敵は作らず。みんな仲良く』が信条の俺だ。絶対無理だって!!
って今はそんな事考えてる暇はないか。今にもあの火の玉投げてきそうだ…し……。
「もう目の前に投げつけられてたとか……。しかも火の玉超でかくなってるし。これは死んだかな」
馬鹿な事を考えていたせいか、気が付くと自分の身体より遥かに大きな火の玉が。いや、もう炎の壁って表現した方が正しいか? それが目の前にあった。
あぁ……二十歳で死ぬとかやだなぁ……。しかも周りの景色がスーパースロウで見えるんだけど。これが走馬灯ってやつか? 違うか。
どの道じっくり焼かれて死ぬとか絶対嫌なんだけど……。
いざその業火がこの身を焼き尽くそうとしたその瞬間、ある事に気付いた。
「っ!! ………? あれ?」
いつまでたっても熱くならない。と言うか目の前で炎の壁が静止してる。ただし自分の身体も動かない。
おい、結局駄目じゃねーか! 身体は動かなくて目の前には炎の壁。なにこの拷問。地味に熱いし詰んでるじゃん。
なんて事を考えてると、急に足元が白く光って俺の事を包み込んだ。そして本日2度目の視界のブラックアウトだ。
「いったい何がどうなっちまってんだ……」
自然と出た言葉が誰に届くこともなく、虚しく響いた。
あぁ……。遂に投稿しちゃった……。
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