中篇
「幽霊は、なんて言ってる?」
「言葉じゃないんだよ・・・難しいんだけど・・・」
遙が受信する情報は、感情や映像といったものが多いらしく、
それらをパズルのように組み立てないと、「幽霊」が何を言わんとしているか理解できない。
はっきりと言語として聞こえるわけではなく、
言葉を聞いたあとの「余韻」のような感覚が頭の中に残る。
だから、「幽霊」が何を伝えたいのかは、非常に集中力を要するのだ。
「雅也、昨日冷蔵庫に入れてきた私の分のプリン食べたでしょ。」
「・・・ごめん、2つ全部食べちゃった。そんなことも分かるのか?」
「幽霊が教えてくれるたんだよ。」
他にも雅也しか知りえない情報を、遙はいろいろ知っている。
でも、雅也が「恥」と感じる部分は決して遙は触らない。
だから遙の言う事に、雅也は「真実」を感じる。
「結論を言うとね、雅也これから大変なんだよ・・・」
「・・・もう大変な事になってるから。」
どのような話を聞こうと、これ以上の混乱はないだろう。
「明日か、明後日か・・・雅也死んじゃうんだ。」
「なるほど・・・・」
「驚かないの?」
「十分に驚いている・・・」
実際、「近日中に貴方は死にます」という予告状をもらって、
本当に死んでしまう人など皆無であろう。
しかし、ことごとくの千里眼を目の当たりにしたのでは、
まったく信じないわけにはいかなかった。
「俺にそんな話をしたって事は、それを・・・つまり、
死んでしまう事を回避できるから教えてくれた訳だ。」
「当たり前じゃない、本当に死んじゃうんだったら、教えないほうが幸せだわ。」
遙には血だらけとなり横たわる雅也のイメージが受信されている。
最初は横たわるだけのイメージだったが、集中するにつれ、
何故そのような事になったのかが理解できた。
「いい事と、悪い事を話さなきゃならないけど・・・」
「あぁ、悪い方からにしてくれ・・・」
雅也は、「死ぬ」と予告されているのだ。
いかなる悪い情報でも、それ以上の衝撃など無いだろう。
嫌な事は早く済ましたい。
「これは、何日も前から感じていたことなんだけど・・・」
雅也の住むアパートの住人が、幽霊にとりつかれているのだと遙は説明する。
雅也のアパートを訪れるたびに、強烈な「思念」を残した「霊」であることがわかったが、
遙は頑なに「拒絶」することで、電波の受信を拒んでいたのだという。
同時に、とりつかれた住人の「生」が弱まっていく事も感じた。
「どこの誰かはわからないんだけれど、自殺するんじゃないかって思うの。」
「つまり、死ぬのは俺じゃないのか?」
「でも・・・関係はあるみたいなの。」
遙の瞳の色は、彼女の不安を映し出す。
「それがどういうメッセージなのか分かんなくて悩んでたんだ・・・」
アイスコーヒーのグラスが乾いた音を立てる。