第五話
これで一応は終わりです。
俺ら第一航空艦隊司令部は内火艇に乗り込み、聯合艦隊旗艦大和に接舷した。舷梯を昇って大和に乗艦した。
「……デカイ……」
俺は大和を見てそう呟いた。特に大和の四六サンチ砲を強大だな。
ライカで撮りたいが、怒られそうだから止めておくか。
「此方です」
「うむ」
迎えに来た佐官の案内の元、山本長官がいる作戦室に入室した。
作戦室には山本長官、宇垣参謀長、黒島大佐、他の参謀もいた。
「第一航空艦隊、インド洋から帰還しました」
「うむ、一航艦の活躍は聞いているよ。ま、座りたまえ」
「失礼します」
山本長官は穏やかに言って俺は与えられた椅子に座り、臨時に航空参謀になっている淵田中佐がインド洋の報告を始めた。
「……このように、第一航空艦隊の戦果は戦艦五隻、空母三隻、巡洋艦五隻、駆逐艦七隻を撃沈しました。航空機の喪失被害は五一機です」
「ふん、蒼龍クラスの飛行隊が壊滅ですな。一航艦には困ったものです」
淵田の報告が終わると、黒島がそう言った。俺はムカッときて言い返そうとしたが、宇垣参謀長が口を挟んだ。
「それは違うぞ黒島。一航艦は航空機の喪失被害は多いが戦死者は少ない。五一機のうち半数近くの二六機の搭乗員を救助している。これは他の部隊も見習うべき事だ」
宇垣参謀長の言葉に山本長官らは目を丸くした。まさか大艦巨砲主義者である宇垣がそのような事を言うとは思ってなかったみたいだな。
「別に非難しているわけじゃありません。次回作戦に使う機が少なくなりますからな」
黒島は弱々しくだがそう返した。次の作戦はやはり……MI作戦か。
「南雲、次回作戦なのだが……」
「拝見します」
俺は宇垣参謀長からMI作戦と書かれた作戦書を受け取り、一読したが……。
「長官、この作戦時期は六月のようですが本当ですか?」
「うむ、六月だと月の潮の関係で上陸しやすいのだ」
「時期が早すぎますよ長官。我々は先程帰還したばかりなのです。乗組員の休暇や艦の整備をしなければなりませんから到底無理です」
「無理ではないのです南雲長官。やってもらなければならないのです」
「無理だから言っているのだろう黒島。何のための参謀なんだお前は?」
俺は溜め息を吐きながらそう吐き捨てた。俺のハゲの言葉に数人の参謀がプッと息を吐いた。そして当の本人は顔を真っ赤にして茹でタコ状態だ。
「落ち着きたまえ黒島。それでは南雲、君なら作戦時期は何時にするかね?」
「そうですな……搭乗員の訓練や南方から油や資源を輸送してもらいたいですから良くて八月くらいでしょう」
「ふむ、輸送とは?」
「長官、海軍は何を求めて開戦しましたか?」
「……簡単に言えば油だな」
「そうです油です。いくら我々が南方を押さえると言っても内地に油を持って来なければ戦えません。一航艦が訓練中に陸軍と協力して南方から資源を持って来るのが先決です」
「……判った。作戦時期は見直そう、輸送の事も軍令部と話してみないといけないからな」
「ですが長官ッ!!」
「心配するな黒島」
「……判りました」
黒島は漸く納得した。そして俺は大和から退艦をしてトンボ帰りで横須賀に戻った。
なお、負傷した草鹿はそのまま横須賀の病院へ入院して療養する事になった。
新しい参謀長と航空参謀は五月十日に来るとの事だ。
なお、草鹿の代わりに山縣正郷少将が、源田の代わりには同期の内藤雄中佐が就任した。
俺は横須賀に戻った後、三宅坂に向かった。
――陸軍参謀本部――
「いやぁ南雲長官。わざわざ来てくださって」
「此方こそ突然来ましたので」
俺は辻参謀と面会していた。
「それで南雲長官が何故陸軍に?」
「私の贈り物は御覧になりましたか?」
「……なりましたとも。M3中戦車、あれは我が陸軍の九七式中戦車を上回る中戦車ですな」
実はセイロン島にいた上陸部隊がM3中戦車と交戦しており、二両を捕獲していたのだ。それを輸送船で内地まで持って帰ってきていた。
「フィリピン戦で九七式中戦車改を投入したと聞いてますが、あれは戦車砲だけの改造と聞いてます」
「御存知ですか。海軍さんなのに陸軍もお知りとは……」
「元々は陸軍希望でした。ですが、日本海海戦がありましたからな」
「成る程」
辻参謀は納得したように頷いた。
「是非とも七五ミリ級の戦車砲を搭載する必要があると思います。それに最大装甲も避弾傾始にしたりして七五ミリは必要でしょう」
「……それは小官も思いますな。確かにチハだと中国軍はいけますがアメリカやイギリスだと苦戦しますな」
辻参謀は顔を歪めた。多分、報告は聞いているのだろう。
「海軍の私が言うのもなんですが、新型中戦車の開発は御早めにお願いします」
「いえいえ。第一航空艦隊には輸送船を護衛してもらいましたからな。判りました、何とか開発は早めましょう」
辻参謀はそう約束してくれた。そして俺は辻参謀と握手をして参謀本部を出た。
「……わざわざ海軍の艦隊司令長官がそこまで言うのだろうか……何か臭いな。だが新型中戦車の開発は必然だ。開発の連中に発破をかける必要があるな」
辻参謀はそう呟いたのであった。
そして史実より二日遅れた五月九日からフレッチャー少将率いる米機動部隊と高木少将率いるMO機動部隊が衝突した。
結果としてMO機動部隊が勝利した。山口は三波にも及ぶ攻撃隊を出して空母レキシントン、ヨークタウンを沈めた。
しかし、攻撃隊も四九機の喪失被害を出したが二二機の搭乗員は水偵や九七式飛行偵等によって救助されている。(高橋少佐も含まれている)
MO機動部隊も空母翔鶴、蒼龍が中破をしてしまい二隻は後退して残りの飛龍と瑞鶴は作戦を続行してポートモレスビーを攻撃、これを占領した。なお、空母祥鳳は残念ながら米攻撃隊により撃沈された。
一連の被害に一航艦の航空機は百機近くを喪失(搭乗員の救助を含めると実質的な喪失は五十機余り)しており、MI作戦を準備していたGF司令部には痛手だった。
このためGF司令部はMI作戦を八月頃まで延期する事を決定したのであった。
「……まぁ四空母喪失は避けられた……かな?」
発艦していく零戦を見ながら俺はそう呟くのであった。
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