第四話
「第一航空艦隊は一体何をしているんだッ!!」
GF艦隊旗艦大和の作戦室で参謀の黒島大佐がそう叫んでいた。
第一航空艦隊が中々戦果報告をしない事に不審に思った黒島参謀は馬来艦隊の小沢中将に問い合わせると、何と南雲中将は独断でジャワの第十六軍と共同でセイロン島のコロンボ港を占拠して補給をしていたのだ。
「イギリス機動部隊を撃破したのだから直ぐに帰ればいいものを……南雲中将は何をしているんだッ!!」
黒島参謀は南雲を呼び捨てにしていた。参謀長の宇垣少将は黒島参謀の行動に顔を歪めたがそれだけだ。
そしてGF司令長官の山本五十六は椅子に座って腕を組み、目を閉じていた。
「長官、これは最早命令違反です。直ぐにでも第一航空艦隊を帰還させるべきです」
黒島参謀は山本にそう意見具申をした。対する山本はうっすらと目を開き、黒島参謀に視線を向けた。
「黒島、今回は南雲にも責任にはない。我々がきちんとした作戦を提示出来ずに、南雲がそれを完璧にしてくれたのだ」
「しかし……ッ!!」
「何も言うな黒島。南雲は我々の失態を帳消しにしてくれた」
「……判りました」
黒島参謀は不満に思いつつも頷いた。
「さて……イギリス東洋艦隊を撃滅出来るか……」
山本はインド洋の地図を見ながらそう呟いた。
「左舷からケイト(九七式艦攻)九機接近ッ!!」
「撃ちまくれェッ!!」
炎上している戦艦リベンジからポムポム砲が発射される。一機の九七式艦攻が被弾して魚雷を投下してゆっくりとイギリス東洋艦隊から離れていく。
残りの九七式艦攻は絶好の投下距離に接近して魚雷を投下して離脱した。
「魚雷接近ッ!!」
「回避急げェッ!!」
「駄目です、間に合いませんッ!!」
そしてリベンジの右舷に四本の水柱が立ち上った。リベンジは急速に傾斜し始めた。
「やりました村田隊長ッ!!」
「うむ、これでイギリス東洋艦隊は終わりだな」
村田隊長は沈みゆく旧式戦艦群を見ながらそう呟いた。
既にレゾリューションやラミリーズの二隻は攻撃によって大破若しくは波間に消えていこうとしていた。残っているのは今被雷したリベンジと中破のロイアル・ソブリンだけである。
「サマービル長官ッ!! 最早リベンジは持ちそうにありませんッ!!」
「……首相に何て報告をすればいいんだ……」
サマービルは悔しそうにそう呟いた。イギリス東洋艦隊は壊滅しようとしていた。
しかし、南雲は追撃の手を緩める事はなかった。
「対空レーダーに反応ッ!! ジャップの第二次攻撃隊ですッ!!」
「何ッ!?」
「まだ来るのかアドミラルナグモ……」
生き残っていたリベンジの対空レーダーが捉えたのは補用機を中心にした第二次攻撃隊である。
残念ながら機数は少なく、零戦十二機、九九式艦爆二四機、九七式艦攻二一機であった。
「掛かれェッ!!」
攻撃隊総隊長の市原大尉がそう叫び、九九式艦爆がまだ無傷の巡洋艦に急降下爆撃を開始した。
九七式艦攻隊も高度五メートルの低空飛行で接近してリベンジに一個小隊三機、ロイアル・ソブリンに一個中隊九機が突入して残りの一個中隊は巡洋艦に突入した。
この攻撃でリベンジに魚雷三発が命中して爆発を起こしながら波間に消えた。サマービルは寸前で退艦していた。
ロイアル・ソブリンには四発が命中してこれが致命傷となり第二次攻撃隊が引き上げた後に沈没した。
結果として、イギリス東洋艦隊に残っていた艦艇は軽巡二隻、駆逐艦八隻だけである。
サマービルは艦隊をマダガスカル島へ向かわせた。これにより南雲機動部隊が勝利したのは間違いなかった。
「流石に限界だな。内地に引き上げよう」
俺はそう言った。乗組員の疲れも出始めているし、GF司令部の撤退命令が矢のように来ていたからだ。
「機動部隊で通商破壊作戦が悔しいですな」
「まぁ仕方なかろう。三川も心配しているからな。艦隊はコロンボに向かって一日停泊後に上陸部隊を回収。インド洋から撤退してロンボク海峡を通過してスラバヤへ寄港する。そこで上陸部隊を返して今村司令官にある事を頼んでもらおう」
「ある事ですか?」
「うむ、大石には済まないがまた飛んでもらう」
「判りました」
俺の言葉に大石は頷いた。そして第一航空艦隊はコロンボに向かった。艦隊はコロンボに寄港して一日停泊した後に上陸部隊を回収。
四月十二日、輸送船と共にロンボク海峡経由でスラバヤへと向かった。
セイロン島の守備隊はコロンボから撤退した事に驚いたが、反撃部隊がコロンボに攻めこんだ時はからっぽだった。御丁寧に重油やガソリン、武器弾薬は全て回収されていた。
なお、ジャワ島に近づいたら大石参謀を乗せた水偵を発進させた。
――第十六軍司令部――
「イギリス東洋艦隊撃滅、お見事でした」
「いえ、全ては南雲長官のおかげです」
今村司令官の言葉に大石参謀はそう言った。そして大石は第一航空艦隊は輸送船と共にスラバヤに寄港する事を告げて、今村にとあるお願いをした。
「ハハハ、成る程。海軍さんも台所は厳しいと見えるな」
「左様です」
「判りました、手配しておきましょう。それと此方からもお願いがあります。スラバヤ港には内地へ帰還予定のタンカーや輸送船が合わせて十四隻あります。これらも一緒に内地へ持って帰って下さい」
「判りました、艦隊に戻り次第南雲長官に具申します」
「ありがとうございます」
そして大石は艦隊へ戻った。
「ふむ、それは構わない。特にタンカーは我々も必要だからな」
「そうですな。しかし、空母をタンカー代わりにするとは……」
山口が呆れたようにそう言った。とあるお願いとはスラバヤへ寄港した時に空母をタンカー代わりにして重油や航空ガソリンをドラム缶に入れて空母に詰め込もうとしたのだ。
まぁどうせ帝都空襲と珊瑚海海戦があるからなぁ。
第一航空艦隊はスラバヤに寄港して上陸部隊を第十六軍に御返しをし、代わりにタンカーと輸送船を引き取って燃料の補給後に出港した。
そして四月十八日、帝都空襲が発生してGF司令部は第一航空艦隊に米機動部隊の追撃命令を出してきたが……。
「今更逃げた敵をどうやって追うんだ。むしろ油が勿体ない」
俺はGF司令部に敵は逃げた後であり、追撃しても燃料の無駄遣いだと発信した。
第一航空艦隊は台湾の馬公港に寄港して燃料補給をした。
四月二十日、GF司令部は第一航空艦隊を分離してMO作戦の支援をせよと言ってきた。史実だと十六日に来るけどまぁ仕方なかろう。
「山口」
「は、何でしょうか?」
「二航戦と五航戦を率いてMO作戦の支援をしてくれないか?」
「私がですか?」
「そうだ。原は航空戦に疎いから君に機動部隊司令官を任せたい」
「……判りました。暴れてきましょう」
山口は頷いた。
「うむ、乗組員の疲れもあると思うからトラックで十分に休息してから出撃してくれ。護衛には比叡と霧島、それに第十七駆逐隊も出す」
「判りました」
史実より駆逐艦が十隻になるし大丈夫だろう。比叡と霧島もいるしな。
「後、搭乗員の救助は出来るだけする事だ」
「判っておりますよ長官」
そして第二航空戦隊と第五航空戦隊、護衛艦艇は馬公から出撃してトラックを目指した。そして残りの艦艇は内地に帰還するのであった。
俺は赤城が横須賀に到着すると大石を呼び寄せた。
「大石、君には三宅坂に行ってこの紙を渡してきてくれ」
「三宅坂にですか?」
「そうだ。俺は今から大和に行かないといけないからな」
「判りました」
そして俺の手紙を携えた大石は三宅坂の陸軍参謀本部へ向かい、俺と他の参謀達は空路で柱島泊地へと向かった。
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