第二話
今日は自衛官候補生の試験日。
受かるといいが……。
「筑摩の索敵機より電文ですッ!!」
その時、通信兵が艦橋に駆け込んできた。それを源田が通信兵から通信紙を受け取り、一読した。
「長官ッ!! 敵機動部隊ですッ!!」
「数は?」
「戦艦一、空母二、巡洋艦二、駆逐艦六隻の艦隊のようです。長官、一刻も早く攻撃隊を出すべきですッ!!」
源田はそう意気込んでいた。
「ですが長官。用意してある攻撃隊は零戦と九九式艦爆の戦爆連合です。トリンコマリの攻撃隊を収容してから出すべきではないですか?」
草鹿はそう具申してきた。
「飛龍より発光信号ッ!! 直ちに攻撃隊を出すべきなりッ!!」
「……流石は山口だな、仕事が早い。攻撃隊は直ちに発艦せよッ!! 攻撃目標は敵護衛艦艇だッ!!」
俺はそう叫んだ。俺の意図に気付いた源田は頷いた。
「成る程、対空防御がある大型艦を叩かずに先に護衛艦艇を叩くのですね」
「そうだ、九九式艦爆だと大型艦の撃破は無理だからな」
そして各空母から零戦二十機、九九式艦爆五四機が発艦した。
「上空警戒をしつつトリンコマリの攻撃隊を収容する。それと搭乗員達にはあの事は言っているな?」
「はい、長官命令と伝えてあります」
セイロン島を攻撃する前、搭乗員達に被弾、洋上不時着水する場合は必ず艦隊に連絡せよ。必ずに迎えを出すと伝えていた。
実際、コロンボ空襲の時に零戦一機、九九式艦爆二機、九七式艦攻一機が不時着水をして零式水偵を出して搭乗員を救出している。
「上手く頼むぞ……」
俺は水平線上に消えていく高橋少佐の攻撃隊を見ながらそう呟いた。
――イギリス東洋艦隊旗艦ウォースバイト――
「敵の偵察機に見つかったか。攻撃隊の発艦準備はどうなっている?」
「全機発艦準備は完了していますが、肝心のナグモの機動部隊の位置が……」
「逃げた偵察機を追えばいい。これ以上、インド洋を荒らされては困る」
イギリス東洋艦隊司令長官のサマービル大将はそう言って攻撃隊を発艦させた。
攻撃隊はフルマー戦闘機二十機、ソードフィッシュ雷撃機三三機であった。艦隊護衛にはフルマー戦闘機十八機が残っていた。
「上手く攻撃が出来ればいいが……」
サマービルは巡洋艦二隻の喪失を知っていた。急降下爆撃だけで大型艦が沈められたのはシュトゥーカ乗りの人民の敵しかいないだろう。
「……奴等は強いのだ」
サマービルは誰にも聞こえないようにそう呟いた。そしてそれは直ぐに現実になった。
ウォースバイトの対空レーダーが接近してくる敵攻撃隊を探知したのだ。
「戦闘機は全部出せッ!!」
二隻の空母からフルマー戦闘機十八機が発艦していく。
イギリス東洋艦隊は対空戦闘準備に移った。対空火器が仰角をとって砲身を上空に向けていく。
「敵攻撃隊は八十機前後のようです」
「……少ないな。相手はナグモの機動部隊だ。第二次攻撃隊があるだろう」
サマービルの勘は当たっていた。第一航空艦隊ではトリンコマリの攻撃隊を収容して第二次攻撃隊を編成中であったのだ。
「今は攻撃隊の戦果を期待するしかないな」
徐々に増えてきた高橋少佐の第一次攻撃隊を見ながらサマービルはそう呟いた。
「零戦隊は敵戦闘機に当たれッ!!」
第一次攻撃隊隊長のカク親分こと高橋赫一少佐は指示を出していた。
零戦隊隊長の岡嶋大尉の零戦は軽くバンクをして、上昇してくるフルマー戦闘機に対して急降下で攻撃を始めるのであった。
「零戦隊が敵戦闘機とやり合っている今が好機だッ!! 全機にト連送を打てッ!!」
九九式艦爆は一気に急降下爆撃を開始した。狙うは敵護衛艦艇であった。
「左翼被弾ッ!!」
高橋が急降下している最中、ポムポム砲の四十ミリ弾が左翼を貫いた。引火こそしてないが、燃料タンクからガソリンが洩れていた。
高橋はそのまま攻撃を続行して、照準していた軽巡エメラルドに二百五十キロ爆弾を投下した。
爆弾は見事にエメラルドに命中して炎をあげた。続けて二番機、三番機も命中し結果的に爆弾五発が命中した。
流石にエメラルドは耐えきる事が出来ず、攻撃隊が帰還してから波間へと消えていったのである。
なお、高橋機は第一航空艦隊に帰還する事が出来ず途中で不時着水を余儀なくされ水偵に救出された。
「攻撃隊の戦果は?」
「は、敵巡洋艦一、駆逐艦三を撃沈。巡洋艦一、駆逐艦一を大破です」
「うむ、後は攻撃隊が間に合うかだな」
第一航空艦隊はトリンコマリの攻撃隊を収容して燃料、兵装の補給をしていた。しかし、此方に向かってくる攻撃隊を高橋少佐の攻撃隊が視認していたのだ。
「長官、此処は守りに徹してはどうでしょうか? 敵攻撃隊を迎撃してから出すべきです」
草鹿はそう具申してきた。ふむ、確かに納得出来る事だな。
「宜しい。攻撃隊の編成は一時中止して上空警戒を厳とせよ」
各空母に発光信号で伝えられた。それは飛龍にいる山口多聞にも届いていた。
「むぅ、それはちと残念だな……」
「仕方ありません司令官。攻撃隊が発艦中に敵攻撃隊が飛来したら大変な事になります」
山口の呟きに先任参謀の伊藤中佐はそう言った。
そして上空警戒に零戦二七機を出していた時、イギリス軍の攻撃隊が飛来してきた。
「駆逐艦不知火から煙幕ッ!! 敵攻撃隊ですッ!!」
「対空戦闘準備ッ!!」
各空母から更に追加で六機の零戦が発艦していく。二七機の零戦は敵攻撃隊と激しい空戦をしていた。
「左舷からソードフィッシュ雷撃機十二機接近ッ!!」
「撃ちぃ方始めェッ!!」
駆逐艦浜風が発砲を始めて他の駆逐艦も対空射撃を始めた。
鈍足のソードフィッシュ雷撃機はあっという間に撃ち落とされていった。
「イギリスはまだ複葉機を使っているとは……」
源田が呆れるようにそう言った時、見張り員の叫び声が聞こえた。
「敵戦闘機接近ッ!!」
ソードフィッシュ雷撃機を援護しようと一機のフルマー戦闘機が赤城の艦橋に向かって飛行していた。
「体当たりする気かッ!?」
「伏せろォッ!!」
源田がそう叫び、俺は近くにいた大石の頭に手を添えて床に伏せた。その瞬間、フルマーが艦橋に向かって機銃掃射を敢行。フルマーの七.七ミリ機銃弾が艦橋にいた者達を殺傷した。
「全員無事かッ!?」
機銃掃射が終わり、ゆっくりと顔をあげる。辺りに硝煙の匂いが立ち込めていた。
「草鹿ッ!! 源田ッ!!」
大石は無事だったので草鹿と源田を見ようとした時、手に赤い液体が付着していた。
「草鹿……源田……」
血の持ち主は草鹿と源田の二人であった。草鹿は左腕が七.七ミリ弾で吹き飛ばされていた。そして源田は七.七ミリ弾が頭に命中し、脳髄を辺りに撒き散らしていた。
「ぐ……長官……」
「しっかりしろ草鹿ッ!! 衛生兵はまだなのかッ!!」
俺は草鹿を抱える。その時に衛生兵が到着して草鹿は医務室に運ばれた。そして源田だが、源田は誰の目から判るように戦死していた。
「……源田の遺体は医務室に運ぶように」
俺は帽子を深く被って、亡骸となった源田に無言で敬礼をした。それは艦橋にいた者全員もしていた。
攻撃はそれだけで終わり、艦艇の損害は霧島に魚雷一発が命中したのみだった。
しかし、人的は被害は大きく草鹿は片腕切断の重傷、源田は戦死、赤城艦長の青木大佐も負傷していた。
「長官、二人の代行は……」
大石が俺に言ってきた。そうだな、二人の代行は……。
「草鹿の代行は山口、源田の代行は淵田にしてもらう。二人は至急、赤城艦橋に来るように伝えろ」
こうして、臨時に山口が参謀長、淵田が航空参謀をする事になり山口の代わりに第二航空戦隊司令官代行は先任参謀の伊藤中佐がする事になった。
「長官、此処は攻撃隊を急いで出すべきです」
「そうです長官。二人の仇を取らないとあきまへん」
二人はそう具申してきた。
「それは勿論だよ二人とも。攻撃隊の発艦準備を急がせろ」
そして零戦二十機、九七式艦攻五四機の第二次攻撃隊が編成されて各空母から発艦していくのであった。
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