7.「一番強いヤツ下さい、ストレートで」
作中の『その話』については次話以降でわかります。
安達たちが会話をしている中でも『くらま』以下哨戒隊は着々と訓練スケジュールをこなし、徐々に錬度を上げていった。そして現在佐世保港手前において水先人の乗り込みを待つ事となった。
「では、艦長、水先人の乗艦後は水先人に任せるとゆうことでよろしいのですね?」
坂田航海長が飯島に確認した。
「ああ、それでいい。総監部にタグボートの派遣要請も忘れないように」
このベテランなら大丈夫だろうと思いつつ念を押した。
「了解しました。」
坂田は船務科にタグボートの件を伝えて海図台にある湾内の海図のチェックに移った。
間も無く水先人が乗り込み『くらま』を先頭にして哨戒隊は久方ぶりの陸の感触を味わった。
その数時間後
飯島は安達と佐世保市内のバーにいた。客入りも多く少し騒がしいが仲間内で静かに飲んでいるものもいて表ざたにしづらい話も声を潜めれば問題は無い店だった。
「その話、裏は取れてるんでしょうね?」
飯島はその言葉を吐いた時、目は完全に据わっていた。
「ああ、大使館やら、外務省、さらに華僑の筋からもな」
飯島の問い掛けに隣の席に座る20年来の付き合いの上司はその情報がほぼ確定事項である事を教えた。
(この人は本当になにやってりゃそんな筋から話が聞けるんだ?それにスケジュールを考えれば間違いなくウチが矢面に立たされるのは間違いない。まったく折角の上陸が台無しだな。)
そんな飯島の考えを読んでいるかのように安達は続けた。
「まあ、アチラさんがトラブルで予定が遅れることもあるし、我が国のルール上はとりあえず海保の皆さんが御対応に当たるだろうし、アメリカさんがあの辺で演習中だからウチに大事はないんじゃないの。」
傍から聞けばずいぶんと楽観的な意見に聞こえるが長い付き合いの飯島はその話にげんなりとした顔をしていた。
「はい、最悪のシナリオに対応できるようにします。」
それでも気を取り直そうと言うべき台詞を口に出した。
「うん、そうしてちょうだい。」
その台詞に対して安達の答えは短く、そして口元は嬉しさを見せていた。
「けど、相手が話より多かった時の保険は頼みましたよ。」
飯島も(こっちにも限度ってモンがある)と言葉に含ませてフォローを頼んだ。
「うん、それはもう手を廻せるトコにはもう手を廻した、残りは出港までには終わる。」
一番性質が悪い方法で部下をこき使うがフォローも隙が無い男は根回しが順調と答えた。
「まあ、それなら良いですけど」
肝心の部分を聞き取りあえずの安心を飯島は得ることができた。
「ああ、後もう一個」
安心した飯島に安達は一番厄介な話を始めた。
「沖縄の市民団体がどこから聞いたのか知らんがこの件と米軍の演習に対して地元漁協と組んで抗議の為に近々当該海域に向かうそうだご丁寧に懇意の間柄のマスコミも同行取材の名目で付いて行くそうだからソコも頭に入れといてね。」
先程の話ではまだなんとも無かった飯島も今度の話には精神的に大破した。
(自衛隊と市民団体。警察と酔っ払いの如く切れる物ならとっくに切ってる腐れ縁。ここでも付いて回るか?)
そこまで思って所で飯島は口を開いた。
「マスター」
カウンターを拭いていたマスターが顔を向けた。
「一番強いヤツ下さい、ストレートで」
マスターは無言で棚からとっておきを手に取った。
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