53.ささやかの仮眠の時に
05:44 東京都新宿区 「食堂こむらや」
眠れない街新宿、そう言われてもこの時間は実質上街はささやかな仮眠の時間とも言える時間ゆえに街に人影は『この街にしては』まばらであり車道も時折緊急車両がサイレンを鳴らし通り過ぎるのみで少なかった。
この店はこの界隈の飲み屋や夜勤明け人間を客と見込んでこんな時間から店を開けているが客は飲み直しや迎え酒の客と会社に戻る前に食事を済ませようとするタクシー運転手やトラック運転手ぐらいだった。
その中で存在感が消えかけているテレビが545の数字を映し、朝のニュースを流そうとしていた。
「おはようございます。4月28日ニュースフレッシュの時間になりました」
「まず、今日のヘッドラインですが、昨日からテレビ日本でお伝えしています。尖閣諸島のニュースです。中国人民海軍に攻撃されました、民間船舶ですが先程海上自衛隊の護衛の元沖縄本島に向けて移動したとこちらに情報が入ってきました。詳しい事についてはこの後現場からの中継を交えてお伝えします。次に昨日名古屋市内で起きました――――」
アナウンサーが淡々とヘッドラインを読み上げていく中、飲み屋などの夜の店の人間が固まっているテーブルにいた若い従業員がスマホでニュースサイトを見ていてた。
「へぇ、昨夜から結構騒がれてたんだ」
「そりゃ騒ぎになるだろ」
隣にいた同じ店の従業員が言った。
「けど、この間のうちの店の真ん前で起きた奴は……」
「バーカ、この街で銃声が1発じゃそんなに話題になるもんかそれも正道会の事務所の真ん前で」
自分らの店を間接的な経営者の名前を出しながらそれ以上喋らせるのをやめさせた。
「今回のは、事あるごとに話題になるトコでマスコミも巻き添えになってんだぞマスコミが大々的に騒ぐのは当たり前だろ」
「それでは現場を呼んでみましょう。玉城さん、おはようございます」
アナウンサーのこの声が聞こえたので二人は話を止め、食事を再開しながらテレビに視線を向けた。
「はい、おはようございます」
「中川です。こちらに入ってきた情報だと玉城さん達は今、沖縄に向けて移動中と入ってきましたが本当でしょうか?」
「はい、我々が乗り込んでいる船は先程の中継の後ですが海上自衛隊の船が接触して船員の方といくつかのやり取りのあとで船長から『沖縄那覇港に向けて移動する』と通達があり船が動き出しました」
「すると今は尖閣諸島にはいないんですね」
「はい。現在、船はかなりゆっくりとした速度ですが南下しています。ご覧のとおりこの船の周りは海上自衛隊の艦艇がぐるっと取り囲む形で進んでいます」
このセリフでカメラはぐるっと1週して海自艦艇を撮した。その後傷ついた『さんふらわ』の姿を可能な限り映し出して玉城にカメラを戻した。
「中国艦隊はどうしていたのでしょうか?」
「はい、我々が動き出した時は味方の救助活動でしょうか?小さな船を出したりしていてこちらには何の関心も持っていないように見えました」
「はい、わかりました。この後も何かありましたらよろしくお願いします」
「はい」
「この件に関しまして官邸はこの後6時からの定時会見で何か発表があると思われます。会見が始まり次第そちらに中継を切り替えさせていただきます。次のニュースです。――――」
このニュースが一旦終わり次のニュースに切り替わった時、ひとりの男が食器を返却口に戻そうとして新聞ラックに気付きその中の『中国の暴挙!!いつまでやられれば?』と見出しに書かれていたタブロイドを抜き取って返却口に向かい、レジでタバコを吸いながらテレビを見ていた店のオヤジに「イエスタデイ」とだけ言ってオヤジも「100円ね」とだけ言って出された100円玉を受け取った。「ありがとね」オヤジのこの言葉を聞く事もなく男は店を出た。




