51.帰るまでが
『はやぶさ』
「どうだ?」
機関長が哨戒艇独特の小さいCICに身を突っ込みながら聞いた。
「部品の交換できたものから一通りチェックしてますが艦艇整備長の言った通りですね。レーダーは普段の3割減、通信は距離が離れなければ可能って所ですね」
機材のチェックを監督していた船務長が簡単にまとめていたメモを見ながら報告した。
「わかった。電話借りるぞ」
機関長は入り口横に備え付けていた艦内電話に手を伸ばした。
「野沢?俺だ。機関どうだ?…………わかった。全力は出す必要はないだろうが安心はできる状況ではないからな、頼んだぞ」
受話器を戻し今度は船務長に『くらま』への通信を艇長席に繋ぐ様に命じてブリッジに向かった。ここでする事も出来るがこの人数分キッチリのスペースしか無い狭い空間では集中するのは困難であった。
『くらま』
「そう、よし。報告ご苦労さん」
川崎司令を飛び越して直接報告させた『はやぶさ』にそれだけ言って安達は通信を切った。
「司令」
飯島は安達にこの少し前に入ってきた通信について聞こうとして口を開こうとしたが安達は(わかってるって)と目で言って止めた。
「2哨戒は『さんふらわ』の同行して護衛しろ。本艦と3哨戒はその前後について警戒態勢に入る。それで2群と交代して佐世保まで帰る。石倉」
「はい」
「司令部幕僚は帰還時の配置を作成と佐世保(地方総監部)にこの旨を報告。その際、2群の到着時間を確認し、2群にも通信で確認しろ。いや、2群は俺がやる」
「はっ」
「藤代、お前も石倉手伝え」
「はい」
「飯島、本艦で集めた僚艦の情報を司令部付きに渡しておいてくれ」
「はい」
飯島は岡村を呼び止めて情報を記録させた紙をボードごと藤代に渡すように命じた。岡村からそれを渡された藤代は石倉を追う為に司令部公室へ走っていった。それを見送った安達は飯島に声をかけた。
「飯島、すまないがあと一息だからもうひと踏ん張りしてくれ」
「『帰るまでが任務だからそれまでは少しの違和感でもしっかり確認して必要なら潰していけ』でしょ。忘れてません。江田島では事あるごとに聞かされてましたから」
「あ、そ。じゃ、そういう事で」
ニヤニヤしながら安達はその言葉で飯島への労いを終えた。
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