5.夜食後
士官室係がタイミングを見計らい食後のコーヒーをテーブルに置いた。先日に補給艦より補給を受けていた為インスタントではなく本物であった。
「久しぶりにこの匂いを嗅ぐと本物の有り難味って物が解るわ、昔と比べりゃかなりマシになったとはいえインスタントはまだ本物には程遠いしな。」
機関長の宮野が十二分に香りを楽しみながら言った。
「相変わらず好きだねえ、宮さん。まあ、今回のは結構長い航海だから今のうちだけの楽しみだから十分堪能しなよ。」
機関長と同期の藤井補給長が機関長の言葉に相槌を打つ。
「今回、やっぱりとはいえ洋上補給訓練が多いですね、ただでさえ改装した装備の運用データ取りで大変な状況で今度はこっちが補給艦から使った物資の受け取り作業までしないとって状態なんですから改装時の人事で曹士も人数は増えたがその分連携の問題もあって苦労しているってCPOが言ってましたよ。」
幹部の中では飯島に次ぐ年長者の池田ミサイル士が先ほどCPOから聞いた話を口にした。
「まあ、ワケのわからんフネになった、異動でかなりの数が入れ替わった、この2つだけでも厄介なのに聞いたら整備科の連中は艦艇勤務が殆んど無いらしいし、艦長も艦艇勤務の大半は補給艦や輸送艦で護衛艦なんて初任以来だそうだ。前の艦艇勤務は「とわだ」の艦長だし、そんなキャリアでいきなり護衛艦上がり乗れは本人も当惑するさ。」
副長の中村が池田の話に反応した。
「そういえば艦長はどちらに?」
報告書をコーヒーを飲みながら確認していた真中飛行長が報告書から目を離し副長に尋ねた。
「艦長室にはいなかったか?」
「ええ、てっきりここにくるだろうと思いましてコーヒー休憩がてらココで来たんですけど」
「艦長ならココに来る途中で艦橋に向かう所見ましたよ。」
横で聞いていた藤井が言った。
「なんだよ行き違いか、さっさと渡してこないとな」
残り少ないコーヒーを飲み干して真中が士官室から出て行った。
「話は戻りますけど大丈夫ですかね、あと3日で佐世保に入港して司令部他お客さんまで乗せなきゃなんないんですから人様に見せて恥かかない程度まで錬度上げるなんて」
池田が副長に聞いた。
「まあ、そこは我々幹部とCPOの頑張りでどうにかせねばならんだろう、訓練内容の見直しも視野に入れCPOと話し合おう、とりあえず入港まで気を抜かせるなよ怪我人なんぞ出したらせっかくの増員も意味がなくなるからな。」
副長が簡単にまとめてこの話題を締めた。