40.信頼されてなかった牙
『くらま』CIC
「『温州』の方向からのレーダー波、消失」
電測員が冷静に報告した。
「どうやら成功しましたね」
中村がホッとした声で飯島に言った。
「ああ、上の言い分も満更嘘って訳ではなかったか」
飯島も顔には出さないが内心ではホッとしていた。
19式艦対艦ミサイル。VLSでの運用の為に従来の対艦ミサイルよりも小振りな外見をしているのが最大の特徴であるが、誘導方法の一部に米軍で運用されているトマホーク巡航ミサイルの対地攻撃の方法を応用している。基本的な誘導方法自体は旧来と同じだが目標の外見データを入力した上で指定した部分への攻撃を可能な物となっている。これは日本独自の特殊な事情を考慮し、相手を沈めずにかつ致命的被害を与える事により無力化できないかという発想の元に開発されたものであり、その為に従来のミサイルより誘導関連の装置の占める割合が多くなった為に炸薬量はかなり減っているがこれもまた世間一般で『過剰な殺傷行為』と受け止められない状況を回避する可能性を高める事になり結果的には政治的事情に貢献している。
「まあ、机上の空論だと思ったが今回はコイツにとっては最良の条件で使えたってのは良かったってもんだろ」
CICのスクリーンを見ながら飯島は言った。
『温州』
「おい、全員無事か?」
副長がCICにいた全員に叫んだ。
「大丈夫です」
「問題ありません」
次々と同じような言葉が聞こえたので副長は艦の被害状況を聞く為に艦内電話を取り上げた。
「各部、被害報告」
「こ……、こちら艦橋……」
艦橋から切れ切れの声が受話器から聞こえてきた最初は通信系統のトラブルかと思ったがそれだけではないようだ。
「こちら副長、艦橋被害状況を」
「火が……、火が!!」
「いいか、落ち着け。冷静になって報告しろ」
「も、申し訳ありません。敵ミサイルがアンテナを薙ぎ倒した際の爆風が起きた時に扉の一部が開いていた為に火が艦橋内部に入りました。4名が丸焼けになりました。残りも負傷しています。機材も一部が使用できません。応援を下さい」
「わかった。すぐに出そう」
「了解」
副長は一度受話器を下ろし応援を回す為に機関長に繋いだ。
(厄介な所に当たりやがって、これなら沈められた方がまだマシだ)
「何がどうなってる?」と誰彼構わず聞いている政治委員を見ながら彼は心の中で言った。海自の面々が思っていたより相手の傷は深刻な物だった。
「おい、副長!!」
少しだけ落ち着いた政治委員はようやく副長に声を掛けた。
「あのバカ。このままにするのか?」
多分『くらま』だと思って副長は確認もなく聞き返した。
「そうしたいのは山々ですが本艦はレーダー始め、電子系統は壊滅です。ミサイルは撃てません」
「主砲があるだろ!!主砲が!!それならできるだろ!!」
「はぁ……」
とりあえず何発か撃てば納得するかと思っていた時に艦橋からの悲鳴じみた報告でその考えも吹っ飛んでしまった。
「砲術長!!主砲、手動に切り替えろ急げ!!死んだフリしてたのが突っ込んでくる!!相手の射程圏内に入る前に片付けろ!!」




