39.報道対策 懐の現実とマスコミの建前
藤原がオフィスに向かうと岩崎のダミ声が聞こえてきた。
「それはさっき聞いた。飛ばし記事でもいいからさっさとゲラ刷り(下書きの原稿)もらって来い!!」
その声と共に秘書の一人が部屋から飛び出した。
藤原はそれを無視して部屋へ入った。
「全く、何年俺のトコで給料もらってんだ」
ダミ声が似合ういかつい顔をした岩崎が愚痴をこぼしていたが藤原が入ってきた事に気づき立ち上がった。
「いいよ、いいよ。で、どう?」
藤原が岩崎を座らせてこう尋ねた。
「ああ、とりあえず。日毎(日刊毎日)と東新(東都新報)、後は経通(経通新聞)ってトコだね」
手元の紙を確認しながら岩崎は言った。そこには何社も新聞社の名前がありその横に○、×が書かれていた。
「版売(版売新聞)と日の出(日の出日報)はやっぱり?」
「ああ、問題外。日の出はともかく版売はあそこの横澤(会長)さんの指示だろうな」
「あの人もしょうがないな……」
彼の人物の顔を思い出しながら藤原は呆れていた。
「残りはどう?」
「まだ手に入れられなくてな今、ウチの者の尻引っぱたいた。とりあえず今言ったので進めますかねぇ?」
「ま、とりあえず。始められる所は始めとこか」
「わかった。週刊誌の方も同じ感じでいいんだな?」
「ああ、頼むわ。そう言えば実弾どうだ?足りるか?」
「えーと、そっちは……とりあえず、岩菱(岩菱グループ)さんと四ツ井(四ツ井商事)さんから出てきたので一応だな。まだあるならもう少しあって困る事はないがどうする?大昭(大昭生命)さんからも話が来ているが融通してもらうか?」
「一応、頼んどこう」
「よっしゃ、ウチの山崎、大昭さんとこに使いにだそう」
そう言って岩崎は携帯を取り出し指示を出した。
「とりあえずこれで、こっちの思惑通りになってくれるかな」
岩崎に言うでもなく藤原が呟いた。
「なんとかなるだろ」
その呟きを聞いていた岩崎が携帯を仕舞いながら答えた。
「その日に馬鹿みたいに売れたトコがあれば嫌でも目立っちまうし、どんなの書いたかもすぐに調べるだろうから二番煎じ上等でそれに追随する所もある、そこも売れちまえば後は『流れに遅れるな』って偉い人が言い出す。コッチとしてはそれを漏らす事なく買うだけさ」
そこまで言って岩崎は傍らのペットボトルのお茶に口をつけて一口飲んだ。
「マスコミさんだって商売でやってんだ。新聞1枚、雑誌1冊買って貰って始めてメシにありつける、仕事帰りに飲み屋で一杯も出来る。売上がよけりゃその年のボーナスで何か贅沢を……ってのも考える事もできる。その現実の前には報道の建前ってのは脆いよ」




