28.臥薪嘗胆を拒む者
『はやぶさ』
目標の機関砲が動き出したのを見た時、LRADを操作していた田島1曹は砲口が自分達に向けられたと確認した。砲口の先にSSMの発射機があるのに気付き艦橋に報告しようとした時には砲口が火を噴いていた。
弾は発射機の根元に着弾しミサイルコンテナを吹き飛ばした。誘爆の危険はないと思った瞬間、コンテナは宙を舞った所で爆発した。
「うっ!!」
田島は攻撃された時にLRADを設置する為の支柱に掴まっていたが、爆発の衝撃波は艦橋を挟んだ反対側にいた田島にも伝わり鉄帽に何かの破片が当たる感触が伝わってきた。
「うう、流石にこれは効いたか」
ゆっくりと立ち上がり田島はまだ作動中のLRADを見ながら言った。周りにいた見張り員も衝撃で床に伏せていたが怪我は無い様であった。艦橋に報告しようとして艦橋を見たがそれを見た田島は絶句した。艦橋は誰もが何かしらの怪我をしている状態で床に血だまりがいくつか見えた。
「田島、無事だったか」
左腕を抑えた航海長が田島に気づいた。
「は、はい。右舷見張り員、負傷ナシ」
「そうか、済まないが、救急箱取って来てくれ、俺はここの被害状況をまとめなくてはならない、右舷の者は必要最低限の見張りを残してココの負傷者の応急手当を」
「はい」
田島は艦橋の中に入った時、艇長席を見たが艇長は自身の席で左腕をだらんと下ろして動かなかった。
「ダメージチェック。各部、受け持ちの被害状況知らせ、機関長は次席に指揮権移譲し艦橋へ」
救急箱を取り出していた田島の背後で航海長は現状で最先任の機関長を呼び出していた。
これより数分前
『温州』
「何故だ!」
政治委員のヒステリックな声が艦橋に響いた。
「ですから、旗艦からの攻撃中止命令はまだ生きています、よって本艦は彼らから離れて距離を取る選択以外は考えられません。命令もなしに攻撃するなど軍人のする事ではありません」
『千鳥湖』同様に『温州』も哨戒艇から距離を取る選択をしようとした所で政治委員が攻撃を言い出し、艦長も移動を命令する前に政治委員の説得を優先してしまって為に『温州』はそこから一歩も動けずにいた。
「この状況だぞ、旗艦とてこの状況ではこちらに構っている状況ではなかろう。ならば我々は臨機応変に動かなくてはならん、現状ではまず忌々しいあの小舟を沈めてこのやかましい音を消す事が先ではないのか?」
「音は目標から距離を離せば何とかなります。よって本艦は敵音響兵器の効果範囲より脱し、旗艦へ報告、指示を仰ぎます」
本来ならCICにいるはずが政治委員の命令でお供として艦橋にいる事になった為にLRADの攻撃を受けてしまった艦長は政治委員に対する嫌悪感を顕にしないように一語一句言葉を選びながら言った。
「グッ」
政治委員は先程からのLRADの音と艦長の言葉に苦虫を噛み潰した顔をしていた。彼は今まで党本部の長老格一族の嫡男として何不自由なく育ち、成人後も自分に跪く者の方が多い人生であった為に苦行に対する免疫もなく今現在も目の前の武官に自分の意見を反論され、まだ聞こえるLRADの音により彼の精神状態は既に限度を超えてしまっていた。
「艦長」
黙り込んだ為に何とか同意に持ち込んだ物と判断し航海長に移動命令を下そうとしていた艦長は政治委員の低く唸るような声に振り返ると政治委員は拳銃を艦長の頭に突きつけていた。
「何の真似ですか?」
艦長は拳銃を無視して政治委員を睨みつけた。
「今すぐに撃て、小日本に背を向けるなど許さん」
政治委員の目は既にマトモな目では無かった。
「政治委員、アナタはお疲れの様です。お部屋でお休み下さい。誰か――」
「うるさい!!僕に指図するな!!」
艦長が言い切る前に政治委員は拳銃を撃った。頭に1発それだけで事は足りたが政治委員は弾倉が空になるまで立て続けに撃った。顔が判別不能になった艦長を弾倉を交換しながら見下ろした。
「ぼ、僕は偉いんだ。武官風情が僕に指図なんかするなよ」
艦長の亡骸をタバコを踏み消すように踏みつけ、艦長席の艦内電話でCICにいた副長を呼び出した。
「副長、政治委員の夏だ。艦長は党への反逆行為で銃殺した。副長は指揮を引き継げ、それと政治委員として命令する。直ちにあの小舟を沈めろ」
彼はこの時、超えてはならない一線を越えてしまった者の顔であったと、当時艦橋にいた者全員が後年に証言している。




