20.糸が切れた
「おおたか」
目標の艦首で主砲と機関砲が動き出した瞬間、艇長は反射的に命じた。
「両舷前進強速、面舵一杯。」
タービンとウォータージェットが唸りを上げ、目標の艦首から艦尾に沿う形で走り出した途端、先程まで「おおたか」のいた所にいくつもの水柱が立っていた。
「危なかったな、「くらま」に通信、「我、攻撃受ける」だ。」
部下の手前、最大限に動揺を押さえ込みながら指示を出していた。
「各自、受け持ち区画の被害状況確認。」
ここまで言って何か忘れてないか今まで自分が言った事を思い出していた。
「探照灯の役目は終わりですね、消灯許可を」
艇長の様子に気づいた航海長が声を掛けた。
「許可する。探照灯消灯」
「了解、探照灯消灯。」
「機関科、各部異常なし。」
「航海科、異常なし。」
「船務科、受け持ち区画異常なし、艇長、各部署からの異常の報告なし、よって本艇の被害なし」
各部からの報告を船務長席で集計していた副長(船務長兼任)が報告した。
「艇長了解。本艇はこれより目標との距離を開ける。「くらま」に報告『我、被害なし、航行並び戦闘に支障なし」
「おおたか」艇長が指示を出している間、同様の状況になった船は何隻もあった。
「くらま」CIC
「えーと、「はやぶさ」目標Aより発砲受けるも損傷ナシ、「うみたか」目標Cからの砲撃、至近弾により浸水。「おおわし」目標Dからの攻撃によって艦橋部損傷、艦長負傷により指揮不能、副長指揮権移譲。現在、負傷者数集計中。なお川崎司令、健在なり。」
各艦からの報告をまとめられたメモを安達が読んでいた。
「石倉、向こうは何か言ってきたか?」
「いえ、こちらの問い合わせにはなにも言ってきません、ただ向こうの通信量の増加を確認。攻撃した艦艇を呼び出して問いただしている物かと。」
「向こうにとってもアクシデントだとゆう事でしょうか?」
会話を聞いていた藤代が言った。
「そのようだな。石倉、スピーカー使って向こうに警告送っとけ。」
「了解」
「飯島、準備して。」
「了解、水上戦闘用意。」
「救助活動中の「しらたか」に現在救助状況を確認。「おうみ」は要救助者回収後は支援の海保巡視艇と合流し行動せよ。」
安達は必要な指示を矢継ぎ早に出していた。
「さんふらわ」デッキ
発砲音を聞いた瞬間、デッキにいた玉城達は咄嗟に身を伏せていた。
「D、違う違う。アッチ、アッチ。」
荒木がカメラを音源に向けながら指を差していた。
「ん?あ、アレか、撮れた?」
「はい、バッチリ」
「太田さんは?」
「こんなの録れない方がおかしい」
「よし、ったく日本にいてこんなのに出くわすとわな」
「ああ、まったくだな」
名護原もカメラで必死の回避運動中の「はやぶさ」を撮影していた。
「何!ホントか?」
玉城達に背を向けてトランシーバーで話していた船長が大声を上げていた。
「あ、あのー、どうしたんです?」
目の前にいた仲田が目を丸くしながら尋ねた。
「今、機関室から連絡があった。エンジンが止まった。」
「!!」
その場にいた全員が船長を見た。
「止まったといっても原因自体は見当がついてるそうだ、ただすぐに直せる状態ではないそうだ。」
「マジかよ」
その場で一番若い与座のつぶやきは全員の気持ちだった。
「まあ、動かないものは、仕方ない。直るんですよね?」
年長者の太田が船長に確認した。
「ええ、それは間違いありません私はこれから詳細を確認します。」
そう言って船長は船内に走っていった。
「こうなりゃ腹を決めよう、せっかくのスクープだ、撮れるだけ撮るぞ」
今までの出来事で何かが切れてしまい開き直った顔で玉城がみんなを見ながら言った。




