16.発令、行動開始
くらま CIC
「システム、オールグリーン。CIC、戦闘準備よし。艦長、各部署準備完了」
中村副長が飯島に報告した。
「了解、指示を待て。司令、「くらま」戦闘準備完了。」
飯島は足立に向き直り報告後、安達は手元のボードを確認していた。
「各隊からも完了の報告は・・・、来てるな。よし」
そう呟いて安達は司令席の受話器を上げた。
「通信、司令の安達だ、首席を頼む、・・・石倉。」
「了解、かかります。」
「はい、お願い」
そう言って安達は受話器を置いて、自分の帽子のあご紐を確認していた。程なくして哨戒隊群の艦艇と「おうみ」に石倉によって通達が行われた。
「発、哨戒隊群司令部、宛、哨戒隊群麾下艦艇。各艦は行動計画書第1項に基づき行動を開始せよ」
この通達により各艦は指定された位置へと移動を始め隊列を組んだ。
「飯島、石倉。陣形組み上がり次第、2戦速。通信並び発光で通達。」
「了解」
「第2戦速、了解。」
(「おうみ」からすりゃ結構無理させるが大丈夫か?)
かって「ましゅう」で航海長を勤めていた飯島には普段出さない速度であったため、「おうみ」を心配していた。そうこうしている内に艦橋より陣形が組み上がったと報告が来たため飯島は命令した。
「針路そのまま、第2戦速。」
「航海長、了解。針路そのまま第2戦速。」
「機関長、了解。機関出力上げ、第2戦速。」
坂田航海長と宮野機関長が答えた。
「航海長、発光で他艦に速度知らせ」
「了解、発光信号送ります。」
通達後、各艦艇より了解と返信があり、見張り員より増速したと報告があった。
哨戒隊群は一路、当該海域へと向かった。
「さんふらわ」船橋
「マストの方はどうだ?」
船長がトランシーバーで通信機材の修理をしている通信士に訪ねた。
「ダメです。本船にある部品じゃこれ以上は・・・」
苦々しい声で通信士が答えた。
「分かった。とりあえず戻ってきてくれ。」
トランシーバーを置いて今度は内線電話の受話器を取り上げた。
「機関長、エンジンどうだ?」
「エンジンには傷自体はありませんが、衝撃でエンジンに振動が出てます、動きはしますが回転を上げると振動が激しくて危険です。とりあえず10ノットぐらいなら出せます。」
「わかった。原因調査続けてくれ。」
そう言って今度は医務室に電話を繋げた。
「先生、怪我人の状態は?」
「一人はカスリ傷、応急処置と必要な指示して船室に返した。一人は腕を骨折してたから処置してカスリ傷の人と同室だったからその人に看病を頼んだ。」
「そうですか」
そう言って船長は数が足りないことに気づいた。
「先生、残りは?」
「・・・ああ、あとの二人なんだが」
「ひどいのですか?」
「一人は傷自体は大きくないが頚動脈を切っている、傷は塞いだが出血がひどい、今血液型の同じ人間がいないか確認している。」
「あとの一人は?」
「コイツが一番ひどい、破片が右足に集中して刺さっている。応急処置は出来たが、少しでも早く設備のある病院に運んでおきたいが・・・」
「そうですか・・・」
そう言った後、船長は仕事を止めさせたことを詫び、受話器を置いた。
(10ノット程度じゃ軍艦相手じゃ無理だ、通信機は送信は出来てるみたいだが、受信はノイズだらけで全然聞き取れん。どうすれば・・・)
そこまで考えていると通信士が戻ってきた。
「おお戻ってきたかご苦労さん、済まないが海保宛にもう一度通信を頼む。」
「はい、それで内容は?」
「ちょっと待って・・・」
そう言って船長は海図台を机がわりにして通信内容をメモに書いて通信士に渡した。
一息つきたかった船長は船長席へと腰を下ろした。
(とりあえず誰でもいい、誰か来てくれ)
窓の外の人民海軍艦隊を眺めながらそう思った。