12.中継前21:17
「さんふらわ」号 玉城ディレクターの船室
「あー、ココは要らん、コッチも使えない。」
荒木によって仮編集されたVTRを玉城はチェックしていた。
「ったく、いくら大雑把でいいって言ってもこれはしてないも同然だろう、いくら人も予算もないからって聞いたこともない制作会社から新入りを連れて来なくてもいいじゃないか。」
独り言をつぶやきながらチェックを続けていた。
「おい、コッチだ、コッチ。」
通路から何人かの足音が響いた。
(何だ?こんな時間に?)
玉城は腕時計で時間を見ながら、様子を見ようと通路に出ようとしたが何となく机に置いてあった会社から貸し出された衛星携帯を掴んでから部屋を出た。
「玉城さん」
デッキの方から仲田が走ってきた。
「仲田、何があったの?うるさくて出てきたんだけど。」
「船長さんがレーダーに何か大きいのが複数でコチラに向かってくるって、それでオレ、玉城さんを・・・」
「あ、解ったからお前は荒木達を呼んできてくれ。」
「はい」
仲田が船室に向けて走ろうとしていたのを玉城は止めた。
「念の為、撮影機材を忘れないで持ってデッキに来いって言え。」
「はい」
今度こそ仲田は走り去っていった。
「さてと」
玉城はデッキに向かう前に名護原の船室に向かおうとしたら名護原のほうから此方に向か来るのが視界に入った。
「玉ちゃん」
「勇ちゃん、ちょうど声掛けようとしたんだ。」
「俺もそう思ってきたんだ、どうする?オレはこれからブリッジに行ってなんか情報無いか聞いてこようと思うんだけど。」
「このままデッキに行こうかと思ったけど何も無いよりはマシな情報があるかもな、オレも行くよ。」
二人はブリッジに向かうと船長はレーダーに注意を向けていたらしく二人が入ってきたことに気付くのが少し遅れた。
「何か?」
つっけんどんに船長は問うた。
「いえ、何かが此方に向かっていると聞いてココに来れば何か解るかと思いまして。」
玉城が答えた。
「残念ながら、まだ此方も解りませんよ今レーダーで相手の動きを見ながら回避するコースを取るところです。」
「通信とかは無かったんですか?」
「ない、念の為通信士に向こうから通信が有るかもしれないから注意するように伝えたよ。」
その言葉を言うと船長は再びレーダーへ視線を戻した。
「そうでしたか、お忙しい所失礼しました。行こう。」
名護原を連れて玉城はブリッジから出て行き、そのままデッキへと向かって行った。
「玉城さん」
デッキで撮影機材を準備していたクルーの内、与座が玉城が現れたのに気づいて声を掛けた。
「おう、機材は準備できてるか?」
「もう少し待ってください、マイクの調子が・・・」
太田がマイクをいじりながら答えた。
「カメラはバッテリーもテープも交換しましたからいつでも使えます。」
「他の機材も問題なく使えます。」
荒木とAD達が答えた。
「相手はまだ正体不明だそうだから、もしかしたら絵が必要になるかも知れないからイザって時はしっかり撮れよ、太田、まだか?」
「今、終わりました。」
「よーし、これでいいか、ただの民間船ならいいけどな。」
「そー、祈りたいね。」
名護原が自分のカメラを用意しながら玉城の言葉に相槌を打った。
「けどあの話したからこんな状況が起きたんじゃないだろうな。」
「まさか、偶然だろ。まあ、仮にそうだとしてもとりあえずコッチとしては何かに使えるだろう絵を貰うだけだけどな。」
「まあ、そうね。こっちも記事の足しに使えそうな写真でも撮らしてくれればだけどな。」
この時二人は知らなかった『あの話』の時、二人の頭の中で一瞬だけ思い浮かんでいた事が現実の物だった事を。