1−3廊下にて
良い方、悪い方、どちらから聞いても情報得たという結果は変わることはない。0のところから1になる。
良いか悪いかは彼女が彼女自身あるいは天斗自身のことを考えて言っていることだ。ただの事実には良いも悪いもない。よくニュース番組で、悪いニュースが入ってきましたなどというキャスターがいるが、それは君の主観でしかなくて、良いか悪いかは視聴者が決めること。
同じように。天斗にとってそれがどっちなのかは本人しか分からない。
「どちらからでもお好きなように?」
投げやりとも取れる口調で天斗は答えた。
「ふうん。それじゃあ,私は良い方から言いましょう。良い話後から聞いたらそんな気分じゃなくなっちゃったということもあるしね」
そう言うと,ブラウスの胸ポケットから何かを取り出した。USBメモリを一回り大きくしたようなもので、マットな黒色をしている。 それを手のひらにのせて、
「それは?」
天斗が聞くと、天草はもったいつけながら答えた。
「これはね、私が愛とお金と時間とテストの点数とその他色々なものを放り込んでごっちゃまぜにしてできた最高傑作なのだよ」
自慢ありげに、見よと差し出してくる。受け取り、よく見てみるがとりたてて変わったところはない。大きさの割にずっしりとした重さから判断するに、金属製だろうか。ただ表面は金属光沢はなく光を散乱する不思議な素材で包まれている。ボタンのような物は一切なく、外観からは何を目的に作られたのか皆目見当が付かない。.
「それで、この文鎮は何の役に立つんですか?」
「もう、文鎮ではないのに。そんながらくた、わざわざ作るわけないでしょ」
若干すねた口調でいう天草はいつも以上に可愛かった。普段強気の先輩が自分のペースに乗れずに、若干いらだちを覚えている。いつもと違う一面がギャップとなり、天斗の心をくすぐっていた。
ふと笑みが出てしまったのだろうか。天斗をむーとした表情で睨んだ後、こちらが真顔に戻ったのを見て、少し微笑んだ。
「それでね、この深遠なる小箱はね。私の能力で作った物なんだよ」
「そうなんですか。小箱なのに、箱としての機能がないような。それの効果とか効能とかはどんなものなんですか? 肩こり知らずになるとかですか」
「そんなしょぼい……いや凄いかもそれはそれで。てっ、そうじゃなくて、もっと素晴らしい物だよ、多分」
なぜか最後で曖昧になる言葉。
「で、実際問題具体的にどんな作用がおこせるのかしりたいのですが」
「それが、私にもよく分からないんだ。てへっ」
おどけた感じで答える天草。
「いやいやいや、なんだかよく分からないものを使うわけにいかないでしょう。普通」
「いや、大丈夫だと思うよ。君が、優花ちゃんの見て僕も欲しいななんてつぶやくから作ってみたものだし。作る方法も同じだし、思念も君への思いもたっぷり込めてある。まかり間違ってもマイナスの作用は起きないと思うよ、私は」
あのぼそっとこぼした言葉を聞き漏らさないなんて、相変わらず注意深い。流石は天草先輩。
「そういうことだから、使ってみてよ。何かしら役に立つとは思うから」
「はあ、じゃあありがたかく貰っておきます」
天斗は、よく分からない小箱を胸ポケットにしまった。役に立つ日は来るのだろうか。