ヤンデレがいっぱい!! ~ザ・レッドゾーン~
続編です。
前作を読んだ方は、期待と違う展開かもしれません。
ああ、血の宴が始まってしまう……
彼女らの殺気は本物だ。
絶望はすぐそこに――
「ちょっと待ったぁ!!」
この声は! 神が舞い降りた! 僕の願いが通じたんだ!
こっちだよ、早く彼女らを止め、て……?
シュパァン、シュパァン
「ククク、抜けがけはダメよ」
ブンッ、ブンッ
「ケケッ! 殺、殺、殺ッ!!」
カキィン、グサッ
「フフフ、子供は寝る時間だわ」
……夢は儚く消え去りて
シュシュンッ、シュシュンッ
「ほほほほほほほほほ」
サクッ、サクッ
「ぐふッ、げへッ、キヒィ」
ブチィッ、ブチィッ
「お兄ちゃんのバカバカバカ……」
……悲しき現実に背を向ける
ドゴンッ、バゴンッ
「ジュルリ、ウフフフフ」
フォンッ、フォンッ
「フッ、ヒャッ、ホッ」
ジャキンッ、シュコンッ
「ケヘヘェ」
……僕の希望は泡の中
一句、設けました。もう涙が止まらない。
どうやら神様は、最も残酷な方法での、僕の処刑をお望みのようだ。
何でかって? それはね……
その前に改めて自己紹介するよ。僕の名前は木崎翔。妖気溢れる魔界に迷い込んだ一般人だ。もう知ってるよね?
現在、刻一刻と状況は悪化の一途をたどっている。さすがの僕にも心の余裕が無くなってきたよ。元から無いんだけどね。
結論から言うと――
キチガイな女性諸君がさらに増えました。
ここで僕の更なる危機を分かってもらうために、彼女らをサックリと紹介しちゃうね。
シュパァン、シュパァン
「ハンッ、ガキ共に負けるとでも?」
竜巻のように鞭をしならせている姿は、まさに人間旋風。
髪をアップした露出の激しい眼鏡美人は、現代に降臨した女王様――『女豹』の悦子先生だ。
彼女はヤサグレた未婚女教師陣の影の支配者で、世間様認定のワイルド系S気質の持ち主でもあるんだ。
彼女のチャームポイントは被虐心をそそるセクシーな猫目。そう皆が言ってたけど、僕には刺激が強すぎるよ。
何でも生徒のみならず、PTAにも変態マゾヒストが急増中で、今なお被害は深刻なんだって。教頭先生が泣いていたよ。
タチが悪いことに、普段の素行は最悪な割に、担当生徒の進学率は百パーセント。なまじ優秀なだけに、ベテラン教師陣もお手上げ状態で、教育界の問題児とまで呼ばれているそうなんだ。
裏でナニをしているかは、聞かないよ。
彼女はどこで覚えたのか、変幻自在の鞭術の達人。その筋のクラブ出身じゃないよね?
極めつけには日本全国女教師グランプリの優勝者で、なじる、けなすのハイパーティーチャー。
これ以上の指導はご遠慮願いたい。
ブンッ、ブンッ
「ケケッ、テメェら、アタイがボッコボコにしてやんよ!」
釘付き金属バットを振り回している茶髪美女は、時代に取り残された最後の硬派。我が校の女番長を務める、不良界のカリスマ総長――通称『血花姫』の異名を持つ、紅桜先輩だ。
父親がヤクザの大物、母親が西洋マフィアの娘という、極道界のサラブレッドらしい。もはや別世界の住人だね。
彼女は裏街道の犯罪シンボルとまで言われていて、イカレタこの場で唯一違和感がない女性だ。嬉しくないけどね。
噂では言い寄る男は多いけど、未だ男を寄せ付けた試しなし。彼女は普通の恋愛を夢見る乙女だそうだ。ターゲットはもちろん、この僕。
更にはその配下に県下の族を纏め上げた伝説のレディースで、年間補導回数は364日よりも多し。ここまで来ると気持ちが良いね。
彼女に常に取り巻いている怖い顔のお兄さんたちは、眉なし、モヒカン、何でもござり。僕とは無縁の世界だ。今もこの場に来ているみたいだけど、僕を睨むのは筋違いだよ。
一言、アナタ方の眼力に僕は耐えられません。
カキィン、グサッ
「フフフ、破産、倒産、破滅、夜逃げ、私にかかればあっという間よ」
鋭そうなハイヒールで時短だを踏んでいる、人間穴開け機の女性。キリッとしたスーツ姿の長身美女は、父の会社の敏腕秘書。
元ミスコン優勝者でもある彼女は、今を生きるキャリアウーマンにして、できる女の代表格。狙った獲物は逃さない、『童貞キラー』こと礼子さんだ。
クールな顔して何を考えているのかな?
彼女はもうすぐ三十路で後がない。僕を見る目は、まさにハンターのソレ。
一説では、彼女に逆らった人間は社会的に抹殺されるらしい。ある意味、一番怖いやり口だ。
手元の分厚い本――六法全書は彼女の相棒。角の重量を使えば、脳みそをカチ割ることも可能と見える。秘書って弁護士の真似事までするんデスカ?
とにかく、彼女がいなけりゃ会社が回らない。今頃、会社はパニックだろう。仕事はどうしたんだ?
会社の運命は僕の運命。貴方と僕は運命共同体。
とっとと会社に戻ってください!
シュシュンッ、シュシュンッ
「ほほほ、ダメよ。ヤンチャしちゃ」
次は人妻A……何故、アナタがそこにいるんですか?
Tシャツにジーンズ姿の簡素な格好の上にエプロンをつけている、スタイル抜群の超絶美女は、隣家で微笑む妻の鏡。
いつも僕に優しくしてくれる『癒しの女神様』――天原夫人だ。その姿で何を料理しようというのか、僕は聞かないよ。
ウォーミングアップ現在、スラリとした脚が残像を描きつつ、唸りを上げている。テコンドーの達人というのは本当だったんだね。近接格闘系の主婦、そんな特技はいりません。
彼女はスーパーカリスマモデルにして一児の母。その美脚に踏まれたい男は数知れず。特にヒップラインから続く長く細い脚は、もはや生きる芸術。
その人望は主婦界の教祖様とまで言われており、膨大な主婦ネットワークを駆使した噂話は、人一人屠るのには十分だ。逆らえば社会的に死んじゃうね。
ああ、旦那さんと無邪気な子供の顔が浮かぶ。罪悪感で胸が押し潰されそうだ。
僕に幸せ家族をぶち壊せというのか!
サクッ、サクッ
「キヒッ、雑草は早めに狩(刈)らないとね。お姉ちゃん、害虫駆除も得意なのよ」
ついに来たか、我が姉、『マッドシスター』恭子! 僕の中では"狂虎"なんだけどね。今も狂ったように二本の鎌を回転させている。草と人間は違いますよ。
今日も完璧にコーディネートされた私服を着こなしている彼女は、幼い頃よりブラコン全開の弟限定発情バーサーカー。外面だけはパーフェクトだ。
彼女の固有能力は「万能弟レーダー」。陸・海・空、例え僕がどこに逃亡しようとも、他国の片田舎で暮らそうと、泥沼の中に潜伏していても、決して逃れることはできない。
その労力をもっと他に使え!
彼女は智謀を張り巡らせて、緻密な罠や容赦ないトリックを使いこなす、トリックスターでもある。
昔、僕に近寄ってきた女友達を、巧みな罠で追い払ったのを目撃した。あの惨劇は今でも忘れない。あの子には謝っても謝りきれないよ。
我が肉親ながら、えぐいものだね。
これでもアイドルから始まり実力派大女優にまで上り詰めた、芸能界きってのスーパースターだ。日本中のファンがメロメロの彼女は、今や時の人。
現在、映画ロケの真っ最中……のはずデスよね? 何でここにいるの? というか、どこで嗅ぎつけたんだ?
とにかく今すぐ現場に戻って謝りましょう。
ブチィッ、ブチィッ
「ブツブツ……お兄ちゃんは誰にも渡さない。飾って一生愛でるの」
コイツも我が血筋、隠れブラコンの妹系ムッツリ美少女。ネットアイドル界の超新星でもある彼女は、電脳マイスターにして『闇姫(僕命名)』の栞。
現在、将来を見据えて留学中で、国際ジャーナリストを目指して日々奮闘中……のはずなんだけど、君も何故ここにいる! ……ところでさっきから、ナニを毟っているのかな?
小耳に挟んだ情報によると、彼女を怒らせたサイトは、一夜にして破滅を迎えるという都市伝説が広がっている。やり過ぎじゃないかな?
コイツは常日頃コツコツと身体を鍛えている。それもダイエット等ではなく、実戦形式の喧嘩殺法。裏でストリートファイトをしているのを、僕は知っている。
月一でサンドバッグが我が家をご退場していくのは、どういう原理なのだろうか? その矛先が僕に向かないことを祈るばかりだよ。
普段の威圧感にその片鱗が見え隠れしているのも、その証拠。戦闘力未知数のバトルジャンキーだ。
彼女の得意分野は闇討ち。敵認定された輩は、リアルでボコボコにされ、ネットでも居場所を無くすという、徹底ぶりを持つ。
ボクは味方ダヨ。
ドゴンッ、バゴンッ
「翔君、身の回りの粗大ゴミは片さないとイケナイって、お母さん言ったわよね? 掃除はこまめにしないとダメよ」
笑顔で鉄柱をへし折ったのは、我が母にして『家計の鬼』の春菜氏。彼女は元SPという肩書きを持つ、豪腕主婦だ。
熟女界のトップマダムと名高い彼女は、「投げる、折る、粉砕する」のトリプルアタッカー。総合格闘技だね。
アナタも何故ここにいる! いつもみたいにエンゲル係数を省こうよ!
ほら、あそこでパパンが泣いてるよ。っていうか父、お前も会社サボりか! 会社倒産の危機だぞ!
この両親にして、このイカレ家族有り。家族の女が皆ヤンデるってどういうことよ?
っていうか、母よ、お前も息子に欲情するんじゃない!
フォンッ、フォンッ
「フッ、ハッ――うん、二刀流決定! 小回りの利くナイフがいいかな~」
しきりに頭を捻りながら、二本のナイフを振り回しているのは、偶に見かける近所の小学生。一際小柄な、犯罪まっしぐらの『非合法ロリ』。名前なんて知らないよ。
彼女は演技派子役として引っ張りだこで、ロリコン達の萌アイドルらしい。今度、名前を確認しておこうかな。今度があったらね。
ところで、その風が舞うようなナイフ捌きは、どこで覚えたのかな? 危険だからヤメましょう。
ああ、僕のせいで、か弱い女児までもが道を踏み外していく。
外道とは僕のことを言うのか?
ジャキンッ、シュコンッ
「フホッ、年の功、奇跡の愛じゃぁぁあああアアアアアアッ!」
涎を撒き散らしながら狂喜乱舞する老婆X……アナタはお帰りください。
年に見合わずハッスルしているのは、ご老人界の首領にして、マニア達の隠れアイドル。
老人にして、殺気の濃度はナンバーワン。自称『暗殺老婆』の多江さんだ。噂では暗器の使い手らしい。
まさか、本当に本職だった訳ではないよね? ろくに動けそうにないけど、ポッキリだけは逝かないでもらいたい。
あなたまで参戦するんですか? それは流石に……
コーホー、コーホー
「イコウ……イッショ二、イコウ」
ん?……この子、さっきまでいたっけ?
黒髪の青白い女生徒。存在感ゼロの黒髪バッサリの重傷人?
あの、病院行かなくてもいいんでしょうか? それに身体が透けているような……『透明少女』? ハハ、幻覚だろうね、生きてるさ。
皆、見えてるよね?
以上が追加メンバーの方達だ。人数倍どころか、そのさらに上の十名様のご案内。多すぎじゃないかな。
ああ、僕はどんだけ馬鹿だったんだ! 余計な事に首を突っ込みすぎたんだ。ちょっと手を差し出しただけじゃないか。何でこうなる!
どんな人間でも救いようがある。それが僕の持論だった。んだけど、考えを改めざるを得ない。
残酷こそが人の本質、僕は人に夢を見すぎていたんだ。
神様、ごめんなさい。もう二度と人助けはしません。
「ナニかしら、あの牝どもは?」「死すべし!」
「毒殺」「呪殺」「撲殺」「爆殺」「刺殺」「解体」
ひぃぃいいいいいいいいいッ! 八人衆がお怒りになられているぅぅううううう!!
ヤバい! 今すぐにでも血の雨が降ってしまう!
ヘルプだ! 至急、自衛隊の出動を望む!
「みんな! 僕のために! やめるんだ!」
八人衆の前に勇気ある救世主が立ち塞がった。
アレは我が校のイケメン代表の吉岡君!
サッカー部のエースにしてプロ入り確定、頭脳明晰でもあり一流会社の社長の息子。
そうか、君がいたね!
「「「邪魔よ」」」
「――ゲフォあッ」
瞬殺。
「…………」
ああぁぁぁあああああああ、吉岡くぅぅううううううんッ!!!!!!
リアル錐揉み回転なんて、初めて見たよ!
吉岡君、僕のためじゃないとは分かっているけど、ありがとう!
それだけでも僕は救われるんだ。
もはや彼女らを止める術はない。どうしたら……ん? 追加メンバーが放送部のエースに何かを渡している。何だろう、嫌な予感しかしないぞ。
「これは! 何と! まさかまさかのルール変更!?」
何だって! 反社会的、人権侵害の鬼畜ルールが解除されたのか!
踏みとどまってくれたんだね、君達! そうだよ、人間は素晴らしい生き物なんだ!
「今までのルールはそのまま? そこは譲れない? イエイエ、文句など……ハイ、ソウデスネ。
え~……さらに三つのルールが加わっているぅ? 割り込みなんてありなのかぁあああ!
……あ、ハイ、スイマセン。ごめんなさい。調子に乗って盛り上げようとしちゃいまして……
もう言いませんので、その物騒な得物をしまってください。
いえッ、とんでもない! ハイッ、ごもっともなご意見でアリマス。
……コホンッ、これが追加ルール仕様だぁーーーーーーッ!」
脅し!? 公開恐喝なんて前代未聞だよ!
何だよ、紛らわしい言い回しをするんじゃないよ! 思いっきり期待しちゃったじゃないか!
夢は見るもんじゃないね。悲しいだけだ。
というか、追加? これ以上、どんな鬼畜要素を追加するってんだ?
皆に新ルールが追加されたプリントが配られていく。僕の前にも放送部の下っ端がご丁寧にも広げて見せてくれている。
どれどれ……
『校内対抗・木崎翔独占権利争奪・サバイバルバトル・改』
追加ルールその一
ナニをどうこうしようが、社会的地位や世間の評価に影響されない。やりたい放題、いいじゃない。
彼女らは何を始めるつもりなのかな? 人としての最低限のルールは守って欲しい。
これは先生か番長さん辺りかな?
追加ルールその二
法律上、近親婚又は重婚をこれに認めるものとする。例え生みの親でも無問題。
いやいや、問題大有りでしょ! 勝手に法律変えちゃ駄目でしょ!
国家に意見しちゃうの!? 倫理観は大事にしようよ!
うん、これは隣家の奥さんか僕の家族に違いない。
追加ルールその三
年の差なんて気にしない。犯罪じゃないよ。
いやいやいや、僕の良識の問題じゃないか。僕は思いっきり気にするんだよ。その意見は反映されないのかな?
捕まるのは僕なんだよ。
これは老婆か小学生だね。対極の図だ。
追加ルールその四
世界を超えて旅立とう。
…………
あれっ? 追加ルールは三つって言ってなかったっけ? まさかだけど、皆には見えていないのかな?
ちなみに僕の知る世界は二つだけ。あの世とこの世だ。まさか違うよね?
……ん? これだけ赤いインクで書かれているけど、何でかな?
血の誓約書、いや魂の契約書とかじゃないよね?
あの世へご同行とか、妄想しすぎだよね。そう言ってください。
というか、これって認定されたの?
誰も文句を言わないけど、僕の味方はいないのかな?
「それでは皆さま、大変長らくお待たせしました。
――ただいま、総勢十七名の"真"の宴が始まろうとしています。
テーマは"赤"。校内を真っ赤に染めて、染めて、染めまくれぃぃ!!
それでは木崎翔君、意気込みをどうぞ!」
だ・か・ら!
喋れないんだってば! お前にはこの猿轡が見えないのか!
あれっ? 十七名? 一人カウントされてないけど、わざとかな?
きっとそうだよね。
「…………」
「これは、これはぁぁああああああッ!
伝わってきた、伝わってきたぞぉぉおおおおおおッ!
それでは、不肖、この放送部二年、バトルロワイヤル実行委員会総代、綿貫剛志が代弁させて頂きます。
もっとやれ! とことんやれ! 遠慮なんて馬鹿のすることだ!
――踊れ! 狂え! 蹂躙しろぉぉおおおおおおッ!」
コラ、放送部、なに煽ってんだ! 脚色凄すぎるよ!
一ミリ足りとも僕の気持ちが入ってないじゃないか!
っていうか、お前が元締めか! クソッ、生還したら覚えとけよ!
「それでは、サバイバル・ザ・ブラッドパーティー、イン・クリムゾンワールド、開幕だぁぁああああああッ!」
カァン
ああ、僕の現実が壊れていく……
今度こそ始まってしまう……
僕は誓うよ、今後は自分のためだけに生きる、と。
願わくば、これが全て夢でありますように……
タイトルのレッドゾーンは「愛されるには危険な関係の方々」という意味合いです。
決して手を出してはイケナイ。でも愛される。
そんな少年の悲劇をお送りしました。