4章・【ザ・ファイア】⑪
ひゅううううん!
耳元で風が唸り、旋風と化して紫苑を吹き下ろす。
見上げるルフィナの顔がクッと歪む。
紫苑が斬りかかるが、ルフィナは素早く背後に飛び退いた。
だが紫苑も地面を強く蹴ってついて行く。
振り下ろした剣を、ルフィナの喉元めがけて振り上げる。
「おわっ!!」
ルフィナはそれをバク宙でかわすと、空中でくるくると孤を描き、紫苑との距離を十分に保って着地した。
だが、剣の切っ先が触れていたのか、ルフィナの顎には赤い筋が斜めにはいり、つぅと血が流れた。
ルフィナは自分の親指をぺろっと舐めて、傷口をなぞる。
「へぇ------、やるやんか」
ルフィナはニヤリと笑った。
『紫苑!!五歩下がれ!!』
脳内に直接響いてきたアローディスの声に、紫苑は素早く反応した。
ルフィナはそれを見ると、怪しい笑みを浮かべる。
両手を前に突き出しながら大声で叫んだ。
「遅いなっ!!【ヘル・ファイア】!」
紫苑のすぐ目の前の石畳の隙間から、黒いものがせり上がってくるのが見えた。
それは漆黒の炎、全てを焼き尽くす業火。
紫苑は炎に呑み込まれると覚悟を決め、目を閉じようとした。景色が脳内でスロー再生に切り替わり、細くなっていく瞳から見えるのは、地面から今にも勢いよく湧き出ようとする炎の頭だけ。
だが------。
『紫苑!目を開けろ!』
アローディスの叱咤が、紫苑にそれを思いとどまらせた。
必死にまぶたを持ち上げると、視界は真っ黒になりつつあった。
もうすぐで紫苑の体に触れてしまいそうなほど近くにある炎に、身がすくむ。
キュゥゥゥゥン!!
金属が加工されている時のような耳をつんざく音がして、同時に金色の何かが右から現れ、目の前を通っていった。
よく見ると、それは金に光り輝く火の玉だった。
それはとても巨大で、直径は紫苑の身長くらいある。
火の玉は【ヘル・ファイア】にぶつかり、紫苑が吹き飛ばされるかと思うほどの爆風をあげて相殺した。
「大丈夫か、紫苑!」
聞こえるのはザックの声。
紫苑に駆け寄ってくると、右手を天に突き出し、叫んだ。
「【プロミネンス】!」
ザックの手のひらからほとばしったのは、ガス状の金の炎。
ルフィナはそれを鼻先でかわすと、少し後ずさって様子を見るように上げていた両手を下げた。