4章・【ザ・ファイア】⑧
「我々も行くぞ」
「うん------へぇっ!!?」
急に目線が高くなった。
同時に体が持ち上げられているという認識。
アローディスの右肩に、紫苑は軽々と抱え上げられている。
「ちょっ!!降ろしてって!!」
紫苑はアローディスの背中をバンバン叩いて抗議するが、全く痛がっている様子はない。
「では問うが、お前は屋根に飛び移りながら走れるか?」
「え------?無理……ですが」
「ならば仕方ない。大人しく荷物になっておけ」
無茶苦茶な理論で片づけられ、紫苑は更に強く背中を叩いた。
「いや、だから降ろしてって!!------うわぁぁぁ!!」
------飛翔。
アローディスが強く地面を蹴り、高く高く飛び上がった。
町並みが、遥か眼下に広がる。五階立てビルの屋上から、町を見下ろしているような感じだ。アローディスは、空中で一瞬だけ滞空すると、斜め下に落下していく。
地上との距離がぐんぐん近づき、紫苑は下降の強風に煽られて目を閉じた。
再び体が浮くような感覚が紫苑を襲い、前方から吹く風が顔を撫でて遥か後方に流れていく。恐る恐る目を開けると、アローディスは本当に屋根の上を走っていた。
「………………」
紫苑はあまりの驚きに、口が聞けなくなっていた。
アローディスは屋根から屋根へ、前に横に斜めに走り、まるで雷になったようだ。
そして、だんだん近づいてくる漆黒の火柱。
近づくたび、肌を焦がす熱気がじわじわと強くなる。
紫苑の額から、その熱気とは正反対の冷たい汗が流れた。
「------ひどいな」
アローディスが紫苑を肩から降ろした。
紫苑はアローディスに掴まりながら、腰の剣がずり抜けないように気をつけて、地面に足を着けた。
どうやら、地上らしい。
石畳の感触が、ブーツを通して伝わってくる。
紫苑はそんな事は気にならなかった。
ただ、目の前の光景に目を奪われていたのだった。
町の最奥、他の建物より一回り大きな民家が、ごうごうと燃えていた。
石を積み上げて作られた外壁はその石が、炎の熱のせいで液体になって溶けだしていた。
さらさらしたマグマのような液体は、石畳の隙間を縫うように流れ、近くの木製の物を燃やしていく。
その業火の中に、一人の子供が立っていた。
炎に包まれていないのに、何ともないようだ。
その子は、炎の揺らめきで表情は見えないが、紫苑達に迫ってきているようだった。