4章・【ザ・ファイア】⑦
外へ一歩出た途端、紫苑達を襲ったのは、全てを巻き込んで路地を吹き抜ける熱風。
その風には、火の粉が混じっているのだろう。
空気に触れた肌が、チリチリと焦がされる。
周りの景色が赤みを帯びて見え、辺りの建物よりも遥かに高い火柱が上がる度押し寄せる爆風は、瞳を溶かしてしまうかと思うほどの熱量を含んでいた。
「うあっち!」
火の粉が火種となり燃えだした看板が、ルナセルのすぐそばに落ちてきた。
看板はめらめらと、揺らぐ炎を上げながら、ほんの少しの間で炭になってしまった。
「【ヘル・ファイア】か!!」
ザックが降り注ぐ火の粉から目を守ろうと、手で顔を覆い隠しながら空を仰いで叫んだ。
その動きにつられて、紫苑も上空を見上げる。
渦巻きながら、天へ昇る火柱は先ほどまでの赤色から、漆黒へと変わっていた。
「空が……黒い……」
つぶやいた言葉には、ルナセルが答えてくれた。
「【地獄の業火】だよ。ルフィナのアビリティだ」
ルナセルの顔が陰っている。
紫苑は嫌な予感が、胸の奥を横切っていくのを感じた。
黒くうごめく、何か。
冷静さが押し流されそうになるが、紫苑は必死に己を留めた。からからの口を開いて、アローディスに問いかけてみる。
「やっぱり、リスラスと同じように……強くなってるの?」
「------ああ」
アローディスは背を向けたまま答えた。
何かを凝視するように、一点を見据えていたアローディスは、何の前触れもなく振り向いた。
「ルフィナは町の奥にいる模様だ。ザックは右手、ルナセルは左手、私と紫苑は正面だ」
「了解!」
「オッケー!」
それぞれから元気な返答が返ってきて、アローディス名参謀は指令を発した。
「各自慎重に行動せよ。無茶はするな。では、武運を祈る------、散!!」
ひゅうんと風が唸り、小さなつむじ風が二つできた。
紫苑は急に姿が見えなくなった二人に、キョロキョロと周囲を見回した。
アローディスの視線が自分に刺さっているのに気がついた。