4章・【ザ・ファイア】⑥
ごぉぉおおおおお!!
和やかな空気は、一瞬にして崩された。
大気がうねるような地響きがし、次いでぐらぐらと大地が揺れた。
天井に塗られた塗料が剥げ、紫苑達にぱらぱらと降り注ぐ。
「ひっ!」
喉を小さく鳴らしたのはリスラスだ。
ルナセルの後ろに回り込み、その服を掴んでブルブルと震えている。
ザックは紫苑を庇うかのようにずいとそばに寄ってくると、辺りを警戒し始めた。
そんな中、依然として表情を崩さないのはアローディスだ。
顔色一つ変えないポーカーフェイスぶりに、紫苑は感服した。
「どうやら------お出ましのようだな」
低くつぶやくとアローディスは窓を開け放った。
表通りに面している窓は、町が混乱状態にあるのを教えてくれた。
聞こえてくるのは、悲鳴。
紫苑が顔を覗かせると、通りを一方向に逃げ惑う人々の波ができていた。
そして人々が逃げてくる方向からは、轟音と、時折天を衝くのは------巨大な火柱。
「迂闊に顔を出すな」
紫苑の額を、アローディスのひんやりした手が押して、部屋の中に戻す。
「アローディス……」
ザックが心配そうに尋ねるのを、アローディスは素っ気なく答えた。
「間違いない。ルフィナだ」
リスラスの体の震えが更にひどくなる。
地響きはその重みを増し、だんだん近づいてくるかのようだった。
アローディスは一同をぐるりと見回した。
「【ザ・ファイア】だ。リスラスは【カード】化しろ」
リスラスはびくびくと頷いて、カードになった。
ルナセルが、床に落ちたそれを拾い上げ、紫苑に手渡した。
舞い遊ぶ小鳥と雄大なる古木に両手を広げて迎え入れる、少年の姿が描かれている。
紫苑がカードをズボンのポケットにしまったのを確認して、アローディスは紫苑をじっと見つめた。
「行かないの?」
アローディスは、紫苑の質問に答えない。
静かに目を見据えながら、アローディスは口を開いた。
「『使徒』との戦い方、覚えているな?」
それは、今朝、アローディスがテントの中で教えてくれた事。紫苑は力強く頷いた。
「勿論」
その返事を聞いて、アローディスは満足そうにに微笑んだ。
「行くぞ------。我等が同胞を、この手で救い出す為に」
誓いともとれるアローディスの言葉に、ザックとルナセル、紫苑は無言で同意の意を示した。暗黙の了解で、アローディスを先頭に、一同は混乱の中へ躍り出たのだった。