4章・【ザ・ファイア】②
「数年前からです。陽が沈み、夜になると“魔物”が現れるのです」
「------“魔物”」
アローディスが眉をひそめて繰り返すと、老人はゆっくり頷いた。
その瞳を見て、紫苑は悟った。老人が恐れていたのは“魔物”だったのだと。
「“魔物”は、夜な夜な現れては紅蓮の焔を身に纏い、町を破壊して去っていくのです」
「焔------ルフィナか!?」
ザックの発言に、アローディスは目を見開いて勢いよく振り返り、老人は怪訝そうに眉を寄せた。
「旅の方、あの“魔物”を……ご存知なのですか?」
ルナセルは誤魔化すように、ぶんぶんと顔の前で両手を振る。その顔は笑っていたが、紫苑はこめかみを汗が伝うのを見逃さなかった。
「いや、そんな事ないですよ!ねっ、アローディス!」
アローディスも静かに頷く。
さすがに冷静を装うのが上手い。
「ええ。ご主人、重要な情報をありがとうございます。夜間の外出は控えるよう注意します」
それがいいと老人は頭を縦に振った。
「お部屋は階段を上って左、突き当たりです。また食事の際はお呼びにあがります」
「いえ、食事は結構です」
アローディスが丁重に断って、老人は承知したと深く頷く。
ルナセルがリスラスの手を引いて走り出した。
「あっ、ル……ナセル!?」
「早く部屋を見に行こうよ!!」
満面の笑顔で階段を駆け上がっていくルナセルと、足が絡まるのではないかと心配になるリスラス。
二人の後にザックが続き、その後ろにアローディス。
最後になった紫苑は、老人に小さく会釈すると、階段を駆け上がっていった。