4章・クラスウッド火町①
夜営の跡が片付いて、紫苑達は鬱蒼とした森の中を一列で歩いていた。
木々の数は多くはないのだが、少ない木達が目一杯に枝を広げているので、天上の太陽の光が地上まで届かない。
時折、葉の隙間からこぼれてくる微かな陽光がまぶしいくらいだ。
吹いてくる風は、そんな陰鬱な景色とは違い、柔らかで乾いた空気を運んでいた。
「クラスウッド火町はこっちで合ってる?」
先頭に立つリスラスは、時々立ち止まり、木や小鳥に話しかけている。
その様は紫苑が想像していた通り、リスラスのイメージによく合ったものだった。
「ありがとう」
礼を述べて、一本の苔むした古木の幹を優しく撫でたリスラスは、再び列の先頭に立って歩き出す。
リスラスの後ろ、紫苑の前に並んでいるアローディスは、おそらく納得がいかないような顔をしているのだろう。
紫苑にはそれが容易に推測できた。
どれほど歩いたことだろうか。急に目の前の視界がぱっと開けた。
瞳の許容量を遥かに超越した、まばゆい光が紫苑の体に降り注ぐ。
外へ------出たのだ。
紫苑がそれを理解したのは、森から伸びる一本道の先にある、“それ”を見てからだった。
「------あれがクラスウッドの火町か」
一番後方に立つザックが、感心したようにつぶやいた。
そう、森からはクラスウッド火町が見えていた。
森から続くのは、舗装などされていない、土がありのままに存在している一本道。
それは緩やかにうねり、なだらかな上り坂になっていた。
その先に見えるのは、見紛う事などない、町だった。