1章・封使館④
(はっ!?こっち来るって!)
紫苑の頭はオーバーヒート寸前だった。
その原因は美しい男性が近づいて来るからと言う訳では無い。
(いちゃもんつけられたらどうしよう------!!)
紫苑は小心者だった。
それは小さい頃からの特徴でもあった。
昔から他人と接することが苦手だった紫苑は、幼稚園に通うことを拒み、小学校でも友達らしい友達はできなかった。
休み時間は一人で過ごし、できるだけクラスメートとは関わらないようにしてきたのだ。
そんな紫苑は、中学校に上がるとイジメの対象になっていた。両親にもそのことを言い出せなかった小心者の紫苑は、祖父である源一郎に相談をしていた。
それを聞いた源一郎が提案したのは、高校を東京で過ごすことだった。
北海道は面積が広いために、高校も大体中学校の顔ぶれが揃ってしまう。
全くの新天地で、自分を変えてみてはどうかという訳だ。
紫苑は悩んだ末に、東京に行く決心をして、東京に住む源一郎の家に居候することになった。
そして、今------。
早くも紫苑はその決心を後悔していた。
徐々に足音は近づいて来る。
人混みの間から執事がスッと現れた時、紫苑の心臓は止まりそうになった。
周りの通行人達の視線が、紫苑と執事に向けられている。
無論、二人の女子高生も例外では無い。
冷ややかに突き刺さる視線に、紫苑はガチガチに凍りつく。
執事は紫苑の目の前で立ち止まると、ふんわりとした笑顔で微笑んだ。
瞬間的に紫苑の心から、冷え冷えとしていたものが、溶け出す。
彼の笑顔は太陽だった。
執事の薄い唇が開く。