4章・町へ②
「あいつなら川へ水を汲みに行ったぞ」
「そうなんだ------」
紫苑は周りを見回してアローディスがいないことを再確認すると、ザックの顔に自分の顔を寄せた。
「アローディス、昨日の晩寝たのかな?」
ザックは首を傾げる。
何か考え込むような顔をして、ふぅむと唸った。
「あの後三時間ほどしてから、アローディスに交代を申し出たんだがな。きっぱりと断られてしまった」
紫苑は顔をしかめる。
昨日のリスラスとの闘い、リスラスのグランドアビリティである【サテライト・ゾーン】によって、アローディスはかなりのダメージを受けていた。
カードに戻って多少は体力を回復したのだろうが、あの時の苦しみ方を見たら、やはり心配せざるをえない。
紫苑は後悔の色を浮かべる。
「やっぱり、無理にでも代わった方がよかったかな……」
「見くびるな、あのくらいどうということはない」
冷え切った氷のような超低温な声に、紫苑はハッと振り返る。そこには眉間にシワを刻み、目の下にクマを作ったアローディスが立っていた。
肩がいつもより下がり気味で、大分疲れているようだ。
アローディスは、焚き火を挟んで紫苑の真向かいにどさりと座った。
「やっぱり疲れているね」
ザックアローディスの隣にルナセルがちょこんと座り、ルナセルとザックの間にリスラスがおずおずと入り込んだ。
アローディスはクマのせいでいつもより鋭く見える眼光を放ちながら、紫苑をつと見据えた。
「案ずるな。どこかの誰かのように、話の途中で意識を手放すへまはしない」
「------そのどこかの誰かって、僕の事?」
紫苑がむっとして聞き返すと、アローディスはその暗い瞳を小馬鹿にしたように伏せた。
「自分の胸に手を当てて、神にお伺いを立てるんだな」
態度とは裏腹にちょっとからかうような口調になって、紫苑は多少ほっとした。
ザックがくすくすと笑いをかみ殺しながら、リスラスの持ってきた木の器にシチューをよそった。
手渡されるシチューは、目の前でほわほわと穏やかに湯気を立てている。
「うわぁ------美味しそう。これってザックが作ったの?」
「いや、作ったのはリスラスで、俺は最後にかき混ぜる役を担っただけだ」
「リスラスが……!?」
びっくりしてリスラスを見ると、彼は白い肌を朱色に染めて俯いた。