3章・焚き火の周りで④
と言うか、これほどまでに恐れられているアローディスとは、一体……。
悪意はないのに、素直じゃないばっかりに誤解される隣に座った男を、紫苑は哀れみの目で見ていたらしい。
「その巣から落ちた雛鳥を見るようなら目で私を見るな」
アローディスは眉間に一層深いシワを刻んで、紫苑を睨む。
バレてたか、と紫苑は慌てて目を逸らした。
ザックがアローディスの気を逸らせるように、ゴホンと咳払いを一つついてアローディスに話しかける。
「まぁ、でも俺も情報を集めるという件については、いい事だと思う。俺達はこの世界について、知識が足りなさすぎる」
「うん、同感」
ルナセルがいつもより少しだけ低い声で言うと、異形の物を見るかのように首だけを動かして森をぐるりと見回した。
「この世界がどういう仕組みになっているのかもわからない。なんだか、気持ち悪い世界だよ。なんて言うのかな……、均衡が保たれていないって感じ」
紫苑がリスラスを見ると、あちらも紫苑をうかがっていたようで、びくりと肩をすくめた。
そんなに怖い顔をしていたのか気になって、紫苑は頬を両手で包み込むように触れた。
「そうだな。ここまで構成要素が支離滅裂だと、吐き気まで覚える」
アローディスは苦々しげに言い放つ。
構成要素だとか、なんだとか、紫苑には全くわからない話題に移って、取り残された紫苑は、ぼぅっと焚き火の揺らめく炎を眺めていた。
この世界も、季節は春のようだ。
さっきまでは穏やかな陽光が降り注いでいたが、アローディスのアビリティで夜に変わると、夜の冷え込みがグッと押し寄せてきた。
話が始まる前にザックが手渡してくれた毛布を体にきつく巻きつけると、少しは寒さが和らいだ。
「予想される次の『使徒』は------」
会話するみんなの声が、意識の淵に押し寄せては沈んでいく。揺れる炎に顔を照らされ、紫苑は襲ってくる眠気に抗えないほどに強力な疲れに翻弄されていた。
目の前の炎が揺れているのは、錯覚だ。
正しくは紫苑の頭が前後左右に揺れている。
ずーっと前に深く沈み込んで、ギリギリの所でかくんと首がブレーキをかけて現実に呼び戻される。
何回かそれを続けた後、紫苑の頭は、何か温かく柔らかい物に触れた。
重いまぶたを残った気力を振りしぼって持ち上げると、不機嫌そうなアローディスの顔が、間近にあった。