3章・焚き火の周りで③
リスラスは何度か深呼吸をして、意を決したように堂々と顔を上げた。
「僕はここに飛ばされる直前に、町のようなものを見ました」
「町------?」
よほどイライラしているのか、人差し指で自分の膝をコツコツと弾いていたアローディスは、リスラスを見る。
と言うか睨む。
案の定、リスラスはビクッとして俯きかけたが、拳をきつく握って、アローディスを見つめ返した。
ザックとルナセルが、驚きで目を見張る。
たぶん紫苑も同じような顔をしていることだろう。
リスラスの頬を伝った汗が、焚き火の揺らめきに合わせて艶やかに光る。
「はい、町です。人間らしき人の姿も見えました。そんなに大きな町ではなさそうでしたけど、そこで情報収集をしてみてはど、どうでしょうか!?」
最後などは、もう叫ぶような感じになっていたが、はっきりと自分の考えを言い切った。
しかも牙を剥く狼に向かって。紫苑の心はリスラスにスタンディング・オベーションをしていた。
言い切ってから、思い出したようにアローディスから視線を逸らし、再びおどおどするリスラスはちらちらとアローディスを盗み見ている。
アローディスは深いため息をついた。
「やればできるではないか」
突き放すような冷たい口調だったが、紫苑にはそれがアローディスなりの精一杯の褒め言葉だったのがわかった。
だが、悲しきかな。
アローディスの褒め言葉は、リスラスによってあきれられたと捉えられたようだ。
リスラスは泣きそうな顔になって、俯く。
後でフォローを入れなければと、紫苑は責任感に駆られた。
「だが、妙案だな」
「ん------?」
小さくつぶやかれたアローディスの言葉を、ザックが聞きなおす。
「ほら、そういう事は大きな声で言ってやれ。全く、素直じゃない」
アローディスは怪訝な顔をしたが、すぐに元の表情に戻る。
そして何度かわざとらしい咳払いをしてから、先ほどより少しトーンの大きい声で述べる。
「町で情報を集めるというのは、“妙案”だな」
「------------!!」
びっくりした顔をしたのはリスラスだ。
怒られていると思っていた所を急に褒められたら、誰だってそうなるだろう。
呆然としているリスラスに、隣からルナセルがそっと言う。
「アローディスは、リスラスの考えが“妙案”なんだって言ってるよ」
声も上げられないのか、ただ頷くリスラス。