3章・焚き火の周りで②
紫苑の言葉に、リスラスはおずおずと俯いた。
感じなくていい責任を感じてしまっているようだ。
いい子なんだな、と紫苑は思った。
リスラスは素直で、優しくて、とてもいい性格をしている。
そんな子に、こんな責任を感じさせている侑梨が許せない。
場に充満する気まずい沈黙を破ったのはアローディスだった。
「済んだことは置いておこう。今更どうにかなるものではないしな。
それより、これからだ」
一同の注目はアローディスに集まる。
リスラスもおどおどと、困惑しながらアローディスを遠慮がちに見上げていた。
アローディスは全くその事など気にしていないかのように続ける。
「我々はこれからどこへ赴き、何をすればよいのか。
それが最優先で解決すべき問題だろう」
「ああ、その意見には賛成だ」
「僕も」
ザック、ルナセルは同意の言葉を発する。
リスラスの表情ばかり気にしていた紫苑は、そのタイミングを逃してしまい、アローディスが不機嫌そうな顔で紫苑の方を見てきた時、大きく首を縦に振った。
アローディスはそのまま視線をリスラスに向ける。
条件反射か、リスラスは小さく首をすくめた。
「リスラス、お前に何か考えはあるか?」
ザックが優しく問う。
「あぅ……え、えと------」
「言いたいことははっきり言うんだな。
私の怒りが爆発する前に」
「------------ッ!!!」
冷ややかなアローディスの視線と言葉の会わせ技に、リスラスは声をなくす。
ぷるぷる震えるリスラスを見て可哀想になった紫苑は、アローディスの肩に触れた。
「なんだ?」
仏頂面で紫苑までもを睨みつけてくるアローディスに、紫苑はあくまでも大人の対応で、優しく声を発した。
「アローディス、それはもはや脅迫になってるから」
「脅迫ではない。忠告だ」
イライラモードのアローディスをびくびくとうかがいながら、リスラスの視線は焚き火と紫苑を行ったりきたりしている。
紫苑はできるだけ優しそうに見えるであろう笑顔を作って、リスラスに微笑んだ。
リスラスが少しだけホッとした素振りを見せて、紫苑も胸を撫で下ろした。
「あの、僕は……」
横目でアローディスを盗み見しながら、がんばって発言しようとするリスラスに、紫苑はギュッと拳を握った。
心の中での応援が、表に出てしまった形である。
ふと見ると、ザックもルナセルも拳を握りしめていた。