3章・焚き火の周りで①
紫苑とルナセルが集めてきた薪にザックが火を熾し、アローディスがアビリティで立派なテントを三つ作り出したのは、それから一時間後の事だった。
紫苑、ザック、アローディス、ルナセル、リスラスの五人は、ぱちぱち爆ぜる火の粉をあげる焚き火を囲んで腰を下ろしていた。
薪を集めている最中にルナセルが仕留めた鹿の肉を夕食にした後、一同はリスラスの話を聞くべく大人しく座っていた。
「あの時、体がフワッて浮き上がる感じがして、何か旋律みたいなのが聞こえてきたんです」
ぽつりぽつりと話し始めたリスラスは、さっきまでの大人びた雰囲気は全くない。
ちょっと内気で、穏やかで、声はオカリナのように優しく響く、普通の気の弱い少年だった。
「------それで?」
その隣にあぐらをかいて座っているザックは、続きを促す。
リスラスは内容を整理しているのか、唇をへの字にして黙ってからゆっくりと開く。
「それで、体中にだんだん旋律が……侵入してくるような感じがして、目の前が暗くなって、それでその------」
「気づいたらここにいて、私達にグランドアビリティを使ったという訳か」
アローディスの鋭い指摘に、リスラスはビクッと肩を跳ねさせた。
指摘した張本人は、何故驚かれたのか、不思議そうな顔で思案していたが、理由は本人以外の誰もが気づいている。
アローディスの言葉自体は間違っていないのだが、その口調が余りにも辛辣なのだ。
紫苑はもう慣れてしまったが、今のリスラスは先ほどまでとは違う。
腹を空かせた狼の前にうっかり飛び出してしまった子ウサギのように、ふるふると震えている。
ルナセルはクスリと笑いながら、リスラスにその笑顔を向けた。
「大丈夫だよ、アローディスは怒ってる訳じゃないから」
リスラスは不安げにこくこくと頷いたが、完全にバリアを解いた訳ではなさそうだ。
ザックが真剣な目で紫苑を見据えた。
「佐伯侑梨------といったか、そいつ。
一体何者だ?」
「わからない」
紫苑は正直に述べる。
今日会ったばかりで、二言三言会話しただけの間柄だ。
そんな短時間で相手の本質を探れるなど、エスパー以外にありえない。
生憎ながら紫苑は至って普通の人間だ。
そんな能力は持ち合わせていない。
「あの……僕、皆さんにご迷惑を……」
俯くリスラスに、紫苑は微笑みかける。
「気にしないでよ。
やりたくてやった訳じゃないんだから」