3章・【ザ・リーフ】⑨
「あいつを、始末しないとな」
そう言ってリスラスに近寄ろうとするザックの服を、紫苑は思わず掴んでいた。
「ん、なんだ?」
怪訝そうな顔をしてザックは紫苑を振り返る。
紫苑は服を握る手の力を更に込めた。
「始末するって------殺すってこと?」
紫苑の手は震えていた。
襲ってきたリスラスに応戦するのは仕方ないとは思う。
だが、だからといって殺すのは間違っている。
------というか、紫苑は目の前で人が死ぬかもしれないということが怖かったのだ。
そんな紫苑の心境を察したのか、ザックは紫苑の手に自分の手を重ねた。
「殺しはしない、大丈夫だ」
大きくて、力強くて、何より温かい手。
それは太陽の『使徒』なのだから温かいのは当たり前なのだろうが、じんわりと伝わってくる温もりは、明らかに人間のものだった。
ザックの言葉に安心して、紫苑は服から手を離す。
元あるべき位置に戻ろうとする紫苑の腕をザックは掴んだ。
「紫苑も一緒に来い。
きっと、お前の力が必要だ」
強く引っ張られて、紫苑は抗う術もなく、リスラスの方へと半ば強制的に連れていかれる。
リスラスは、微かな寝息をたて、先ほどまでの険しい顔とは打って変わって、年相応の柔らかな顔つきに戻っていた。
「紫苑、ルナセルの【カード】を持っているな?」
ザックはそのそばにしゃがみ込むと、紫苑に問う。
紫苑はカードをしまった制服のズボンのポケットからアローディスのカードとルナセルのカードの二枚を出した。
そして、アローディスのカードだけをポケットにしまい直すと、ルナセルのカードをザックに差し出した。
「持ってるよ」
「よし」
ザックは紫苑からカードを受け取ると、絵の描かれた方を表に向けて、語りかけた。
「ルナセル、起きろ」
すると、その声に呼応するようにチカチカとカードが光った。だが、その光はすぐに消え、また普通のカードに戻ってしまった。
ザックが苦々しげに言う。
「あいつめ、二度寝しやがった……」
【カード】状態の『使徒』が二度寝などをするのか------。
紫苑は想像して、クスクスと笑ってしまう。
ザックは何度も声をかけていたが、面倒くさくなったのか、不意にカードをペシリと叩いた。
『痛ったぁ!』
カードから声が聞こえてくる。それはルナセルの声に間違いなかった。