3章・【ザ・リーフ】⑧
「このとおり、大丈夫だ!」
ザックはニヤリと笑って、グッと力こぶを作ってみせる。
丸太のような太くたくましい腕が更に盛り上がる。
そしてうずくまるアローディスを見て、微笑んだ。
「ありがとうな
もう大丈夫だ、【カード】に戻ってくれ」
アローディスは苦しそうに顔を上げて苦笑いする。
「薄情な奴だ」
そう言うと、アローディスの体を黄緑色の光が包み、ルナセルと同じ、長方形のカードに変わった。
地面に落ちたそれを、紫苑は拾い上げる。
三日月の弧の部分に腰かけ、分厚い本を読む長髪の男。
カードに描かれた姿は、まさにアローディスそのものだった。紫苑はザックの背中を見上げる。
「アローディスは、ザックに何をしたの?」
「また後で教えてやるよ」
ザックの目は、木立の中からヨロヨロと立ち上がるリスラスを見据えていた。
リスラスの口の端からは、唇が切れたのか紅の血が一筋、顎に伝っている。
リスラスは唾液に混じった血を吐き出しながら、憎々しげにザックを見た。
「何故だ------?
僕の攻撃は急所に当たったはずだ。
内臓が潰れててもおかしくないのに……。
なんで、なんで------」
今にも泣き出しそうなリスラスに、ザックはなだめるような穏やかな声で話しかける。
「アローディスのアビリティ、【ナイトフェル】がもたらしたのは、夜。
夜は太陽の輝きを強くする。
そう、ちょうど闇の中の光が、まばゆく輝くようにな」
リスラスは、ハァ、ハァと肩で息をして、近くの太い木に寄りかかった。
「そんなの------、知らなかったよ。
勉強不足、か……な……」
リスラスの体から力が抜け、細い体はずるりと木に背中を預けて、座り込むように意識を失った。
ザックは、大きく息を吐く。
「終わった------な」
紫苑はへなへなと地面に座り込んだ。
安心したのか、体の力が抜けてしまったようだ。
ザックは父親のような温かい笑みを浮かべて、紫苑の腕を掴むと優しく立たせた。
「ありがとう」
紫苑がお礼を言うと、紫苑はやんわりと首を横に振った。
そして、紫苑が持っているアローディスのカードを見ながら言った。
「俺は何もしてないぞ。
アローディスの知識と機知に救われた。
礼を言うならあいつにだ」
それはそうと------と、ザックはリスラスを見た。
リスラスは眠っているようだ。すぅすぅと小さな寝息をたてている。