3章・【ザ・リーフ】⑥
「いや、すまない。
お前がなんとも見当違いの事を言うのでつい、な」
「見当違い------?」
リスラスの表情が曇る。
アローディスは射抜くようにリスラスの目を見つめた。
「私はこの自分の状態で、お前に勝てるなどとは全く思っていない」
リスラスはムッとして叫んだ。
「じゃあ、僕は見当違いじゃないじゃないですか。
見当違いはあなたの方だ」
再びアローディスは、リスラスを馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「そう急くな。
“急いては事を仕損じる”という諺を知っているか?
急いで得な事など、この世には数えるほどしかない」
「ッ!------------」
リスラスはアローディスの言葉に悔しそうな表情を浮かべ、何か言い返そうと口を開きかけたが、苦々しげに口を閉じた。
アローディスは満足そうに頷いた。
「それでよい、年長者の言うことは素直に聞くのが一番だ」
「早く僕を見当違いと言う理由を聞かせて下さい」
リスラスはイライラしているようだ。
無意識なのか、足が小刻みに動いている。
その時、アローディスが激しく咳き込んだ。
「うっ------ゴホッゴホッ!!」
「アローディス!?」
紫苑は慌ててアローディスの背中をさする。
しばらくして、咳が収まってきたアローディスは、自分の背中に当てられている紫苑の手を、優しく掴んで外した。
「無理はしない方がいいのではないですか」
「お前のせいだろう」
涼しい顔のリスラスに、アローディスは嫌みのように言う。
リスラスは返事をしない。
無言で自分が見当違いと言われた理由を催促しているようだ。
「結論から教えてやろう。
私自身は、お前に勝てるなどとは全く思っていない。
私“自身”はな------」
“自身”の部分を強調して言うアローディスに、リスラスは首を傾げる。
「一体、どういう------!」
リスラスは怒鳴りかけて、ハッと目を見開いた。
その瞳には、戸惑いと焦りがたたえられている。
「こういうことだ------」
アローディスがニヤリと笑ったのを紫苑は見た。
ゆっくりと静かにアローディスの唇が動く。