2章・旅立ちの決意①
二号館の三階、医務室。
学校の保健室をイメージしてもらうとぴったりだろう。
薬品の匂いがツンと鼻をつき、茶色いサッシがはめ込まれた窓の外から差し込んでくる夕日が、紫苑の横顔を煌々と照らしていた。
小さなパイプ椅子に腰掛けた紫苑は、目の前の清潔そうなベッドで眠っている相模の顔を見つめている。
紫苑を庇った時の相模の頭部の傷を治療していたアローディスは、ピンセットにつまんだ脱脂綿をゴミ箱に捨てると紫苑に向き合った。
「何があったんだ?」
部屋の中には、窓辺にもたれるザック、扉の近くにしゃがんでいるルナセル、そしてアローディス。
灯馬家の三人の居候達がこの部屋に集結している。
紫苑は暗い目でアローディスを見つめ返す。
「実は------」
「ふむ、そのようなことがあったのか……」
三人は紫苑の話を途中で遮ることなく聞いてくれてから、ザックが頷きながら相槌を打った。
紫苑は目の前で厳しい目をしているアローディスに心の底から聞いた。
「教えて下さい。
何が、起こったんですか?」
「------------」
アローディスはむっつりして、紫苑を睨むように見つめたまま口を開こうとはしない。
ザックがアローディスに言う。
「アローディス、起こったことだ。
今更どうすることもできない。紫苑にも知る権利はある」
「そうだよ、教えなかった僕等も悪いんだしさ」
ルナセルも口を尖らせて言うと、アローディスはハァッと大きく息を吐き出す。
イライラしている感情を全て胸の中から排出しているかのように見えた。
「今回の件を説明するには、まずは我々のことを説明する必要があるだろう」
アローディスは眉間にシワをギュッと寄せていて、そんなに思い詰めたような表情をしていたら、眉間からシワがとれなくなるのではないかと紫苑は少し懸念した。
アローディスはボソボソと話し始めた。